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イシを喰らうモノ  作者: ケアネル
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日記

 幼き頃、保育園の遊び場で泥団子をひたすらに作っていた。黙々と。テレビで何気なしに見ていた番組でツルツルピカピカの泥団子が登場し、地面に叩きつけても割れない。そんな鉄の塊のようなものを作り出せる事に憧れてか、暇だったからかは記憶力に乏しいので覚えてないのだが、好奇心が旺盛な当時の俺は黙々と泥団子を作り続けていた。だが、保育園の砂場には泥団子をツルツルにも丈夫にもする砂質のものがなく、何度も作っては壊れを繰り返していた。だからと言って保育園を抜け出しそこらの公園に探しに出かけたが、記憶力に乏しい馬鹿なので、その頃には泥団子に最適な砂質のものも覚えていなく作り方もあまり覚えていなかった。

 幼き頃の俺は、記憶力に乏しい痴呆なうえに短気であった。公園に立ち尽くして憤怒していた。自分に。

 許してはいけないこの馬鹿を、おかげで男のロマンとさえ言える、鉄の塊に似て非なる泥団子の錬金術を奪われてしまった。思わず、砂場に飛び込み転がりまくった。怒りの矛先が自分であろうと許せなくて己を痛めつけようとしていた。傍から見なくても頭のおかしい行動である。小さい男の子だとしても十分に頭のおかしく見えるその行動によって、俺の体中は砂だらけになり口の中にも砂が入り込んだ。その砂をなんとなく飲み込んだ。なんとなくで危ない行動していた。バカだった。喉に詰まり呼吸ができなくなり、俺はそこらの公園の砂場に蹲った。死にそうだと生まれて初めて思い絶望した。死に方もこんなバカで恥ずかしい死に様は嫌だと思っても自分にはどうしようもない。

 6歳の俺は短い人生だったなとあきらめかけたその時に、突如として背中に衝撃が走る。背中を何者かによってどつかれたのだ。その衝撃で砂は口から出る…事はなく喉を通り胃の中に落ちた。命の危機を脱した俺は体の中に異物が入ったことを気に掛けることもなく振り返った。命の恩人にお礼を述べるためだ。

「ありがとう、せんきゅーべりーまっち」

 馬鹿は馬鹿らしく最近覚えた単語を口にした。さんきゅー、は間違えてるとどこかで聞きそこだけは意識した。テンキュー説もあるらしいが、今の俺も馬鹿だから正解がわからない。

「——————、—————————」

 命の恩人は何か喋ったようだが耳に砂が詰まっていたのでよく聞こえない。ついでに目にも入っていたので命の恩人の姿も拝むことはできない。どうしようもなかった俺は手を差し出した、握手だ。言葉などいらない、古典にもそう載ってある。古典を読んだことはないが、俺の魂の古典にはそう書いてある。

 命の恩人は砂だらけの手を握ってくれた。心優しき人間だった。そして俺は感謝の意味を込め笑いかけた。すると命の恩人は颯爽と手を放して公園を去っていった。

 「え…?」

 当時の俺は仏頂面で笑い慣れていなく笑顔が引きつっていた。アルバムを見てもどの写真も顔が引きつっている。微妙な顔である。体調が悪いようにも機嫌が悪いようにもどうとでも受け取れる。

 命の恩人にそんな粗末なものを見せたのかひどく後悔し保育園に戻るとタイミングよく昼寝タイムに突入。そのまま布団に潜り込んだ。布団の中で俺は決意した一生笑わないと。命の恩人の機嫌を害したこの笑顔を許せなかった。

 昼寝タイムも終わり親も迎えに来た。仏頂面はいつもの事なので親は俺の顔を見ても分からないはずだが、どこか心配していた。家に帰った俺はこの想いは忘れてはいけないと日記帳と鉛筆を手に取り、ポ〇モンで学習したひらがなを駆使し、未来の俺に残すようにこの日の出来事を綴った。

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