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調査開始

 下着についてはひとまず忘れよう。

 内部の間取りはバルトロマイが所持しているので、まずはここがクレシェンテ大聖宮のどの辺りなのか調べたい。


「たしか、エリアごとに天使のモチーフが描かれているようですが」


 持ち込んだ角灯で部屋を照らし、天使の絵がないか探す。

 クレシェンテ大聖宮は三つの区画があり、九つのエリアに分かれている。上層は〝熾天使セラフィム〟、〝智天使ケルビム〟、〝座天使スローンズ〟の三つ。中層は〝主天使ドミニオンズ〟、〝力天使ヴァーチャーズ〟、〝能天使パワーズ〟。下層は〝権天使プリンシパリティーズ〟、〝大天使アークエンジェルズ〟、〝天使エンジェルズ〟と名前が振り分けられている。


「ジル、天使の見分け方はわかるか?」

「ええ。上層に描かれるような天使は、笏や剣などの武器を手にしております。中層の天使は三対の翼があるはずです。下層の天使達は一対の翼に人とよく似た姿で描かれているはずです」

「なるほど。ある程度見分けることができそうだな」


 天使の姿は暖炉のマントルピースに彫られていた。

 頭上に輝く輪を持つ、美しい女性が微笑んでいるような天使の姿。


「おそらくこれは、大天使でしょうね」

「ならば、現在地はだいたいこのあたりか」


 そこは下層にある、見習い修道士や儀仗騎士が拠点とする区画らしい。


「着地地点としては、いい位置だな。ここで手引きしてくれる者との合流地点が近い」

「ルッスーリアに感謝しなければならないですね」


 各層の部屋の位置を頭に叩き込んでいるらしいバルトロマイのあとを、急ぎ足でついていく。

 深夜のクレシェンテ大聖宮は、灯りは最低限しかないからか、少しだけ不気味な雰囲気である。

 ただここは、悪魔が侵入できない聖域でもある。安全と言えば安全なのだ。


 十五分ほど歩いた先にある部屋に、修道士が待っていた。

 バルトロマイが金貨が入った革袋を渡すと、身分証の取り引きが行われる。クレシェンテ大聖宮での過ごし方や、規律など、想定していたよりも丁寧に教えてくれる。

 滞在する間、ここの部屋で寝泊まりしてもいいらしい。

 バルトロマイと同室となるのだが、寝台は二台あるし、風呂場や洗面台など、暮らしに困らないような設備が整えられていた。

 

「以上ですが、何かご質問などありますか?」

「いや、ない」

「承知しました。では、失礼します」


 役目を終えた修道士は、そそくさといなくなった。

 身分証である十字の首飾りはいくつかあるようで、目的の場所によって変えるらしい。

 ひとつは見習い用の物。ひとつは中層を行き来するのに怪しまれない物。ひとつは上層を行き来できる特別な物。

 これらを得るために、いったいどれだけのお金を積んだのか。

 恐ろしくて聞けるわけがなかった。


「これで、怪しまれても一時しのぎくらいにはなるだろう」


 もしも正体が露見し、逃げるような状況になったら、フェニーチェ修道院で落ち合おう、と事前に話し合っておく。


「まずは、中層にある図書室で、クレシェンテ大聖宮の歴史について調べたい」

「ええ、そうですわね」


 ヴィアラッテア帝国の建国とほぼ同時に、このクレシェンテ大聖堂が建ったと言われているが、真相ははっきりしていない。

 それらについての情報も調べたら、カプレーティ家とモンテッキ家の争いの裏にある何かに繋がるヒントを得られそうだ。

 

 まずは中層を目指して階段を上り、途中で身分証である十字のネックレスを変え、平然とした表情で廊下を歩いて行く。


 深夜と言うだけあって、人通りはほぼない。

 ただ、ときおり部屋から灯りが漏れているのを見かける。深夜に及ぶまで、仕事をしているのだろう。


 図書室には見張りの儀仗騎士がいたものの、事前に教えてもらっていた言葉で通してもらう。


「ブラザー・アケーダより、資料を探すように命じられている」


 すると、中にあっさり入ることができた。

 ブラザー・アケーダというのは、フェニーチェ修道院の院長のことである。

 長年クレシェンテ大聖宮で司教を務めており、今でも名前を出したら影響力が発揮されると言う。

 のほほんとした印象がある院長であるが、実はとんでもなく偉い人だったのだ。


 院長の威光のおかげで、禁書室にまで入ることができた。

 そこで私達は、聖剣の絵画が飾られているのに気付く。


「バルトロマイ様、あの絵画は――」

「聖剣だ。間違いないだろう」


 聖剣を握るのは、六枚の翼を生やした、美貌の青年である。

 しばし見とれていたら、夜勤の司書が絵画について説明してくれた。


「あちらは聖なる剣を持って戦う美しき熾天使、〝ルシフェル〟様ですよ」


 その姿に見覚えがあるような気がして、首を傾げてしまう。その隣で、バルトロマイはぼそりと呟いた。


「屋敷にある、黒い翼を持つ悪魔に似ている」


 ああ、それだ! と声をあげそうになったが、図書室なのでなんとか呑み込んだ。

 ルシフェルと呼ばれた天使は、聖剣を握るモンテッキ家の者と敵対するように描かれた悪魔にそっくりだったのだ。


「おや、魔王サタンの絵をご存じなのですか?」

「魔王サタン?」

「ええ。この世のありとあらゆる悪の権化で、熾天使ルシフェルが堕落し、悪魔と化した姿と言われているんです」


 つまりモンテッキ家の執務室にある絵画は、魔王と邪竜が結託し、モンテッキ家の者に戦いを挑んでいた、という意味があるのか。

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