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刀姫の刀鍛冶  作者: ヒトノモドキ
1章 隠された血
12/23

第12話 隠された血(1)

作戦が決行される検問周辺では変数となる魔物をクロトのチームが警戒しつつ、ミーシャが主導となり検問に罠をはっていた。

 スズメは準備が終わるまで検問から離れた場所で一人待機しており、出番がくるその時まで刀の手入れをしていた。

 打ち合わせの時に提示された情報によると、ビギルは検問を襲撃し混乱に乗じて突破するとのことだった。

 検問を通る人々…応戦する兵士、騒ぎに寄せ付けられた魔物まで現れれば検問は混乱を極める。


『検問正面、3km付近に商人集団を発見。情報によるとビギルと思われます』


作戦開始時に渡された通信用の水晶が光り出し、開戦を知らせた。

 ミーシャは各チームに指示を出し、商人集団を警戒する。


「こんには、通行書と審査書類を提出してください」


検問にたどり着いた商人集団に兵士の一人が近づき確認する。

 馬車を引いていた男性は抵抗することなく通行書と審査書類を提出する。

 それを受け取った瞬間――遠くから魔物の遠吠えが聞こえ、一瞬気が逸れた隙に男は馬車を出す。


「ビギルだ!!」


兵士がそう叫んだ瞬間、馬車の奥から手が伸び周りの人を掴み人質とした。


「動くな!!こいつらが死んでもいいのか!!」


掴んだのは狙って女性と子供ばかり……魔物と群れを呼び寄せたと思われるビギルはニヤニヤと笑いゆっくり検問に近づく。


「すぐに魔物たちがここに押し寄せてくる。大人しく俺を通せ!」


このまま人質を盾に突破できる…ビギルがそう確信していたところ――


「残念」


パチンと指を鳴らす音が響くと、その儚い希望は全て夢だったことを知る。

 自分が人質にとっている幼子も、周りに居た商人も――誰一人としてその姿は真実ではなかった。

 鎧と鋭い剣武装した兵士が自分たちのまわりを囲み、検問の建物には多くのメイジが待機していた。


「幻術…?こ、これほどの範囲で!?」


検問およそ半径2kmを全て幻術で囲い、行きかう人達も、商人も…全てが冒険者と兵士で構成された制圧部隊。

驚く暇も与えず兵士がビギルらの確保に乗り出す。

ビギルらは激しく抵抗し、馬車にあったありったけの投擲物と爆薬を投げつけ1秒でも逃げる隙を確保する。


「来るな!俺様を誰だと思っている!!」


乱雑に剣を振り回し、手あたり次第物を投げつけるビギル。

 だが、制圧部隊は怯むことなく段々とビギルに手を伸ばす。

 その時だった――


『ドン!!』


ビギルの馬車が派手に吹き飛び周りにいた部隊もろとも炎に包まれる。

 メイジ部隊が急いで水の魔法で鎮火するもビギルの配下はほとんど即死、ビギル本人も重度の火傷にもがき苦しんでいた。


「(攪乱にしては威力が高いし、自爆にしては甘いわね…馬車に何か仕掛けられていた?)」


ミーシャが部隊全体に警戒のため確保の一時中断を命じた。

 彼女はそっとビギルのそばに近づくと、杖を向けた。


「やっぱり、私たち以外にもあなたに逃げられたらいけない人がいるみたいね」

「くそっ…くそっ!どいつもこいつも…俺の邪魔をしやがって!」


火傷に苦しみつつも体を起こしミーシャに刃物を向ける。

 しかし、その刃が彼女に通ることはなく…半透明の魔法障壁によって簡単に防がれる。

 大きくため息をついたミーシャは拘束魔法を展開する。

その刹那、ビギルは手に持っていた真っ赤な瓶を握り潰し傷口に塗り込む。


「っ?!」


異変を察知したミーシャは詠唱を変更し、周りに居た制圧部隊を障壁で守る。

 障壁が完成したと同時に、即死したはずのビギルの配下が勢いよく立ち上がり周りに居た部隊に攻撃してきた。

 障壁は物理につよく設定されているが――その魔法が形状を変えるほどの力で障壁を叩き続ける配下――その攻撃に意思はなく、ただ目の前いる獲物に食らいつくかのような動作。


「あ、アンデット?!」

「制圧部隊バリアを付与した人を盾に後退!メイジ部隊後退確認した後に炎の魔法で焼き払って!」


指示を出したミーシャは押し込むように周りの制圧部隊を後退される。

 一定距離まで下がったところで、空から炎が降り注ぐ。

 配下だった死体は燃え尽きたが…ビギルの体は燃え尽きることなく、徐々に炎に耐性を獲得しているように見えた。

 そして、炎に包まれた手がミーシャに伸び障壁を軋ませる。

 人間とは思えない力で障壁の破壊を心見るビギル……ミーシャが再び杖を構えたところで、障壁は粉々に砕けビギルの手が杖を掴み握りつぶす。


「ミーシャさん!」


悲鳴のような叫び声が検問に響く……

 同時刻、森で魔物を警戒していたクロトたちにも異変が起きる。


「クロトさん、罠の増設終わりました」

「ありがとうございます」


検問でビギルが目撃されてからクロトは念のため魔物用の罠を増設した。

 そして、数分前から通信が途絶えた水晶をみて険しい顔をする。


「検問で何かあったのでしょうか?」

「正直あまり考えたくはないですが…嫌な予感がします」


クロトは静かに目を閉じ森の声に耳を澄ませた。

 検問付近では木々が騒いでいる…戦闘が始まったのは明確。

 だが、検問と反対側で異様な気配と、森がざわつき、泣いている。

 木々の言葉が風のように流れる中、クロトはその単語を聞き逃さなかった。


『カラクラたちに言わなきゃ…』

『ユグドラシル様が探している人、いるかな?』

『申し子……赤き申し子はどこ?』


「クロトさん!大変です!」


気を取られてしまっていたクロトは隊員の一言で我に返る。

 先ほどまで遠くにあった異様な気配がもうすぐ視認できる距離にまで近づいていた。 

 気を取られたのはほんの一瞬……気配の主は明らかに異常なスピードで罠に突っ込んできた。


「あ……ああ」


人の形をしたそれは、罠によって肉が裂かれ、骨が折れても進み続けた。

 スピードは確実に落ちたものの、歩みは止まることなく…傷がゆっくりと再生しながら検問へと向かっていた。


「ば、バケモノ…」


隊員の一人が発した言葉は正しく、あんな魔物は見たことがない。

 痛覚など存在せず、ただ何かを求め前進し続ける異形。

 クロトは弓を構え隊員たちに指示した。


「ミーシャと連絡が取れるまで全力で足止めします。全員距離をとって応戦!」


森が囁く聞き逃せない単語、異形の魔物…連絡のとれないミーシャたち。

 運命の歯車が少しずつ動き出した。

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