第1話 どうも、強い雑魚です
どうも、強い雑魚です。
HP50000超、物理攻撃回避率95%、常時、魔法系攻撃の被ダメージ半減、掛けられた魔法を跳ね返す状態。パーティー全体に、最大HP1/2分の割合ダメージ攻撃、パーティー全員に4500オーバーの被ダメージの炎属性攻撃。ダメージを受けると対象の現在HPの半減+状態異常の攻撃を、命中率99%でカウンター2連続使用。パーティーの内1人を、戦闘から強制離脱させる特殊攻撃あり。
俺を倒す方法はいくつかあって、例えばカウンターを発動させることなく連撃で一気に倒したり、時間を止めて動けなくしたり。
そうしないと、反撃で全滅しちゃう。
他にも色々殺り方はあるけど、どれもちょっと初見では難しいかも。
所で、雑魚って言葉に、量産型のイメージをお持ちではない?
俺はボスじゃないから、雑魚にカテゴライズされてるだけで、俺しかいないの。
みんな違ってみんないい、誰もがみんなオンリーワンって話じゃなくて、なんて言ったらいいの?
とにかく、俺はこの世界に一人しかいない、強い雑魚。
そんな強い雑魚の俺、普段何をしているかと言うと、次元の狭間という名の洞窟でひたすら勇者を待っている。
ボスでもないから、決められた場所でドンと構えたりもせず、ひたすらプラプラし、勇者に遭遇したら戦う。それが、ラスボスの魔王から請け負った、俺の仕事。
そうは言っても、こんな所に勇者が来る事は稀。
なので最近は、ひたすらスプラトゥーン3をしている。
俺は、スシコラが好き。ボムが使い勝手いいし、トリプルトルネードで、いい所にいるチャージャーを強制移動できるのがいいよね。
あと黒ザップ。わかばシューターとかスプラシューターが、ズドドドドなら、黒ザップはドゥルルルル。好き。
あとね、スーパーチャクチについて語りたい。あれって、何故ヒーローモードだけなの? 俺あれ大好きだったんだよね。スーパージャンプチャクチ、カッコよかったなぁ。大好きだったのアレ。発動中に狩られるから、俺は使わなかったけど。
そんな強い雑魚の俺には、一つ悩みがある。深刻な悩みだ。そのせいで、ウデマエがS+に上がれない。本当、何回昇格戦やらせるの? 何なの? 俺が下手なの? 下手なんだろうなぁ〜。
俺の悩み、それは……。
魔王が買ってくる服がダサい。
ここって、近くにスーパーもショッピングセンターもなくて不便な場所だから、生活必需品は定期的に送られてくるんだけど、こっちに選択権ないの。
服は、魔王が選んでるらしいんだけど、それがもう、ダサくて……。
何だ、そんな事かとお思いかもしれない。
だが、考えてみて欲しい。引きこもりが、引きこもりに送る服を。
ダサい。絶妙にダサい。
これを着て過ごすのかと思うと、生きる気力を失う程にダサい。
一つくらい奇跡的に使える服があるのでは?とお思いの事でしょう。
ない。一つもない。
今時、あんな服どこに売ってるの?って服買ってくる。
何でなの? どこで買ってるの?
俺もオシャレしたいよぉ。
すごくオシャレじゃなくてもいい、人並みのオシャレがしたい。
そんな俺の、ささやかな願望を叶える方法は一つ。
勇者に殺される事。
勇者、俺を殺せ。
殺せぇー! 俺を殺せぇー! 俺を殺して、この次元の狭間から解き放ってくれぇー!
ハァッハァッ……。
そういう訳で、俺は勇者が来る事を切望している。
ただ、自分で言うのも何だけど、俺を倒したからといって、何かいいものが貰える訳でもない。強いて言うなら、俺を倒したという名誉と経験値。俺だったら、わざわざ挑んだりしないけど……。
「こんにちはー」
「ん?」
次元の狭間に響く、爽やかな声。
勇者っぽい鎧に身を包んだ青年が、光を纏う様な笑顔で、俺に声を掛けた。
おでこを出し自然に分けた前髪と、遊ばせているのか、寝癖なのか分からないけど、いい感じにクセのあるアッシュブラウンの髪。
髪と同じ色の意志の強そうな瞳、シュッとした鼻筋と洗練された輪郭。
清廉潔白な雰囲気、圧倒的ビジュアル……。
「まさか……貴様……」
「勇者ですけど、殺してもいいですか?」
キター! 勇者キター!
礼儀正しい……。
これが勇者かぁ。圧倒的モテ感。
殺す気満々なの好感持てるなぁ。
よし、いいぞ! 俺を殺せぇー!
思わず目が爛々とする俺。
「おい、いちいち殺す前に許可を取るな」
勇者の後ろに立つ小柄な人物が、小言を言う。
白いローブを羽織り、肩につかない長さの前下がりの髪は白く、左眉の上で分け目をつけている。
目尻の上がった、ぱっちりした目は、サファイアブルー。
小さな鼻と口が、愛らしい雰囲気を出しているけれど、冷たい表情からはクールな印象も受ける。
魔法使い?
かっかわいい!
男? 女? 男の娘?
前飼ってた白猫思い出すなぁ。
青い目の白猫って、心身ともに繊細なんだって。
こんな所に来て大丈夫? こたつでぬくぬくしてて欲しいなぁ。
「でもコンセンサス得ておかないと、後で困るから」
勇者が、魔法使いの小言に笑顔で返す。
わぁー真面目ー。
さすが勇者、しっかりしてるなぁ。
「殺したらコンセンサスも何もないだろ」
本当そうだよねー。
さすが白猫魔法使い、かわいいなぁ。
「いいぞ殺して」
勇者ご一行に向かって、同意する。
「俺を殺せ」
これでコンセンサス取れただろ?
早く殺って。
「え? 何で殺されることに前のめりなんだよ。怖っ……」
白猫魔法使いが、俺に疑いの目を向ける。
「何か罠があるんじゃ……」
しまった……!
俺の純粋な願望が、別の意味で捉えられてしまう!
「こら。疑う癖、良くないぞ。殺されたいって言ってるんだから、殺してあげないと」
勇者……。
真面目通り越してサイコパス。
「では、同意を得たものとして進めさせていただきますね。魔法使いは危ないから、下がってて」
「よし来い! 殺せ!」
いや〜長かった。
勇者と遭遇しないまま、次元の狭間という名の洞窟で、一生オシャレ出来ずに過ごす所だった。
パーティーが二人しかいない、勇者ご一行には本当感謝……。
「……」
何か急に不安になってきた。
俺、ちゃんと殺される?
まあ俺、カウンター全体攻撃だし、人数が多ければいいって訳でもないけど……。
あれだよね? いい武器持ってて、高ダメージの連続攻撃で殺るんだよね?
「よいしょ」
勇者が、木の剣を振り上げる。
「……」
木ぃー!?
木の剣って存在してたの?
そんなの俺の体、刺さらないよぉ……。
ねえ、俺、物理攻撃回避率95%だよ?
よく見たら、鎧も革だし。
ああ〜……不安だあ〜……。
いいの買ってあげるから、出直してくれないかなぁ。
「今日は、やっぱりやめない?」
「え? 殺すのNGですか?」
「いや、それはいいんだけど、死にそうだから……」
俺じゃなくて、お前らが。
中途半端な攻撃はやめて欲しい。
せっかくの勇者ご一行を反撃して、逆に殺しちゃうよお……。
白猫魔法使いが眉を寄せて、勇者に視線を向ける。
「何か嫌な予感がする。一度引き返した方が……」
白猫魔法使いの繊細さが、いい判断を生んでいる!
やっぱりかわいいだけあるなぁ。
そうだ、思い留まれ! しっかりいい武器持って、また殺しに来い! いつでも待ってるからぁ!
「いや、でもコンセンサス得たからには、殺さないと」
「……」
やめろサイコパス勇者。
お前は、コンセンサスがそんなに大事か。
それより命を大事にしろ。
「では、失礼します」
「ああああああ……! や、やめ……! ああああああ……!」
勇者ご一行は死んでしまった。
だから言っただろぉぉーーー……。