従属された変態
ギラギラに輝く瞳で私を見つめる馬の悪魔改め、色欲の悪魔ルッスーリアは、私に従属された状態にあると宣言している。
「そ、そんな! わたくしはあなたの正体を見破った覚えはありません」
『熱烈に、この色欲の権化が! と罵ったではないか!』
「誤解ですわ!」
こんな変態悪魔との契約なんて望んでいない。そう訴えても、ルッスーリアは聞く耳など持たないようだ。
もうどうしようもない状況なのだろう。悔しいけれど、諦めるしかない。
開き直って、ルッスーリアに質問を投げかける。
「あなたはどういった悪魔なのですか?」
『下着が大好き』
「趣味について聞いているのではありません!」
能力について答えてほしい。そう尋ねたのに、私の下着を見せてくれ、などとふざけたことを言ってくる。
「おい、真面目に答えろ」
バルトロマイが剣を抜き、ルッスーリアの首筋に刃を当てる。
すると、軽い悲鳴を上げつつ、自らの能力について語り始めた。
『俺は世界各地の寝台の上ならば、どこでも行き来できる、万能の悪魔だ』
「なるほどな。だから、命を狙われるのは、決まって寝室だったのか」
さらに強制的に入眠させ、記憶を操作することも可能としているらしい。
続けて、込み入った質問をしてみた。
「これまでどなたに取り憑いていて、誰の指示でバルトロマイ様の暗殺を目論んでいたか、答えていただけますか?」
アヴァリツィアは口が堅く、重要な情報は何ひとつ教えてくれない。ルッスーリアもそうだろうと思っていたのだが――。
『取り憑いていたのはイラーリオ・カプレーティで、暗殺命令を出していたのは、その男の父親だ』
「なっ、イラーリオと叔父様が!?」
いったいなぜ、どういった目的でバルトロマイの暗殺を目論んでいたと言うのか。ルッスーリアに尋ねても、詳しい目論見はわからないと答える。
「イラーリオはすでに、蛇の悪魔を従えていたように見えたのですが」
『ああ、あの男は俺含めてもう一体、連れているな。あっちはたしか、従属している悪魔だ』
ひとりで二体も悪魔が取り憑いていたなど、前代未聞ではないのか。
たった今、私もそういう状況になってしまったのだが。
「悪魔はカプレーティ家の中でも、どういった者に取り憑くのですか?」
『闇が深い存在だな。あとは強烈なくらい、強い願いや想いを持っている者とか』
イラーリオが前者で、私が後者だと言う。
『闇を抱える者は悪魔に同調しやすい。悪魔も居心地がいいから、ついつい取り憑いてしまう。もう一方、強い願いや想いを持つ者は、絶望したときに大きな力が生まれやすいんだ。賭け事を好む悪魔は、そういった人間に惹かれやすい』
「そういうわけだったのですね。よくよく理解できました」
感謝よりも、罵声を浴びせてほしい、とルッスーリアは懇願してくる。
どうしようか、と悩んでいる間に、バルトロマイが聖水をルッスーリアに振りかけた。
「消え失せろ、このクズ野郎が」
『ぎゃあああああ、男の罵声なんて、最悪うううう!!』
断末魔のような叫びを上げ、消えていった。
静けさを取り戻した寝室で、私とバルトロマイはため息を吐いてしまう。
「なんて酷い悪魔でしたの」
「しかし、これで誰が暗殺を目論んでいたのか、明らかになった」
「ええ」
しかしながら、なんだか沢山の犠牲を払ったように思えて、なんとも言えない気持ちになる。
念のため、アヴァリツィアを呼び出し、ルッスーリアについて聞いてみる。
『また深夜に呼び出すのかよ』
「ごめんなさい。少し話を聞きたくって」
『お前はまた、とんでもないことに巻き込まれていたみたいだな』
「相変わらず、傍観されていたのですね」
『当たり前だろうが! ルッスーリアなんて、悪魔の中でも関わり合いになりたくないランキング、堂々の一位だ!』
どうやらルッスーリアは、数いる悪魔の中でも特別厄介な存在らしい。
「ルッスーリアの特徴や注意点など、何かご存じですか?」
『ああ、ひとつだけ教えてやれるぜ』
警戒に越したことはない。アヴァリツィアの話に耳を傾ける。
『ルッスーリア、あいつはな……とんでもない変態だ。以上!』
「そ、そんなの、存じていますわ!」
アヴァリツィアはケタケタと笑いながら姿を消す。
最初から教えるつもりはなかったのだろう。無駄な時間を過ごしてしまった。
バルトロマイは顎に手を当てて、何か考える素振りを見せていた。
「バルトロマイ様、どうかなさったのですか?」
「いや、ルッスーリアの能力は調査に役立ちそうだと思って。潜入にはうってつけだ」
「言われてみれば、そうですわね」
父がクレシェンテ大聖宮への入宮許可を取ってくれるのを待っていたが、すぐにでも調査に取りかかるのも可能となるだろう。
「ルッスーリアが戻ってこないことに、イラーリオが気付く前に、次の調査に移ったほうがよろしいかと」
「そうだな」
準備ができ次第、クレシェンテ大聖宮への潜入をしてみよう、という話になる。
「バルトロマイ様、お仕事は大丈夫ですの?」
「クレシェンテ大聖宮での情報収集については、以前からやりたい、と父に相談していた。申告したら、すぐに許可が下りるだろう」
そんなわけで、私達の計画は次なる段階へ移ることとなった。
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