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殺し屋の金魚掬い
僕のカノジョは殺し屋だ。血塗られた汚れ仕事。でも、それを感じさせないほど、浴衣姿の彼女はとても綺麗だった。
「ねえ、あれやってみたい」
綿飴を片手に持ちながらカノジョは空いた手で一つの屋台を指さす。
金魚掬い。夏祭りの定番の一つだ。カノジョは目を輝かせながら僕を見る。せっかくのデート。楽しまなければ。僕たちは金魚掬いに行った。
「はい、ポイの網がなくなるまでね」
お金を払い、水の入った器とポイをもらう。カノジョは早速目の前の金魚に視線を注いだ。そして、目にも見えぬ速さで水槽に入った金魚を掬っていく。カノジョの姿にその場にいた全員が釘付けになった。店主は「もうやめてくれ」と言わんばかりに悲しい表情で見ている。
さすがは殺し屋だ。僕は感銘を受けつつ、カノジョの持った器を見た。
カノジョの掬った金魚は漏れなく一匹も動いていなかった。




