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悪魔について

『おい、質問に答えたのならば、それを早く俺によこせ!』

「質問にすべて答えてくれたら、差し上げます」

『なっ!? 今のが質問じゃなかったのか?』

「違います」

『嘘吐き! 悪魔!』

「悪魔はあなたでしょうが」


 ひとまず、もっとも知りたかった質問をしてみた。


「アヴァリツィア、なぜ、あなた方悪魔はカプレーティ家の者に取り憑いているのですか?」

『それは、お前らが弱い立場だからだ』

「弱い、というのは、具体的にはどういった意味ですの?」

『そのままの意味だ。昔はモンテッキ家に相手にされないくらい、弱っちかったんだよ』

「なるほど」


 たしかに、皇帝派であるモンテッキ家に比べて、教皇派であるカプレーティ家は勢力が少なく、財力も劣っている。

 前世でも、私を皇帝の甥と結婚させ、持参金で家を建て直そうとしていたくらいだ。

 百年経って、カプレーティ家は以前よりも貧乏でなくなっていたが、それでもモンテッキ家に比べるとささやかな暮らしを送っているだろう。


 モンテッキ家に勝つために、カプレーティ家は悪魔の力を得たというのか。

 神を信仰し、人々に安寧をもたらす教皇を支持しているというのに、悪魔と手を組むとは、なかなか邪悪な手段だ。

 教皇疔にこのことが露見したら、一家凋落だけでは済まないだろう。


「悪魔は七体いるようだけれど、イラーリオとわたくし以外に誰に取り憑いているの?」

『知らん』

「知らないって、どうして?」

『悪魔は個人主義だからだ。他の悪魔が誰に取り憑いているとか、興味ないんだよ』

「そんな……」


 誰に取り憑いているかわからないとアヴァリツィアは言うが、父には何かしらの悪魔が取り憑いていることに間違いはないだろう。


『もういいだろう? そのコウモリを寄越しやがれ!』

「あとひとつだけ、質問したいのですが」

『はあ!? なんだよ、それ! もうたくさん答えてやっただろうが!』

「答えていただけたら、その鳥かごから出して差し上げますので」

『最後だからな!』

「ありがとうございます」


 それは気になったことと言うか、引っかかったことである。


「先日、馬上槍試合のときに、やたらわたくしに強欲、強欲とおっしゃっていましたが、もしや、あなたは〝強欲の悪魔〟なのですか?」


 そう問いかけると、アヴァリツィアに変化が現れる。

 首回りに黒い靄が生じ、くるくると巻きついて首輪のような物が装着された。


『うがーーー! お前、余計なことに気付きやがったな!』

「アヴァリツィア、その首輪はなんですの?」

『従属の首輪だ! 取り憑いた者が悪魔の正体を見破ったら、逆らえなくなるんだ!』

「まあ、そうでしたのね」


 なんでもアヴァリツィアは強欲をもっとも好物とする悪魔で、取り憑いた人間が欲を求めれば求めるほど強くなれるようだ。


 馬上槍試合のとき、周囲の空気に呑まれ、無意識のうちに口にしていたらしい。


『お前を騙して、強力な悪魔になってやろうと思っていたのに!』

「それはそれは、がっかりですわね」

『本当に!!』


 気の毒なアヴァリツィアにコウモリをあげると、瓶から取り出し、バリボリと食べていた。


『くそ、コウモリの滋味が、弱った体に染みるぜ』


 気の毒になったので、鳥かごから出してあげる。さほど抵抗せず、カーペットの上に蹲っていた。


「アヴァリツィア、あなた達悪魔がカプレーティ家の者に取り憑く基準、というのはどんなものですの?」

『欲深い、愚かな人間だ。そういうのは、だいたい魂を見ればわかる』


 私は前世で、何もかも投げ出し、元夫と駆け落ちした。

 そのため、悪魔が引き寄せられるような魂に見えたのだろう。


「そういえば、あなたが取り憑いているのに、お父様から何も言われたことがないのですが、見て見ぬ振りをなさっているの?」

『それはないな。他の人間には、取り憑いている以外の悪魔は見えていないはずだから』

「なっ、そう、ですの?」

『ああ、間違いないだろう。だから俺も驚いたぜ。お前が他の悪魔が見えるって言ったときは』


 そういえば、アヴァリツィアは私の反応を見て、傑作だと言って笑っていたような気がする。


「なぜ、わたくしにだけ、悪魔が見えるのでしょうか?」

『とんでもない大悪魔の〝えこひいき〟でもあるのかもしれないな』

「冗談でも、そのようなことは言わないでくださいませ!」


 アヴァリツィアは従属状態になったからか、対価がなくとも質問に答えてくれるようになった。信用はまったくしていないが、利用価値はあるだろう。


「あなた、これからわたくしが喚んだら、姿を現してくれますの?」

『まあ、そうだな。逆らえないから』

「でしたら、これからよろしくお願いします」

『迷惑でしかないのだが』


 アヴァリツィアはそうぼやいたあと、靄のような姿となって闇に溶けていった。


「――ふう」


 ひとまず、この先避けなければならない相手が、バルトロマイの他にイラーリオも追加された。

 悪魔が取り憑いている以上、どんな行動に出るかわからないので、警戒に越したことはない。

 修道院へ身を寄せる計画も、どんどん進めていかなければならないだろう。両親の顔色を窺っている場合ではない。


 まずは一度院長に相談したいが、その前にル・バル・デビュタントに参加しなければならなかった。

 バルトロマイはいないだろうが、イラーリオは確実に会場にいるだろう。

 父にエスコートしてもらうと宣言していたので、当日の目印を説明しているようなものなのだ。すぐに見つかってしまう。

 どうやって、彼から逃れたらいいものなのか。

 頭がズキズキと痛くなるような問題であった。

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