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6 ボクはあっさりりかいする!

というわけで第6話です。

「「なぜ!?」」


 マリアンヌの能面のような顔に、珍しく感情が見えた。


「私はローゼンクランツ殿下が嫌いです」




「「え?」」


「少々しか知恵が回らないくせに、知恵が回ると思い込んでいる男など害悪です。


 個人としても国としても」


「あいつ、ボクより全然イケメンだぞ!」


「目鼻の出っ張りの高さなど私にはどうでもいいことです。


 アレのやろうとしている事が問題なのです」 


「あ、あの……第二王子であるローゼンクランツ殿下をアレというのは不敬ではないのですか?」


「あんなのはヤツとかアレとかガキでいいのです。どうせもうすぐ王族でなくなるので」


「なんで?」「どうして?」



 あいつは『ざまぁ』で、マリアンヌと結婚する役じゃないの?



「アレは王位を継いだら、この国で進んでいる改革を更に進めようとしています。悪い方向に」


「え? 改革っていうのはよくすることだろ? いいことじゃないの?」


「変えればいいというものではないのです」



 パーティの出席者達が一斉にうなずいている。


 どゆこと?



「あのガキは改革の成果で民の暮らし向きがよくなってきたのを機に、大幅な増税をしようとしております」


「それは当然だろ? 民草はボクら王家のため国のために身を粉に――」


 上から舌打ちが聞こえた。


「チッ、これだから腐れ貴族はっ」



 コツコツ。コツコツ。


 妙な音がボクらの前で響く。


 あのマリアンヌが、靴のかかとで床を蹴っているのだ。


 しかも舌打ちまでしてる!



「殿下。もし貴方が民草のひとりであったとすれば、税金があがるのを歓迎しますか?」


「ええと……」



 すいません。払ったことないのでピンときません。



 ボクは隣のテレーズを見た。


「余り歓迎はしません……せっかく暮らし向きがよくなったのに、また逆戻りなら余計に……」


「そうなれば、買い物も減らしますよね? ちょっとした贅沢もしなくなりますよね?」


「は、はい……」


「だけどそれは、ええと、下々のものが贅沢するなんて分不相応だから――おぎゃぁぁぁぁっっ」


 土下座していた手が踏まれてる! 手の甲をグリグリと! えぐりこむように!


 マリアンヌに踏まれている! なじぇなじぇなじぇぇぇぇ?


 ボクの言ってることのどこがっ!?

 

「じゃあなんですか、貴族とかいう奴らが夜ごと酔っ払って騒ぎ回ったり、


 無駄な贅肉をたくわえたり、街の女の子を金にあかせてさらってオモチャにしたり、


 登城しても酔っ払ったままで役に立たなかったり、孤児を拾ってきて矢の的にしたり、


 当然のように袖の下をとったり、バカ息子の罪を金でもみけしたり、


 使いも食えもしない金銀財宝のコレクションを蓄えるのは分相応だとでも?」


「そ、そうじゃないの!? だ、だってボクらは王族で貴族で選ばれし――ぐがぁぁぁ指が指が指がぁぁぁ」


「お、おやめください! 殿下は知らないし判らないのです! でも、わたしにはお優しい! ほんとうはいい方なのです! 話せば判る方なのに、誰も教えてあげなかったのです!」


「ぐがぁぁぁぁぁ! ちぎれるちぎれるぅ」


「では殿下。判るようにお教えしましょう。


 ローゼンクランツ殿下は、殿下を断罪したのち、テレーズ嬢を、取り巻きが経営している娼館に放り込んで、


 死ぬまでオモチャにすると発言していたんですよ。誰が最初にやるかを賭けてカード遊びまでしてね。


 ちなみに勝ったのはローゼンクランツ殿下でしたよ」



 ボクは瞬時に理解した。



「な、なんだとっっ!? なんという悪! 許せん! そうか奴らは悪だったのかっっ!


 弟もその回りの貴族どもも悪!」



 せっかくボクが理解したのに、なぜかマリアンヌは溜息をついた。



「ふぅ……まぁいいでしょう。


 ヤツらは、そんな腐った悪の貴族どもだけを富ませ、民を貧しく国も貧しくしようとしております」


「なるほど。悪だからな!」


 民を貧しく国も貧しくしようとするものは悪! 覚えた!


「そもそも、貴族達は、民の生み出したおこぼれを貰って生きているのです。


 おこぼれを貰う代わりに、国を守り、国のために政治を行っているのです。


 我らは民という海に浮かばせてもらっている浮き草。どちらが主客は明白でありませんか?」


「なるほどなるほど、そうだったのか!」



 ヤツらが悪だと判ると後は簡単じゃないか。


 なんで誰も教えてくれなかったんだろう?


 凄いスピードでモリモリ賢くなっている気がするぞ!


 ボクの才能の花開きっぷりが我ながら恐ろしい!




「民が富めば、我らに回ってくるおこぼれも増える。民も我らも豊かになる。


 当然、国も豊かになるのです」


「うんうん。判ったぞ。民から片っ端から奪うのはいけないのだな。奪うヤツらは悪だ!


 弟よ! ボクはかなしいぞ! どうしてそんな極悪人に!?」



 なぜかマリアンヌは溜息をついた。


 なぜだ? ボクはどんどん賢くなっているのに!?



「この程度で妥協しておきましょう……テレーズ嬢は我が国がここ数年で一気に発展しているのをご存じですよね」


「はい。立派な堤防が出来て、広大な耕作地が生まれて、民が富み始めたのがきっかけだと。


 あの堤防を見たとき、わたしは胸がいっぱいになって思わず泣いてしまいました。


 これでからは、洪水でたくさんの方々が死ぬことはなくなるのだと……」


「え? あれ完成したの?」



 ボクはびっくり。


 あの大堤防は完成しないことで有名だったのに……。



「賄賂と中抜き混じりの現場にメスをいれ改善した上で、国が金を出して完成させたのです」


「そうだったのか……やるじゃないかボクの国は――いていていでぇぇぇぇ指が指がぁぁ」


「国は民のものです! 殿下のものではありません!」


「は、はい……」


 ちぎれるかと思いました。


「ですがその堤防が今、危機に瀕しています」


 ボクはピンときた。


「悪いヤツらだな! 弟をはじめとする悪いヤツらが何かしようとしているんだな!」



 弟よ! なんでそんなに極悪人になったんだ!?


 兄はかなしいぞ!


 ボクの目から涙があふれてくる。



「うぉぉぉぉぉぉ! うぉ! うぉぉぉぉ!」


「……テレーズ嬢。殿下はなぜ号泣しているのでしょうか?」


「え、ええと。ローゼンクランツ殿下が悪の道へ踏み込んでしまったことを悲しんでおられるのだと。


 ですが、危機とはなんでしょうか? 堤防は完成してまだ一年です。古びて壊れるにはまだ時がいると思うのですが」


 マリアンヌは、くいっとメガネを直し、


「テレーズ嬢。いい質問です」



 テレーズがほめられた!


 なんかボクもうれしいぞ。



「ローゼンクランツ殿下は、堤防の維持管理に金がかかるため、


 新たに大堤防大臣というポストを作り、その地位を僅かな金銭と引き換えに取り巻きの貴族に投げ与えようとしているのです」


「え。だって、国は大金をかけて完成したのですよね? 大損じゃないですか!」


「維持管理に金がかかるので、毎年上納金を納めるのを条件に、貴族に丸投げするのですよ。


 国はこれ以上金がかからなくて、しかもお金も入ってくる。


 ローゼンクランツ殿下は、余りの賢い案に、『オレって天才じゃん』とほざいたそうですから」



 賢い案に聞こえるんだけど……でも、そんなこと言ったら指がちぎられる予感しかしないぞ!


 弟は悪なんだから、きっとこれも悪なんだろう。


 悪! 悪!



「でも、それでは、その貴族様には一銭も入らないどころか、払う一方なのではありませんか?」


「堤防が出来たおかげで開けた農地に入植した農民達から、堤防維持税をとるそうです。


 とりあえずは収穫の5割。収入が安定したら7割を」


「ご、5割でも生きていくのがやっとなのに、7割ですか!?」


「彼らはそれに加えて、他の税も払わねばなりません」


「ひどいっっ! あんまりです! 必死に田畑を耕している農民達をなんだと思っているんですか!


 それに穀物から作るお食事だって値段があがってしまいます!


 そもそもあの堤防を金儲けの道具だとしか思っていないなんて! 人の心がないのですか!」



 テレーズが怒っている。


 あのテレーズを怒らせるなんて。


 弟は救い用のない悪だ! 悪なのだ!


 でも、怒ってるテレーズも新鮮で……かわいい!



「弟よ! もうボクはお前のために涙なんて流さないぞ!」



 ボクは涙をぬぐった。


 さらば弟よ! もう兄でも弟でもないからな!


 お前は敵だ! 温厚なテレーズを悲しませ怒らせた極悪人だ!


 ボクはお前とテッテテキに戦っちゃうからな!



「他にも官職を売り飛ばして金を稼ぐなどともほざいていますが、


 買ったヤツらが、買った額以上のものを取り戻すために、私服をこやすのは目に見えています。


 穀潰しどもが」


「ゴクツブシどもが!」



 意味はわからないけど、悪に墜ちた弟にはふさわしい悪口な気がする!



「ですが、ローゼンクランツ殿下は、そんなに民から奪って、なにをなさる気なのですか?」


「ゴクツブシどもは悪いことをするんだな! そうなんだな!」


 許せん!


 許さんぞ弟!


「戦です。


 フランデルと結び、北天ポラール帝国と戦うつもりなのだそうです」


「フランデルは、何度も我が国を侵した仇敵ではありませんか!」



 北天ポラールは確か……北の国。


 フランデルは西の国だったけ?


 ボクって地理も歴史も苦手なんだよなぁ……。



「戦は、平和なら富を生み出す人々に慣れない武器をもたせて死地においやる愚行です。


 必要ない戦は、するべきではないのです」


「なんてゴクツブシなんだ! よくわからないが悪だな! くそぉ」



 完全に理解した。


 ボクの行動は、テレーズを地獄に堕とすだけでなく、この国に悪を栄えさせてしまうのだ。


 なのにボクは、ボクは、もう罪人でなにもできない!


 裁かれるのを待つ罪人。悪が国を覆うのを指をくわえてみているしかないのだ。


 これじゃあ弟と戦えないじゃないか!



「テレーズ! メガネ! 愚かなボクは償いようのないことをしてしまった!


 この国に悪を栄えさせる手助けをしてしまったのだっ!


 うぉぉぉぉぉうぉぉぉぉぉぉ」



 涙があふれた。


 ボクは国のために泣く! 泣くしかできないのだ!


予告!


第7話『ボクはサインだけはする!』


ボクは王子様だからね! みんながサインをほしがるのさ! え、そういう意味じゃないの?


誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。

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