【短編】日本語がわからない銀髪ロシア美少女にエロい言葉を健全な意味と偽って教えてみたら学校生活詰んだ。そして奴隷が出来た
性描写はありませんがめっちゃエロい言葉が出てきます。
苦手な人はブラウザバック推奨です。
うちの学校には氷の女王がいる。
リュドミラ・マルティノヴナ・アヴェリナ。1週間前、突如としてロシアからやってきた留学生だ。
雪景色のような銀髪に透き通った翡翠の瞳。ファンタジーの世界からやってきた、と言われても違和感のない美貌は同性であっても目を奪われる美しさがある。
昼下がりの教室。今日も氷の女王に挑まんとする騎士が一人いた。
「リュドミラさん。少しいいかな」
クラスメイトの久保だ。
「……」
声をかけられた、氷の女王──リュドミラさんは無言。ちら、と翡翠の瞳を久保に向け、直ぐに手元の文庫本に目を戻した。
が、久保はそんなことお構いなしに彼女に話しかける。
「もしよかったら、一緒にお昼でもどう?」
「俺は他の男どもとは違う!」。彼の自信ありげな表情からは、そんな考えが見て取れた。久保はサッカー部の主将だ。成績もよく、見た目もいい。俺なら氷の女王をオとせる。そう考えたんだろう。
しかし、当のリュドミラさんは……
「……」
またしても無言。が、さすがは体育会系。少しだけムッとしたようだが、すぐいつもの笑顔に戻し、続けた。
「ほら、学食に新作が入ったらしくてさ。奢ってあげるから」
「……」
無言。久保の額に汗が浮かぶ。
「あ……も、もしかしてお弁当持ってきてた? それならホラ、一緒に屋上でも行ってさ」
「……」
無言。表情から余裕が消えた。くすり。クラスメイトの誰かが笑う。
「あっ……そういえば俺、先生に呼ばれてたわ! ごめんリュドミラさん、また今度!」
決まりが悪そうに額に汗を浮かべた久保は、そそくさと教室から出て行った。
「おいおい、久保でも無理なのかよ」「これで7人目だろ?」「さすが、氷の女王」
そう──これまでその美貌に惹かれた男子生徒が何人も言い寄ったが、彼女はそのすべてを断った。しかもただ断るだけじゃない。一言も交わさず、目すら合わせないのだ。そしてついたあだ名が「氷の女王」。
が、俺──霧崎エイジは知っている。
リュドミラさん、普通に日本語が喋れないのだ。
ちら、と俺はリュドミラさんを見る。
「ッ……ハァッ……!」
めっちゃ汗かいているし。どんだけ緊張してたんだよ。
ちなみに、さっきのやり取りの真相はこうだ。
「リュドミラさん。少しいいかな」
「!?!?」
「もしよかったら、一緒にお昼でもどう?」
「!?!?!?……???」
「ほら、学食に新作が入ったらしくてさ。奢ってあげるから」
「???????」
「あっ……そういえば俺、先生に呼ばれてたわ! ごめんリュドミラさん、また今度!」
「??????????????」
たぶんこんな感じ。
とはいえ、彼女がシンプルに日本語が喋れないアホの子であることを知っているのは俺だけだ。ほとんどのクラスメイトは「孤高を貫くクールな留学生」という幻想を抱いている。そう、彼らは今彼女が読んでいる文庫本の上下が逆さまになっていることにすら気が付いていない。
───────────
放課後。学校近くのドーナツ屋にて。
『遅かったですね。遅刻ですよ』
俺の目の前には、氷の女王。
『ごめんごめん。掃除が長引いちゃってさ』
俺が平謝りすると、隣でコーヒーを飲んでいたおばさんが不思議そうな目でこちらを見た。俺たちのロシア語が珍しいのだろう。俺とリュドミラさんを交互に見比べ、それから生暖かい視線を向けてきた。放課後デートのカップルとでも勘違いしたのだろうか。
だとしたらそれは間違いだ。
俺は1週間前に担任と交わした会話を思い出す。
「霧崎。お前、ロシアにいたって本当か?」
「親が石油会社に勤めていて……小学生の頃、サハリンに住んでいました」
「そうかそうか。それじゃ、頼んだぞ」
「え?」
「留学生の世話」
「はっ!?」
担任のパワハラヒゲダルマに断ったら内申点を下げるという脅迫もとい交渉を受け、俺は日本語が喋れない留学生の世話を任された。11月なんていうありえない時期の留学とか、そもそもなんで日本語喋れない留学生を受け入れるんだとか。気になって聞いてみたところ、「本人の強い希望と大人の事情」とのことだった。この高校は私立高校だ。恐らく、強引にでも留学生を受け入れることによって色々なメリットがあるのだろう。それに巻き込まれた俺としてはたまったもんじゃないが。
そう、つまり俺はリュドミラさんの世話係なのだ。リュドミラさんは2か月で帰国するが、その間に彼女をサポートして無事に留学を終えられるようにするのが俺の役目。こうして放課後に集まったのは日本語を教える為だ。
『掃除が長引くならそうと言ってくれればいいのです。どうして私から逃げるのですか』
『何を言ってるのかわからないな』
『とぼけないでください! 私が学校で話しかけようとすると、すぐ逃げるじゃないですかっ』
ぷく、と頬を膨らませるリュドミラさん。
サポート役とは言ったものの、俺は校内でリュドミラさんと極力話さないようにしている。悪目立ちしたくないからだ。こうして毎日の放課後「氷の女王」と密会していることが知られれば、どんな噂をたてられるか知ったものではない。日本語を教えていると言っても、恋愛脳な高校生は聞く耳を持たないだろう。それに嫉妬に狂った男子たちから何をされるかわかったもんじゃないし。
とはいえ、俺はリュドミラさんにそのことを伝えていなかった。ただでさえ日本語を学ぶことで手一杯なのに、余計な心配をさせてこれ以上彼女に負担をかけたくなかったからだ。
しかし、彼女はそんな俺の気遣いを知らない。
『エイジさんは意地悪ですっ。信じられません』
『悪かったって。許してよ』
『……ドーナツ』
『え?』
『ドーナツ3つで手を打ちます』
こ、このアマ……! こっちが下手に出ればつけあがりやがって。
イラっとした。が、俺はそれを呑みこんだ。
仕方がないので適当に買ってきた3種類のドーナツを献上すると
『センスのないチョイスですね』
反射的に机をひっくり返したい衝動に襲われるが、ギリギリ堪えた。
『そ、それじゃあ。勉強はじめよっか』
『もぐもぐ……よろしくお願いします……もぐ』
それから1時間ぐらい経過した。
『少し休憩しようか』
『はい』
さっきまでかなり集中していたせいか、心地よい疲労感がある。
俺は買ってきたドーナツをかじりながら、ぼーっとリュドミラさんを眺める。すると目が合った。お互い、なんとなく気まずくなって目を逸らす。
このまま黙っているのも変だし、適当に世間話でもするか。
『そういえばさ』
『ふぁい?』
『リュドミラさんはどうしてこっちに来たんだ?』
フレンチクルーラーをぱくついたまま間抜け面を晒しているリュドミラさんに俺は問いかけた。
『どういう意味ですか』
『ほら、留学するには目的があるだろ。語学力を身に着けたいとか、将来は日本で働きたいとか……』
俺の問いに、どういう訳かリュドミラさんは少し慌てるような動作を見せた。それから……
『会いたい人がいるんです』
『へぇ。どんな人なんだ?』
『幼馴染です。小学生の時、仲が良くて』
『その人も日本に留学してるのか』
『いえ、彼は元々日本に住んでいて、昔、親の都合でロシアにいたんです』
『なるほど』
『昔の私は、引っ込み思案で、友達もいなくて……でも、彼はいつも私と遊んでくれました。自分も慣れない海外で大変だったはずなのに』
なんか語りだした。正直どうでもいいんだけど、まぁ適当に喋らせておくか。
『私と彼が過ごした時間は3年間です。たった3年と思うかもしれません。けど、私にとってその3年間はとても貴重で、輝いていたのです』
『はえ~』
『彼が日本に帰ってしまうと知って、私は大泣きしました。あまりにも悲しかったんです』
『うんうん』
『けど、彼は私に「離れていてもずっと一緒だよ」って約束してくれたんです。「いつか絶対、ロシアに迎えに行くから!」とも言っていました』
『わかる』
『言ってくれました。ええ、そう言ってくれたんです……』
『う、うん。そうなのか』
『言ってくれたんです!! なのに……っ!』
いきなりヒス気味に叫ぶリュドミラさん。え、なんでこんなヒートアップしてんの。海外の女ってみんなこうなのか? 怖っ……。
『そ、それで。その男とは会えたのか?』
『はぁ!?』
『ど、どうして俺を睨むんだよ』
わけがわからない。なんだよこのキ〇ガイ女。
『そ、そろそろ授業に戻ろうか』
『……嫌です』
『え』
『エイジさんとはこれ以上話したくありません』
『なに訳のわからんことを言ってんだよ……』
思わず語気が荒くなる。まるで蓋が開いたように、俺の中で怒りが湧き上がってくる。
そもそも、俺はタダでこいつの面倒を見てやってるのだ。本来家庭教師の相場は1時間2千円程度で、俺はそれを毎日2時間、週5でやっている。一週間に2万円貰えるぐらいの働きをしているのだ。が、目の前のアホミラ(アホのリュドミラの略)はそんなこと考えもせずにドーナツをたかってくるだの悪態をつくだの散々な態度だ。幼馴染とかなら許せるが、俺とこいつは他人。距離感間違えてんじゃないのかね。
おまけに留学の理由も腹立たしい。幼馴染? はっ。結局男じゃねぇか。別にリュドミラさんが誰と恋愛しようと知ったこっちゃないが、俺はこいつの身勝手な留学のせいで面倒ごとを押し付けられたのだ。その原因が色恋とか……美少女じゃなかったらビンタしてるぞ。
今すぐにでも席を立って出ていきたいが、リュドミラさんを無下にすると内申点が落ちる。推薦進学を狙っている俺にとってそれは避けたい。
「……彼女がこんなのじゃ、日本にいる彼氏さんはさぞ大変だろうな」
そう悪態をつくのが精一杯だった。
今の日本語を聞いたリュドミラさんが問いかけてくる。
『「彼女」? それってどういう意味ですか?』
『恋人って意味だ』
『こっ、こいびと!?』
『さっきの幼馴染のことだけど……なんだ、違ったのか?』
『ちが……くわないといいますか。将来的にはそうなる予定といいますかっ。いや、最早恋人を超えて──』
『あーわかったわかった。惚気なんて聞きたくない』
『……むぅ』
別にこいつの好きな相手とか興味ないので、早く今日のノルマ分教えて帰るとしよう。
と思ったのだが、リュドミラさんはしばし沈黙。何か引っかかったらしい。
『あの、気になることがあるのですけど』
『気になること?』
『「彼女」。恋人を指す言葉と言いましたが、「彼女」とは女性を表す代名詞ではないのですか?』
『あー……』
女性を表す「彼女」と恋人としての「彼女」。どちらも同音語だ。だから「彼女は僕の彼女だ」なんて文章が成立してしまう。日本で暮らしていると意識することはないが、たしかに外国人は混乱するだろう。
『同音語……響きは同じでも意味が違うんだよ』
『不便ではないですか?』
『まぁ、文脈から判断すれば問題ない──』
ここで俺はあることを思いついた。
リュドミラさんはさっきまで俺に悪態をついていたことすら忘れているみたいだが、俺の心に灯った怒りの炎は消えない。復讐だ。でなければ俺の気が済まない。この生意気な氷の女王サマを、どうにかして一泡吹かせてやらなければ。
『実は「彼女」以外にも恋人の女性を表す言葉があるんだ』
『本当ですか?』
『あぁ。その言葉はな──』
俺は人目を気にせず、割とデカめの声で言った。
「おち〇ぽ奴隷だ」
隣の席のおばちゃんがギョっとした目でこちらを見る。
「オチ〇ポドレイ……」
「あぁ、おち〇ぽ奴隷だ」
『不思議な言葉ですね……。どことなくグロテスクで、でも、どこか優しい響き……』
優しくはないだろ。
『だから日本では告白の時に「私をおち〇ぽ奴隷にしてください!」って言うんだ』
『そうなんですか!』
『よし。復唱しろ』
「はい! 私をおち〇ぽ奴隷にしてください!」
「よし、上出来だ」
「えへへ~」
悪いなリュドミラさん。お前が幼馴染に告白したらドン引きされる呪いをかけさせてもらった。
でもお前がいけないんだぞ? 俺の貴重な時間を奪っておいて悪態をついたりするから。
まぁ、流石に関係が壊れたりはしないだろ。ドン引きはされると思うけど。いや、おち〇ぽ奴隷が嫌いな男はいないからひょっとしたら仲が深まるかもな。やれやれ、とんだ恋のキューピッドだぜ……。
『それじゃあ、「デート」は?』
『デートはデートだろ』
『いいえ。あれは英語ですよ』
『あー……』
逢引き、逢瀬。色々と言葉は浮かぶが……
「……ドスケベセッ〇スだ」
ガチャン。おばさんがコーヒーカップを落とした。
「どすけべせっくす……」
「あぁ、ドスケベセッ〇スだ」
年若い男女のデートの最終目的なんてセッ〇スなんだし、間違ってはいないだろ。むしろ巧みなレトリックまである。例えるならバイトを金稼ぎと言い換えるようなものだ。俺は何も間違っていない。
『そ、それじゃあ。「キス」って日本語でなんて言うんですか』
「絶対妊〇種付けプレスだ」
「流石にマズくね?」と思わなくもなかったが、リュドミラさんは日常会話が出来ない。学校でバレる心配もないだろう。
なんだか楽しくなってきちゃった俺は、その後も健全な日本語と偽って淫語を教え続けた。
「あ、俺のことはご主人様って呼んでな? 二人きりのときだけでいいから」
「わかりました! ご主人さま!」
そうして3週間が経った。
登校して、授業を受けて、放課後はリュドミラさんに淫……日本語を教える。なにか大きな変化が起きるわけでもなく、俺の日常は淡々と流れていった。ちなみにドーナツ屋は出禁になった。
が、唯一問題があるとすれば……
「リュドミラさん、おはよ~」
「おはようございますっ」
「いい天気だねー」
「はいっ。ぽかぽかしてて、いい気持ちです!」
リュドミラさんの語学力がめきめきと上達していることだ。
素直な性格もあってか、彼女はスポンジが水を吸うように知識を吸収していった。その水、汚水ですけどね。
一時は女王なんて呼ばれていたリュドミラさんだが、以外にもフランクなことが知れ渡りマスコットキャラとしての地位を確立しつつあったりする。
彼女がクラスに溶け込むことは喜ばしいのだが、地雷を設置しまくったこちらとしては気が気じゃない。あと一か月、俺の仕込んだ淫語がバレなければいいんだが……。
「ねーねーリュドミラさん」
「なんですか~」
「リュドミラさんは気になってる男の子とかいないの?」
「わ、わたしですか?」
心配で動悸がしている俺をよそに、クラスの女子たちはリュドミラさんを巻き込んで恋愛トークを始めやがった。
「ひ、秘密ですっ」
「秘密ってことはいるんだ」
「あ、あぅぅ」
「あ~真っ赤になっちゃって。かわい~」
俺の顔は緊張で真っ青だった。何かの拍子に彼女の口から淫語が飛び出してみろ。俺の人生は終わりだ。
そんな俺の心など知らない彼女たちはきゃいきゃいと恋バナを続ける。
「うぅ……い、委員長さんはいるんですかっ」
「わ、私!?」
「はいっ! わたし、気になります!」
「えぇ……その……実は、バスケ部の先輩が気になってて」
リュドミラさんに話を振られたおさげに眼鏡の委員長は、頬を染めてそう答えた。
安全保障のために耳を傾けていたせいで、委員長の秘密を知ってしまった。少し罪悪感がある。
それにしても意外だ。委員長ってもっと真面目な人がタイプなのかと──
「そうなんですか! 委員長さんは先輩のおち〇ぽ奴隷になりたいんですね!」
「……えっ」
あっ……。
お、落ち着け。大丈夫だ。恋バナということもあって、声は小さい。他のクラスメイトたちには聞かれてないから今ならまだなんとか──
「ごめんリュドミラさん。もう一回言ってくれる?」
「おち〇ぽ奴隷です!」
ざわ……ざわ……。
美少女が発したおち〇ぽ奴隷(バカデカ声)に教室がざわつく。まずい。ここでリュドミラのアホが俺に教えられたことをゲロりでもしたら俺の学園生活が終わる。下手すれば停学だ。
美少女が淫語を口にしているというのに我慢汁は垂れてこなかった。垂れるのは額の嫌な汗だけ。
袖で汗を拭い、高速で思考する。考えろ。どうすればこの窮地を脱せる? リュドミラさんを連れ出す?いやダメだ。すでにおち〇ぽ奴隷が放たれてしまった以上、今更手遅れだ。となれば放たれた言葉の意味を変えるしか方法はない。それなら──────
「ヴ……おち〇ぽ奴隷」
「え……?」
「ロシア語で『愛しい人』だ。おいおい、留学生がいるんだからちゃんと勉強しておけよ」
別の意味で上書きするしかない! 頼む、騙されてくれ……!
「そ、そうなのか?」「いや俺に聞かれても……」「ていうか、あのリュドミラさんが変なこと言うはずなくね?」「たしかに」
俺の咄嗟の機転により、クラスは次第に静まっていった。
あ、危ない。なんとか切り抜けられた。
ホッと一息つく。が、視界の端にリュドミラが何かを言おうとしていることに気が付く。マズイ──
「それで、委員長さん」
「ん?」
「もうドスケベセッ〇スはしたんですか?」
あー終わった。もうダメだ。
「ど、ドスケベセッ〇ス。ロシア語で『親密なデート』だ」
「……どう思う?」「いや……」「ま、まぁ。霧崎ってロシアに住んでたらしいし」「じゃあ正しいか……」
いや騙されるのかよ。
なんとか切り抜けられたが、もう次はないだろう。あまりのストレスで胃痛がしてきた俺をよそに、彼女たちは会話を続ける。
「私の話はもういいでしょ! 次はリュドミラさんの番ね」
「ふぇっ? ……や、やっぱり恥ずかしいですよぅ」
小さくうつむき頬を染めるリュドミラさん。やめろ委員長! これ以上その爆弾を刺激するな!
が、俺の願いは意外な形で裏切られることとなった。
「俺も混ぜてよ」
輪を組むようにして話していた女子グループに、突如として男が割り込む。
久保だ。突然の闖入者に女子たちは困惑したようだった。
「く、久保くん? こういう話に男子が混じるのは……」
「いいじゃんいいじゃん。そんなことより俺さぁ、見ちゃったんだよね」
リュドミラさんに振られてから大人しくなったと思ってたが……あのニヤついた表情。どうにも嫌な雰囲気だ。
「リュドミラさんと霧崎がデートしてるところ」
ざわっ、とにわかにクラスが盛り上がる。
「マジ?」「あの二人が?」「ありえない、つーか釣り合わないだろ」「でも、これまで全員振ってきた理由って……ひょっとしたら」「ありえるかも」
久保はざわつくクラスを見て満足そうに頷いた。
どうやら久保は、リュドミラさんに振られた腹いせに嫌がらせをしているようだ。放課後の勉強会のことが広まればあることないこと噂を立てられる。俺が恐れていた事態が起こってしまった。
俺はふつふつと心の中に怒りが湧き上がるのを感じていた。
自分が嫌な思いをしたからって、日本に来て不安なはずの留学生に復讐しようだなんて……あまりにも性根が腐っている。
どんな人生を送ってきたらそんな残虐な思考回路になるんだ? 同じ人間だと思えないぜ。
「おい久保。勘違いするなよ」
「勘違い?」
「俺はリュドミラさんに日本語を教えてただけだ。恋愛感情はない」
「いやいや隠さなくてもいいってw」
「隠してないっつの」
「まぁいいや。エイジには聞いてないし。そんでさリュドミラさん、どこまでしたの? ひょっとして──」
久保は俺と話すつもりはないらしい。まぁ、別にそれでいい。リュドミラさんが強めに否定してくれればこの場は収まるだろうし──
「キスとかした?」
あっ……
「ぜ、絶対妊〇種付けプレスなんてしてません!!」
クラスが凍った。
「ぜ……ゼティーニンシィン・ドゥネヅケ・プレ──」
「霧崎くん」
「はい」
「職員室いこっか」
委員長は真顔だった。俺はさっき「俺はリュドミラさんに日本語を教えてただけだ」と言ってしまった。つまり、彼女の淫語源が俺であると意図せず公言してしまったのだ。
「ち、違うんだ! これはれっきとしたロシア語であって……」
「いいから。黙って」
「ちょっと! リュドミラさんちゃんになんて言葉教えてんのよ!(ボコッ)」「トホホ……」みたいなオチを期待していた俺としては、事態の深刻さに舌を巻くばかりだ。おいおい、どうしてこんな状況になっちまったんだ。ちょっとふざけただけじゃねぇか。
「な、なぁ委員長。違うんだ。これはリュドミラさんが勝手に言ってるだけ。俺は一切関係ないって」
「絶対妊〇種付けプレスなんて言葉を一人で習得したってワケ? ありえないでしょ」
「ちょ……くくっ。委員長、絶対妊〇種付けプレスて……フフッ」
「笑わないでよ! 誰のせいだと思ってんの!?」
真面目な委員長の口から発される種付けプレスに俺の腹筋は限界だった。
「とにかく、職員室行くわよ」
「まってください!」
「りゅ、リュドミラさん……!」
委員長に引かれる俺の腕をリュドミラさんがぎゅっと引き留める。どうやら助けてくれるらしい。
思わぬ援軍に目頭が熱くなる。捨てる神居れば拾う神あり。嫌々ながらも日本語勉強に付き合ってあげた甲斐があった──
「ご主人さまに乱暴しないで!」
思いっきり背中から刺された。
「ごしゅ……え?」
「ご主人さまは自分の時間を使ってまで、私に色々なことを教えてくれたんです! 種付けプレスとか、ゲーミングち〇ぽ華道とか!」
「まってリュドミラさん! いいんだ! 後は俺がなんとかするから!」
「ご主人様、止めないでください! 爆乳ケモ〇コ大乳輪学会について教えてくれた恩、ここで返します!」
「リュドミラさんッ!?!?」
クラスは凍り付くどころか、最早虚無だった。俺という存在を人間と認識していない。「霧崎エイジはカス」。彼らの視線はそう物語っていた。
目のハイライトを消した委員長がリュドミラさんに近づく。
「ねぇリュドミラちゃん」
「は、はい?」
「ちょっと耳貸して」
「いいですけど……ひゃん」
委員長がリュドミラさんの耳に口を寄せる。くすぐったかったのか、リュドミラさんはかわいらしい声を上げた。
「あのね。おち〇ぽ奴隷っていうのはね…………っていう意味で」
「……は、はぇっ!?」
「ドスケベセッ〇スっていうのは……」
「……はわっ!」
「それで、絶対妊〇種付けプレスっていうのは……」
「……きゅう」
ばたり、とリュドミラさんは顔を赤くして倒れた。生娘には刺激が強すぎたらしい。
……いや、なんで委員長は全部の意味を知ってるんだ? 前2つはまぁわかるけど、最後のはJKが知れる単語じゃないだろ……。
「なぁ委員長。ひょっとしてゲーミングち〇ぽ華道の意味も──」
「死ね」
ぐすん。
「リュドミラさん、大丈夫?」
「は、はい……」
「というわけで、霧崎くんは日本語を知らないあなたにエッチな言葉を教えて楽しんでた最低野郎なの」
「……」
「そんなの、裁かれて当然だよね? リュドミラさんもそう思うでしょ?」
うん、俺も裁かれて当然だと思う。改めて聞くと最低だな俺。どんな人生を送ってきたらそんな残虐な思考回路になるんだ? 同じ人間だと思えないぜ。
が、リュドミラさんは頷かなかった。心配そうに俺を見て、それから何か覚悟を決めたように頭を振った。
「……違います」
「え?」
「エイジさんはそんな人じゃありませんっ!!」
いいんだ。いいんだよリュドミラさん。俺は最低野郎なんだから、しっかり罰を受けないと。
「でも──」
「違うったら違います! エイジさんは……その、優しい人なんです!」
「いやいや。無知なリュドミラさんにあんな言葉を教えて楽しんでたのよ?」
「それは……その」
流石のリュドミラさんでもこれ以上は擁護できないだろう。俺は来たるべき罰に備え覚悟を決める。
しかし。彼女は眉間にしわを寄せ、むんむん唸っている。この状況を打破する方法を考えているのだろう。
そして、何かを閃いたのかぱっちりと両目を開けた。
……少しだけ、嫌な予感がした。
「知って、ました」
「え?」
「知ってたんです。おち〇ぽ奴隷も、ドスケベセッ〇スの意味も!」
「それじゃあ、さっき私がバスケ部の先輩の……その、奴隷になりたがってるって言ったことと辻褄が合わないじゃない。言葉の意味を知ってたらあんなこと言うはずが──」
「い、言います! 言いますよ! だって私は──」
リュドミラさん……お前、そこまでして俺のことを庇ってくれるなんて。俺はこんな健気な子になんてことを──
「エイジさんのおち〇ぽ奴隷なんですから!」
……は?
「お、女の子が愛する人のおち〇ぽ奴隷になるのは当たり前です!」
「……ふ、ふぇっ!?」
「ドスケベセッ〇スももうしました!」
「……はわっ!」
「絶対妊〇種付けプレスも経験済みですっ! 嘘じゃありません!」
「……きゅう」
委員長は淫語マシンガンに耐えられず、ぱたりと倒れた。
待て。待てよリュドミラさん。おかしい。おかしいよお前。
あまりの急展開に呆気にとられるのも束の間、俺は暴走するリュドミラさんを止めるため立ち上がる。しかしそんな俺を差し置いて、彼女は高らかに宣言した。
「いいですか! これはわたしとエイジさんだけの問題です! 皆さんは何も言わず、わたしたちがドスケベセッ〇スするところを眺めてればいいんですよ!」
氷の性奴隷が誕生した瞬間であった。
──────────────
あの惨劇は瞬く間に全校生徒に知れ渡った。しかし噂というものには尾ひれがつきものだ。どうやら「1年D組の霧崎とかいう男が氷の女王を淫乱調教したらしい」という話が広まったらしく、俺の学校生活はめでたく終了した。
なぁリュドミラさん。たしかに「無知な留学生にエロい言葉を教えた最低野郎」というレッテルは貼られずに済んだけどさ。それと引き換えに「留学生を淫乱調教した最低野郎」なんて呼ばれるのは本末転倒なんじゃないかな。俺、間違ってないよね??
お陰ですれ違う女子から消しゴムを投げられたりシャー芯で刺されたりで散々だった。どういう訳か男子達からは一目置かれたみたいで、友好的に接してくるやるが大半だったけども。さっき久保から「男として完敗だ。弟子にしてくれ」と頼みこまれたが、あまりにも不快だったのでシャー芯でめった刺しにしておいた。
そんなわけで放課後。俺はリュドミラさんと屋上にいた。
「ごめんなさい」
俺は土下座した。プライド? ないよそんなもん。
「た、頼む。俺はどうなってもいい。だからそっちの大統領にだけは言わないでくれ。北方領土に加えて北海道まで取られるわけには……」
「何言ってるんですか。まったくもう……」
呆れた声。顔を上げると、リュドミラさんは小さく笑っていた。
「お、怒ってないのか……?」
「怒ってはいます。これからもっと怒るつもりです」
「あっはい」
「でも、その前に少し聞きたいことがあるんです。その……どうしてあんなことを?」
お前が憎かったから、なんて言える雰囲気じゃない。彼女の機嫌を損ねてみろ。真実を暴露されて俺は退学となる。だからここは最大限彼女に忖度した回答をすべき、という結論に至った。
「その……俺、リュドミラさんのことめっちゃ好きな感じで。だからエッチなこと言わせたかった的な」
1mmも思ってないことを口にしたせいかあまりにもふわっとした回答になってしまったが
「えぇ〜? ほんとですか? まったく、仕方ない人ですねぇ」
なんか許してもらえた。というかめっちゃ嬉しそう。リュドミラさん、ニコニコで草。
俺たちは屋上から校舎に戻る。階段の途中で俺はリュドミラさんに語りかけた。
「と、ところでリュドミラさん。あの、やっぱやめにしません?」
「なにを?」
「ほら、奴隷とか。今からでも遅くないから、やっぱり誤解は解くべきなんじゃ」
「あんな事を言ってしまったのですからもう後戻りはできません。これからエイジさんには私のご主人様として生活してもらいます」
事実上の死刑宣告だった。しかし、そう言うリュドミラさんはどこか嬉しそうだった。なんだこのイカレ女。
「まぁ、あと1か月だしいいか……」
リュドミラさんはあと1か月でロシアに帰る。そうなれば……まぁ、今より風当りが強くなることはないだろう。少なくともこの1か月間トラブルを起こさなければ、俺は無事に高校を卒業できるはず。
が、ここでリュドミラさんがなんとも不穏なことを言い出した。
「1か月ってどういうことです?」
「え、リュドミラさんがロシアに帰るまでの時間だよ」
「えっ」
「えっ」
お互い顔を見合わせる。何か致命的な齟齬が起きている。
階段を下ると、不意に呼び止められた。パワハラヒゲダルマ……じゃなくて担任だ。
「おー霧崎」
「あ、先生。何か用ですか」
どうやら俺を探していたらしい。
「悪いなー。俺、間違えちゃってたよ」
「……何を、ですか」
「2年と2か月、読み間違えちゃってたよ。なんかリュドミラさん。卒業まで日本にいるらしいわ」
……は?
「それじゃ、引き続きサポートよろしくな!」
そう言って彼は去っていった。
……えっと。
つまりは。俺は卒業するまで、こいつと一緒で。
ご主人様として卒業まで過ごさなくてはいけない……!?
「ふふっ……よろしくお願いします。ご主人様?」
日本語が喋れない留学生に面白半分でエロい言葉を教えてみたら学校生活が詰んだ。そして奴隷が出来た。何を言ってるかわからないと思うけど、俺にもわからない。
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