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面会

 父と母は緊張の面持ちで、バルトロマイと対峙していた。


「いやはや、まさかモンテッキ家のご子息が我が家を訪ねてくるなんて」


 父の言葉に、母は深々と頷いている。

 なんとも言えない気まずい空気が流れていた。


 両親はジッと、バルトロマイを見つめる。いったい何用だ、と問いかけているように見えた。


 バルトロマイは堂々と、父に向かって疑問を投げかけた。


「今日はカプレーティ家の悪魔について、聞きに来ました」


 はっきりと述べた悪魔の言葉に、両親のうち、特に父が瞠目どうもくする。


「なっ、そ、それは、ジュリエッタ! お前は席を外すように」


 母に目配せし、部屋から出そうとしたものの、バルトロマイが制する。


「当主殿、待ってください。悪魔については、彼女から聞いたことです」

「ジュリエッタ、なぜ、悪魔について知っていた?」

「地下にある書斎にある本を見てしまいましたの。それと、乾燥させたトカゲやコウモリなどの、悪魔が好む餌なども発見しました」


 こうなったら、両親にしっかり話を聞いておくべきだ。

 遠慮なんてしていたら、問題は一生解決しないだろうから。


「バルトロマイ様は度々、命の危機にさらされていたようですが、すべて悪魔の仕業だったようです」

「そ、そんなはずはない! ありえない!」


 父は断言するが、イラーリオに取り憑いていたルッスーリアが暴露したのだ。言い逃れなんてさせない。


「叔父様がイラーリオにバルトロマイ様の暗殺を命じていた、という話を聞きました。イラーリオは悪魔を使役し、モンテッキ家に忍び込ませていたようです」


 父はわなわなと震えつつ、これまで隠されていた事情について語る。


「弟――お前の叔父には、街の秩序を少し乱す程度の命令しかしていなかったのだが」


 モンテッキ家とカプレーティ家が起こす騒動は、意図的に起こしていたものらしい。

 その指揮を執っていたのは、悪魔が取り憑いていた叔父だったと言う。


「お父様は自分の手を汚さずに、叔父様だけに命じていたわけなのですか?」


 父は背中を丸め、意気消沈している様子だった。

 気の毒に思ったものの、ここで追及を止めるわけにはいかない。


「ジュリエッタ、モンテッキ卿も……ふたりが悪魔の知識を持っているというのを前提で話すが――カプレーティ家では代々、当主となる者には悪魔が取り憑かないのだ」

「それはなぜ?」

「わからない」


 代々悪魔が取り憑くのは、当主以外の者だったらしい。


「当主は悪魔が取り憑いたカプレーティ家の者を使い、モンテッキ家との争いを続けてきた。私の代でも例に漏れず、私には悪魔は取り憑かずに、弟に取り憑いたんだ」


 悪魔は精神を蝕み、病のように体の調子を悪くさせていたらしい。そのため、父は叔父から憎しみをぶつけられていたようだ。


「何か弟の負担を軽減できればと、研究を続けていた。それが、地下にある本や悪魔の餌だ」


 バルトロマイの言うとおり、父自身に悪魔は取り憑いていないらしい。


「悪魔が取り憑く連鎖から、なんとか解放させたいのだが、それも叶わなかった」


 それは無理もないだろう。カプレーティ家の者達が悪魔に取り憑かれるのは、魔王サタンの呪いだから。人間なんぞに、解けるわけがないのだ。


「まさか弟が、モンテッキ卿の暗殺を画策していたなんて、知らなかった。知っていたら、阻止していた」


 父の言葉に、バルトロマイが目を見張る。


「あなたは、俺の死を望んでいるのではなかったのですか?」

「いいや、それは違う。私達は教皇が望むまま、モンテッキ家の者達と争っているだけだ」

「教皇が争いを指示していただと?」


 そういえば、悪魔について教皇は知っているようだった。

 モンテッキ家とカプレーティ家の争いの歴史は、教皇が絡んでいるのか。


「お父様、教皇の命令というのは、どういうことですの?」

「うちだけじゃない。モンテッキ家もそうだろう」


 バルトロマイのほうを見る。彼は知らないとばかりに、首を横に振っていた。


「モンテッキ家は皇帝の命令で、カプレーティ家と敵対関係であることを続けているはずだ」


 どくん、どくんと胸が脈打つ。

 両家の争いは憎しみによるもので、どうにもならないと思っていた。

 けれども蓋を開けてみれば、原因は皇帝や教皇にあると言う。


「何がきっかけだったかはわからない。ただ、皇帝や教皇にとって、国を二分するほどの争いがあったほうが、都合がよかったらしい」


 そんな目論見があり、モンテッキ家とカプレーティ家は争っていたというわけか。


「百年ほど前に、モンテッキ家とカプレーティ家の息子と娘が、結婚しようと手と手を取り合った。その結婚により、両家の戦いは終わるはずだったんだ」


 それは、前世の私とバルトロマイのことだろう。

 くらくらと目眩に襲われそうになっていたが、バルトロマイは私を励ますように手を握る。


 こんなところで気絶なんてしている暇はない。

 しっかり前を見て、父の話に耳を傾ける。


 当時のモンテッキ家とカプレーティ家の当主が話し合い、ふたりの仲を認めたついでに、争いはもう止めようと話を付けていた。

 けれども、皇帝と教皇が、その計画を握りつぶした。


「駆け落ちしたふたりを出迎える予定だったのだが――ふたりはすでに、命を落としていた」


 そして、争いを止めることは許さない。皇帝と教皇はそれぞれの家に、釘を刺す。もしも逆らえば、命を落とした男女のようになるだろう、と宣言したようだ。


 まさか、前世の私達の死に、このような真実があったなんて。

 ショックで言葉も出なかった。

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