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初仕事



「初仕事だな、西田」


中央建設 中部支社 河川治水課の技術者で課長である佐々木は、横で緊張のあまりガチガチになっている新入社員の西田に声をかけた。


「まさか、こんなに早く指揮を任せられるとは思いませんでしたよ」


「そりゃ実力のある奴が現場を動かさないと意味がないからな」


 佐々木のその言葉は彼の口癖のようなものだった。


 彼は入社20年目と現場の中ではベテランの方であり、普通なら管理職に回ってもおかしくない程度の実績は残している。


 しかし、佐々木は「後進の育成がしたい」と ことごとく出世の話をり、いつまでも現場に居座り続けている。


 決して、彼自身が現場指揮の能力が高いと思っているわけではない。むしろ設計などの方が性に合っている。 けれども、彼は現場に出続ける。


 なぜか。


それは新入社員の西田にいきなり指揮をさせることになったのかという事の答えでもあるが、それは


「と言ってもまあ... 古い頭の奴が飽きもせずに上に立っててもそれこそ老害ってやつだろう」


年功序列がまだ残っている業界で新入社員が心置きなく経験を積めるように全力でサポートしようとしているからである。

 あくまでも佐々木自身は判子ハンコを押すだけの存在である、ということを佐々木は周囲に言い聞かせている。


一方で西田の方だが、出身は私立の名門大学で、国立の大学院で河川工学を専攻していたというエリートである。


本人は初め超大手ゼネコンである鹿鳥に入社しようとしていたのだが、書類審査落ちとなり仕方がなく中央建設に来たのである。


しかし、面接の際に西田がエリートであることを嫌った面接官が西田に


「硬い」「覇気がない」「バカ真面目」「面白くない」


と散々に言ったため自信をへし折られていた。

 中央建設に来るのはだいたい西田のような大手スーパーゼネコン落ちの者が多いので、試験官が面白くないのも仕方がない話ではあるが。


本人も自身をへし折られまくった結果、「まさかあんだけ言われて受かるとは思っていなかった」と言っていたくらいだから、新入社員の歓迎会の挨拶で


「この度は土木部河川治水課に配属になりました、西田康介と申します。 大学時代は土木研究会に所属し、ダムなし治水についての知見を深めてまいりました。 大学院では河川工学を専攻し河川全体における統合型治水とうごうがたちすいについての研究を行っておりました。また、本日は、私たち新入社員のために歓迎会を催していただいて、ありがとうございます。 安藤部長からの激励の言葉を頂戴し、大変励みになります。 すこしでもも早く職場や仕事に慣れ、仕事に尽力し諸先輩方や会社に貢献できるよう努力したいと思っております。 ご相談することや、お手間をとることもあるかと思いますが、ご指導のほどよろしくお願いいいたします。」


と超長文で堅っ苦しい定型文通りの挨拶をして場を白けさせたときにはやってしまったと泣きそうになっていた。


 そんな堅物の西田だったが、佐々木は宴会の中での西田の行動で彼が情報処理能力と空間把握能力、そして何よりも観察眼に極めて優れていると言うことに気がついた。


酒を飲んでいる間も常に周りに気をつけ続け、上司のジョッキが空になったのにいち早く気づき誰にもぶつかることなく酌をしに行く。


ただそれだけの事と言えばそうなのだが、佐々木は西田の実力をたったそれだけの事で見抜いたのだ。


 それからというもの、佐々木は西田に自分の後をついて回るよう指示し、一ヶ月の研修期間の間、ひたすら見て覚えさせた。下手に真面目に研修をするよりも、見て、聞いて、感じてもらう方が西田には合っていると確信していたからである。


一ヶ月後、西田は地方の砂防ダム工事の指揮を取ることとなった。勿論もちろん佐々木のバックアップも合ってだが。



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