1話-④
……
一旦車を路肩に止めて、簡単に現在の状況をメモしておく。後で国に転生させた旨を報告しなければいけないので、この作業もとても大切だ。
「お疲れ様!初日からよく頑張ったね」
「丸山さんのご指導があってこそです。そういえば、おばあさんまで一緒にはね飛ばしましたけど、あれで良かったんですか?」
「うん、主人公だけ轢くのは難しいから、こういうときは向こうが対処してくれるんだ。まあ国に報告と、後でおばあさんに謝っておかないとだけど」
丸山さんのいうとおり、ふと見るとおばあさんが何事もなかったかのように信号を渡っている。ちゃんと青だ。
「それにしても、宅配みたいな感じで主人公って決まるんですね。世界始めたいなー、あ、こいつ転生したがってる!いいねー!よし轢こう! みたいな」
「需要があるんだよねぇ… 違う場所に移りたいとか、もっと輝ける環境に身を置きたいとか。そう思った人が転生の対象になるからさ」
「車で轢くってのはちょっと申し訳なくなりましたね」
「いいんだよ。他の何かに押し潰されるよりは。ちょっと違うだけで仲間外れにされるとか、苦手なところだけ見られてひどい扱いされちゃうくらいだったら、認めてくれるところを見つけるってのは大事なことだと思う」
「……そうですね。否応なしに普通であり続けないといけないってのは、辛いです。抜けようとすると笑われますし」
「うん、あとは主人公の人次第だね。他の人の気持ちを考える想像力がないと結局、何にたいしても冷たく笑うだけの人間になっちゃうから、そこは諦めないで欲しいよ」
丸山さんは少し寂しそうな顔をしていた。車をもとの駐車場に戻して、今日の業務を終える。これから多くのことを学ばなくてはならない。改めて気が引き締まる一日だった。
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