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夢のホールケーキ
幼い頃、ホールケーキを食べるのが夢だった。
だが、貧相な家庭だったため誕生日ケーキを食べることすらできなかった。いつかは絶対食べたいとお店に置かれたレプリカをよく眺めていた。
時が経ち、成人を迎えると幼い頃の夢は薄れていた。稼いだお金でケーキを買うことはあってもホールケーキを買うことはなかった。
さらに時が経ち、結婚をして、子供を授かった。家計にかかるお金が高く、幼い頃と同じく誕生日ケーキを食べられなくなってしまった。
慌ただしい毎日を過ごしているうちに還暦を迎えた。
私の誕生日、夫がケーキ箱を片手に帰ってきた。
「記念すべき六十歳だから派手に祝おう。大きめのケーキを買ってきた」
夫は恥ずかしそうにしながら箱からケーキを取り出す。中から現れたのは『5号サイズのホールケーキ』だった。私は思わず手で口を覆った。
幼い頃の夢は数十年越しに叶えられることとなった。




