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大好きだった前世の夫を発見したけれど、私といたら不幸になるので徹底的に避ける……つもりが、捕まってしまいました!  作者: 江本マシメサ
第一章 悲劇の結末から転生する

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因縁の戦い

 モンテッキ家の猛犬と、カプレーティ家の狂犬の戦いである。

 ふたりとも勝ち進んできた騎士なので、皆の期待を一身に背負っているようだった。


「ジュリエッタお嬢様、イラーリオお坊ちゃんとバルトロマイが戦うのですって。どっちが勝つと思いますか?」

「それは――戦ってみないとわかりませんわ」


 なんて答えたものの、十中八九、バルトロマイが勝つに決まっている。

 たった三年だけ、教皇疔で修業を積んだ元チンピラのイラーリオに負けるはずがないのだ。


 心の中でバルトロマイに、手加減なんてせずに早く終わらせてくれ、と見つめる。

 そんな彼が、予想外の行動に出た。


 拳を握った手を胸に当てて、槍を掲げる。


「あれは――愛の誓い!?」


 ぎょっとして、思わず口にしてしまう。

 彼はこの会場に、愛の告白をしたい相手がいるようだ。


 胃の辺りがスーッと冷え込むような、不快とも不安とも言い難い複雑な感情に襲われる。

 私の心模様を示すように、天気が悪くなってきた。

 先ほどまで晴天だったが、いつの間にか曇天どんてんが広がっている。


 この気持ちはいったい――? そんな心の声に応えたのは、額から角を生やした黒ウサギである。


『ふはははは! まるで茶番だなあ、ジュリエッタ』


 私の膝の上に、カプレーティ家の悪魔、アヴァリツィアが現れる。すぐに手で払おうとしたが、回避されてしまった。


「ジュリエッタお嬢様、どうかなさいましたか?」

「あ――ゴミが、スカートに付いていたようで」

「まあ、そうでしたか。そういうときは、自分で払わず、このばあやに知らせてくださいな」

「あ、ありがとう。次からそうするわ」


 アヴァリツィアは前の席に座る紳士の頭に座っていた。

 私とばあやの会話をケタケタと嘲笑っているようだった。


 ちなみに、悪魔の姿は私にしか見えない。そのため、言動には気を付けないといけない。


『お前、やっぱりあの男が〝欲しい〟んだな!?』


 何を言っているのか。私は彼が幸せになることだけを望んでいる。前世のように、両想いになろうとは考えていなかった。


『だったら、どうして奴が愛の誓いをした瞬間、酷く傷ついた表情を浮かべたんだ? あの男にお前以外の想い人ができたというのは、幸せへの第一歩のはずだったのに』


 そうだ。アヴァリツィアの言うとおりである。

 私は彼の幸せを願っていながら、自分も彼と幸せになりたい、とどこかで願っていたのだろう。

 だから、バルトロマイに想い人がいると知って、ショックを受けたのだ。


「なんて傲慢な――!!」


 私のその一言は、歓声にかき消される。

 何が起こったのかと顔をあげたら、イラーリオが胸に拳を当てて、槍を突き出す恰好を見せているところだった。


「イラーリオまで、愛の誓いを!?」


 それはすなわち、互いに勝つと宣戦布告したようなものだ。

 イラーリオのことだ。バルトロマイの行動を見て、逆上して行ったに違いない。


「いったい、なんてことをしてくれましたの?」


 イラーリオに物申したくなった瞬間、彼は振り返る。

 槍を私のほうへ向けて、口をパクパク動かす。

 読唇術は心得ていないのだが、なぜか「待ってろ」と伝えたかったのがわかってしまった。


 まさかイラーリオは、私に結婚を申し込むつもりなのか。

 彼が勝つなんてありえないが、私に求婚しようと考えていること自体がありえない。


 互いに兜を被り、戦闘開始の合図が告げられる。

 戦い始めた瞬間、私はある違和感を覚えた。


 黒い鎧をまとうイラーリオの姿が、ぶれて見えるときがあった。

 目がおかしいのか、と擦ってみるも、状況は変わらない。

 何かがおかしい。

 バルトロマイの実力であれば、すでに勝っているはずだ。

 それなのに、イラーリオ相手に少し苦戦しているように思える。

 よくよく目を凝らしてみたら、イラーリオが黒いもやのようなものを従えているようにも見えた。


「あれはいったい――?」

『お前、アレ・・が見えるのか?』

「え、ええ」

『これは傑作だな!』


 何が面白いのか、まったく理解できない。それよりも、あの靄の正体を教えてほしかった。


『アレは、〝カプレーティ家の悪魔〟だ』

「なっ!?」


 アヴァリツィアが耳元で囁いたので、慌てて身を引く。

 幸い、ばあやは試合に夢中で私の反応に気付いていなかった。


 イラーリオに、カプレーティ家の悪魔が取り憑いているだって!?


 自覚したら、イラーリオの周囲にヘビのような黒い悪魔の姿が見えた。

 アヴァリツィアと同じように、額から角を生やしている。


 まさか、悪魔の力を使って、イラーリオはバルトロマイと互角に戦っているというのか?

 

「いいえ、互角ではない!?」


 私の悲鳴のような声は、会場の盛り上がりにかき消される。

 悪魔の目が赤く光った瞬間、イラーリオがバルトロマイを圧倒し始めたのだ。

 こんなのありえない。

 あの動きは悪魔のおかげで、イラーリオ自身の実力ではないだろう。


 会場は異様な熱気に包まれている。

 ゾッとしてしまうほど、皆が皆、我を忘れたように声をあげていた。


『ジュリエッタ、これが悪魔の能力ちからなんだ。人々の負の感情を得て、契約した者に力を与える。それにより、悪魔は多くの力を得るんだ! だからお前も、俺に願え! 〝強欲〟の力をもって、バルトロマイ・モンテッキを勝たせたい、と』


 このままでは、バルトロマイは倒されてしまう。

 バルトロマイは幼少期より、厳しい訓練を受けて騎士になった。そんな彼が、イラーリオに負けてしまったら、彼の自尊心が傷ついてしまうだろう。

 

『ジュリエッタ、願え。欲望が赴くままに、強欲に――』


 バルトロマイの馬が一歩後退したのを見た瞬間、私は叫んだ。


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