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古本屋の著者と読者
「柿谷先生……」
古本屋で買い物をしていると、好きな作家さんを発見し、思わず声が漏れる。彼女は僕の声に反応して、「何でしょうか?」と問いかけた。
「ファンです。その……いつも素敵な作品をありがとうございます」
せっかく返答していただいたので僕は作家さんに感謝を述べた。そこで一つ嫌なことに気づいてしまった。今持っている本の著者が彼女なのだ。
『作家は自分の作品を古本屋で買ったことを明言してほしくない』とSNSで見た。リアルではあるが、今まさにその状況ではないだろうか。
しかし、彼女は一切嫌な顔をせず、朗らかに「ありがとう」と言った。
「古本で買ってしまいごめんなさい。いやですよね」と思わず漏らす。
「そんなことないですよ。見た感じ、中高生くらいですよね。大事な小遣いで私の作品を買ってくれてありがとうございます」
その言葉でさらに彼女を好きになった。将来は新品を買おうと思った。




