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悪魔と悪夢と現実と  作者: 夢食い
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夢の悪魔

「夢と現実の違いってなんだと思う?」

そう問われた時に貴方はどう答える?

現実か、非現実か?

人と関わるか関わらないか?

そもそも根底から違うもの?

この問い自体概念的過ぎて答えなんてそれこそ無限にあると思うの

だから深く考えず答えられた貴方は合ってるの

だってこんな問いに答えなんてないのだから


「…」

僕はこいつの趣味の悪い問いかけをぶすっとした顔で聞いていた。

この悪魔はいつもそうだ。僕が寝るといつもこいつが出てきて僕にずっと話しかけてくる。

意味があるかもないかもわからない問いかけを永遠に。

この前なんか自動車の信号機は通常3つあるのに、歩行者の信号機は2つしかないのはどうして?

なんて聞いてきやがった。

そんなの僕が知るか、真面目に考える価値もない、と答えたら

貴方に関係あることよ、と言いながら煙に巻くような論点ずらしと拡大解釈のオンパレードで

人の差別について語りやがった。

この世の中にそこまで考えて物を作ってることなんてないだろうし、

考えていたとしても少なくともそれは信号機の違いではないことは確かだ。

僕はこいつのいう事を右から左にひたすら受け流し続ける。

最初出会った時は真面目に取り合っていたが今ではそれすらめんどくさい。

ここでは常に悩まされ続けている頭痛にも悩まされることはないし、

耳を覆いたくなるような悪口を言われ続けることもない。

それだけで幾分か心は休まるがそれでもこいつの声が鬱陶しいのは確かだ。

「…今日は何だよ。それに答えたら僕を解放してくれるのか?」

「あら、今日は答えてくれるのね」

くすくす笑いながら僕の周りをふわふわと浮きながら動き回る。

そんな悪魔を見て目の前に来たタイミングで机を降らした。

せめてもの嫌がらせのつもりだったがするりと避け、僕の後ろに回り込む。

「酷いじゃない、レディーは紳士に扱う物よ?」

「どこのどいつかレディーって柄だよ。名前通りの悪魔め」

僕はどこか趣味の悪い、やけにでかい机の上にどかっと足を乗せ、後ろに回り込んだ悪魔に対して嫌味を言う。

「何が気に食わないのかしら。なんでも叶う言葉通りの夢の国。あなたが願えばここではなんでもできるのよ?」

「…その代償があの悪夢だっていうんならお断りだよ」

僕が机を脚で軽くたたくと机から無秩序にゲーム機、お菓子、人形、お金、服…等が出てきて机から零れんばかりになったところで止まった。

「こんな役に立たない能力のためにあんな悪夢を見させているのか?」

「あら、いいじゃない。夢の中で思い通りに行く能力。夢の中だからなんでもできるのよ?」

「現実で使えるならともかく、夢の中で、それもここでしか使えない能力なんていらない」

静かな怒りを込めて、もう一度机を脚でたたくと先ほどまであったお菓子やゲーム機は全てなくなっていた。

「あらすごい、私と同じくらいの精度じゃない」

「さっさとこんな世界から解放して、あの悪夢から解放してくれ。もううんざりなんだ!」

僕がヒステリックに叫んでも悪魔は何も言わずクスクス笑っている。

「僕は…あんな悪夢もううんざりなんだ…」

あのいくら耳を覆っても、逃げても、人がいる限り悪口やら暴言やら言われ続け、

慣れることが一切ないあの世界。

いつの間にかこの世界でも机や椅子が消え去り、僕は床にはいつくばっている。

「あの世界をどうにかしたいなら、貴方自身がしないといけないわ」

「…?」

「最初の時も言ったでしょ?私じゃなくて貴方がやるのよ」

「ふざけるなよ、お前がやったことだろう…!」

胸倉を掴もうとして距離を立ち上がり距離を詰めたが普段のにやついた笑みがそこにはなく、

たじろいでしまう。

「貴方がやらないとあの世界はどうにもならないわ。逃げるか、立ち向かうか、はっきりしてね」

それを言い終わる頃にはいつものにやついた笑みに戻ってしまう。

「私は貴方がどんな選択肢をしたところで応援するけど、貴方は私がどんな選択をしたところで私を応援する保証はないものね?」

「…」

こいつの言っていることはいつも要領を得ない。最後にはあやふやなままぼやかしてしまう。

「ほら落ち着いて」

そういうと悪魔は僕の後ろから抱き着いてくる。

振り払いたい衝動はあったものの、すーっと体の芯から冷えるように怒りが落ち着いていくような感覚があった。

「この夢の世界で感情を吐露してしまうと、夢がその感情に支配されてしまうわ。怒りや悲しみだけの世界は悲しいものね?」

「…確かにそうだな」

僕はため息をついてまた椅子に座る。

「でもそんなことしなくてもよかったみたいね?お迎えが来たわよ」

「…また僕はあの悲しい世界に行くのか?」

「さぁ?どうかしらね。応援はするけど」

また一つため息をついて僕は上を見上げる。

そこにはひたすら赤黒いだけの気味の悪い天井が広がっているだけだった。

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