夏
出会ってから数ヶ月が経った。
照りつける日差しが地面を焼く中、家にある風の通り道を全開放し、日陰に座っていると汗が肌を伝うのがよくわかった。
「夏はなんでこんなに暑いんだ……」
「太陽が長い間空にあるからでしょう」
隣に座る不老不死女・アサヒは気兼ねなく団扇をあおいですずしげな表情をしている。
ああそうとも、夏あついのは大体お天道様のせいだ。けどな……
「今年は絶対コレのせいもあるだろうよ!」
オレは自分の左手とアサヒの右手ががっしり握り合っている状況に目を向けて叫んだ。
「仕方ないじゃないですか。私の不老不死は、あなたの能力でも殺せているのかどうか分からない。だから、ずっと繋いでおかないと死ねない可能性すらある」
「だからって夏の暑いなかでも繋がなくたって」
「じゃあ、これから涼みに行きましょう」
言うが早いか、彼女は立ち上がって身支度を始めた。
「おいおい、いくってどこに?」
「この近くに小川があるんです。人目にもつきませんし、涼しいのでいいですよ」
オレの手を左手と右手で交互に繋ぎながら、器用に着替えていく。さらにはオレの着替えまで済ませていく。そしていつの間にか使用人に作らせていたお昼ご飯の包みを手に取って、いざ小川へと玄関を飛び出した。
──*──*──*──
「おぉ〜、冷てぇ〜」
「想像以上にいいですね」
小川について早々、履き物を脱いで水に足をくぐらせた。川の流れは穏やかで、少し遠くに目を向けると、日の光を受けてキラキラ光る魚のかげも見える。
「しかし、セミもうるさいな」
「木々が多いですからね。仕方ないです」
そういえば、と。アサヒはこちらに顔を向けてきた。
「イツキさんは、『鳴くセミよりも、泣かぬ蛍が身を焦がす』という言葉について、どう思いますか?」
「どういう意味なんだ?」
「おおっぴらにものを表す者よりも、うちに秘めている者の方が、遥かに心中の想いに痛切なものがある、という言葉です」
「はっ。馬鹿馬鹿しい」
やっぱり人間はクズばっかだ。
「そいつが表現してることだけで、そいつをわかった気になってるのが気に入らねえ。どっちがもっとすごいもんを抱えてるかなんて、他人がどうこう言うの自体めんどくせえ」
「ははは」
「なんだよ」
「私も同意見なので」
「ほう、そりゃ奇遇だ」
「蛍が物言わず身体に光を灯すのも、セミが鳴くのもモノは同じ。どちらも変わりません。気にいるかどうかは変わりますけどね」
「ここは綺麗な川だし、蛍もいたりするのか?」
「ええ、夜になれば綺麗に川辺に蛍の光が見えますよ」
「ふ〜ん」
「見にきますか?」
「どっちでも」
「なら、私が見たいのでまた夜に来ましょう」
「ふん」
どうってことない会話をして、長い日がだんだんと落ちていくのを見送った。