3 ボクはざまぁを返される!
というわけで第3話です。
メガネが冷たく光った。
「私がこの学園にやって来たのは、3年ぶりだからです」
「「……?」」
ボクたちはフリーズした。
この灰色メガネがなにを言っているか判らなかったのだ。
「私が、この学園に、やって来たのは、3年ぶり、だからです」
幼い子に噛んで含めるように言われて、ようやくボクらの頭に言葉がしみこんできた。
「嘘をつくな!」「あ、ありえません!」
そんな途方もない嘘を誰が信じると言うのだっ!
「学園の校長、教職員、学園生、学園の関係者ならみんな知っている事です。
王宮の大臣次官、役人、小間使いもいくらでも証言してくれるでしょう。
更に言えば、貴方のお父上である陛下自らも」
「う、嘘だ! こいつはこのメガネは学園に通っているのだぞ! 学園生なのだぞっ! そんなことあるはずが――」
ボクは周りの視線を感じた。
ホール中の来賓達が、哀れみの視線でボクらを見ていた。
というか、どうして学園生がいない!? ボクの腹心の友らもいない!?
見たこともないか、どっかで見たことがある程度の大人しかいない。
ここは卒業パーティ会場だよな?
「同じ理由で私がそそのかした、というのも不可能です。
殿下と違って私には学園内に取り巻きなどというものは存在せず、貴族の子女とのつきあいも公的なものしかありません。
ですからそそのかす事など出来ないのです」
「ば、ばかなっっ! だが証拠が! 証拠がっっ! お前の取り巻き達の証言が――」
「彼女らがそう証言したのは存じております。ですが、私と彼女らには何のつきあいもありません。
そもそも学園に来ていないので、学生会室で命令などできませんしね。
彼女らが『未来の王妃となる私の意志を忖度したと言えば罪には問わない』と告げられ、証言を誘導されたのも知っております」
テレーズは怯えている。
「し、知っているって……まさか今日のことも……」
いかん! テレーズに心労をかけてはいかん!
ここがボクがなんとかするしか!
懸命に王者のポーズをして何とか立て直すぞ!
ふんぬっ。たぁっとぉっ!
「だっ誰が誘導したというのだそれはお前の当て推量でたらめ――」
「殿下の握っている証拠とやらは、全て殿下のご友人達が集め作ったものではないですか?」
「そうだ! お前はボクの忠実な友らが――」
「殿下の取り巻き、いえ、忠実な友らは全て貴族の子弟。でしたら私が学園に通っていないことは知っていたはずです。
それが一人か二人で殿下並みに周りが見えない方であれば、そういうこともあるかもしれません。ですが全員知らないと言うのはありえません。
それなのに、なぜそのような証拠を作成したのか。
簡単なことです。それを見抜けないのは、殿下とテレーズ嬢だけだからです」
「そんなはずは――」
不意にボクは思い出した。
あいつは、あの裏切り者のグスタフだけは、そんなことを言っていた。
『殿下の婚約者殿は学園に来ていない、テレーズ嬢を突き落とすのは不可能です』と。
だけど、宰相の息子、ボクの幼なじみで忠実な友であるギルデンスターンがビシッと言ってやったんだ。
『婚約者殿は学園生、それが学園に来ていないなんてあり得ないですね。
グスタフ、あんな悪女を庇って見え透いた嘘をつくなんて……君はあの女の手先だったんだな、見損なったよ』と。
他の友もみんなそれに同調したのだ。
ボクは激怒して、グスタフを裏切り者として断罪。学園からも追い出させて――
「児戯に等しい謀ですが、必要にして十分でしたね。
なぜならこの罠は、殿下とテレーズ嬢にだけ向けられたものなのですから」
「わっ罠!? どういうことだ!」
ワナワナと震えるボクに言葉がブスッと突き刺さるっ。
「私に全く関心のない、というか、いないと清々するとしか思っていない殿下は、私を見かけなくても気にもとめません。
そして学園に全く友達のいないテレーズ嬢は、そういう事情を誰にも教えてもらえなかったのでしょう」
ボクが罠に!? どうして誰がなぜ!? なにゆえっ!?
足元が崩れそうな恐怖を感じる。
だが、動揺するボクを庇うようにテレーズが前へ進み出た。
「ゲルドリング伯爵令嬢様! やはり貴女は殿下の婚約者にふさわしくありません! 学園生でありながら学園に通っていないなんて!
しかも貴女は貴族の子弟! 夫を支え家内を守るのが淑女の責務です! そのための教育です!
幾ら位の高い伯爵令嬢である貴女でもそんなことは許されません!」
ボクを必死で庇うテレーズの背中が光り輝いて見えるっ。
テレーズ! 君はなんて勇敢なんだ! ボクの天使!
そうだ! そうだ! その通りだ!
ここでこそ王者のポーズ復活! ざまぁするは我にあり!
ズバッと行くぜ!
「ふふっ。策士策に溺れるとはこのこと! お前は自分がサボり魔の不良! 王妃たる資格のないできそこないと告白したのだっ!」
どうだ参ったか!
唇を噛んで泣きながら走り去るがいい!
「私は学園に行く暇がないのです。政治をしているので」
ボクは、王者のポーズ連発でビシリっと告げてやるのだ。
「はっ。そんなはずはない! お前ごとき婦女が政治に関わるはずなど――」
「殿下は最近、学園から王宮に戻った後、書類に目を通しておりますか?」
「なにをいう。ボクは学園生だ。政治に関わる必要など――」
「一昨年までは書類が用意されていたはずです。例えそれにサインするだけだったとしても」
言われるまで忘れてたけど、そういえばそーだった。
確かにボクのところにはサインを待つ書類がいくらか来ていた。
最初はテキトーにサインをしていたが、だんだん増えてきたので面倒になり放置したっけ。
だってボクは華麗でセレブな王太子、なんで書類仕事なんてしなくちゃならないんだ?
そんなのは下っ端にやらせておけばいいんだ。
放っておいたらどんどん溜まって目障りになったから、暖炉にでもくべるか庭で庶民の好きだという焼き芋とやらをしてみんとす、と思っていたら。
ある日突然全部消えた。
やったー。と思ったよねあの時は。
「現在、あれを処理しているのは私です」
「へ?」
「王妃教育を二年繰り上げて終えた私が、殿下の仕事を代行しているのです。
年々増える書類を全て私が処理しております。もちろん中身にも目を通して。
ですから学園になど通っている暇はないのです」
「う、うそだー! 女のお前が――」
「私は王妃教育を終了しておりますので、その知識があります。幸い適性もあったようです。
ここにいる王宮務めの方々は、私が書類を処理している事を証言して下さるでしょう。
もっとも大部分の書類は男女問わずある程度の知恵と適正があり教育さえ受ければ処理できる程度のものですがね」
メガネの光がテレーズの方を向いた。
「テレーズ嬢。ご納得いただけましたか?
私が学園に通う時間がないのは、婚約者としての義務以上の仕事をこなしているからなのです」
「は、はい……納得です」
「さて」
メガネ女は、メガネをぐっとあげるとあらためてボクらを見た。
ボクの心の奥が、冷たい手で、ぎゅっと掴まれたようだった。
蛇ににらまれたカエルというのは、こういう気持ちなのかっ。
先程、マリアンヌに告げられた言葉が耳の奥によみがえってくる。
死罪、財産没収、追放。
死罪から罪一等を減じられて、廃嫡、追放といったところでしょう。
「殿下。私がテレーズ嬢を階段から突き飛ばしたという証言をとって来たのは誰ですか?」
予告!
ボクらの必死の抵抗むなしく、容赦ない断罪が襲いかかってくる!
そして予想外の裏切り! 断罪劇の背後に隠れていた黒幕の存在!
ボクこそがざまあをされてしまうのかっ!?
第4話『ボクはざまぁを決められる!』
ええっ!? 決められてしまうのっ!? なんでー!?
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂ければ幸いでございます。