ファインプレイの裏方
カァーーンッ
ピッチャーの右下を抜いていく強い打球。
反応しても掠りもしないが、後ろのポジショニングによっては
パシィッ
「!捕ったーー!大隣、すげーー!!」
「ファインプレイだ!!」
捕れたりもするが、捕れなかったりもする。
投手の成績にはその投手の実力だけでなく、後ろを守る野手達の実力も関わって来る。
野球の独立リーグ。
”徳島インディーズ”は、リーグ屈指の守備力と投手力が注目され、センターラインの鉄壁ぶりはプロ一軍レベルとも言われている。
ショートを守る強肩の外国人、ジョンソン。
セカンドを守る韋駄天、大隣憲二。
この二遊間は、独立リーグの中では最高とも言われている。
……じゃあ、なんでこの2人が独立リーグなんかで活躍しているのだろうか。
打力が物足りないのもある。なんらかの欠点があるのも事実。
「フンッ!!」
ジョンソンの年齢は30代前半。
今でもチーム屈指の強肩ではあるが、本人は衰えを感じている。
弾丸送球とも言われる速い送球、守備範囲の広さに加えて、送球までの動作もずば抜けて早いのだが……。
「!おっ!」
送球のコントロールが正直、良くない。
ショートバウンドなどの送球は少ないが、一塁ベースから外れる事は珍しくもない。
一方で、セカンドの大隣。チームの1番打者を務め、チーム事情によってはセンターも守る韋駄天。守備範囲にも影響を出せる男の守備は……
「菊田さん!」
内野ではセカンドしか守れそうにない、貧弱な肩によって残念感が出ている。
ファインプレイをしても、そこからの送球はどこにいくか分からないし、ジョンソンとは違った難しい送球で来ることは珍しくない。
守備範囲が広すぎるのもどうかと思う、守備力ではあった。
そして、サード。
ジョンソンと大隣の2人と比べると、守備範囲は広くもないし、派手さもないが、捕手をやらせても十分な強肩を持つ。
「おりゃあぁっ!」
ただし、ジョンソンの送球 + 大隣の送球を組み合わせたみたいな魔送球の使い手。
サードの荒野。
「アウト!!」
「徳島インディーズ!3者凡退に抑えましたー!」
捕手の名神も、リーグでも優秀な捕手として評価されている。
外野陣もバナザード、伊倉といった俊足・堅守・強肩を持つ。守りに関しては、とことん強みを持った選手層と選手起用。ずば抜けた投手は少ないが、個性のある投手陣を駆使する野際監督の指揮もあり、リーグトップの防御率を誇っている。
「しゃーー!」
「おーしっ!まず、先制しようぜ!」
敵の攻撃をキッチリ断って、じっくりと攻めて点をとる。
徳島インディーズ側の得点と、相手チームの得点の”価値”に差をつける事でプレッシャーを与える。
勝ち越したら、確実に勝ちに来るという定石を徹底したチーム。
「3番、ファースト、菊田」
6回の先頭打者は、3番の菊田から。
未だに0-0の均衡状態ではあるが、流れは徳島インディーズ。
カーーーーーンッ
この打席の菊田がスリーベースを放てば、流れるように次の荒野が犠牲フライを打って、先制。
この回は1点止まりとなったが、7回に代打、岸本のタイムリーで追加点を挙げれば、相手は意気消沈で総崩れ。
4-0の完封リレーで、インディーズの3連勝。その点差以上のチーム状態を出していた。
「よくやったぜ、菊田!お前が今日のMVP」
「ありがとうございます、監督」
打点を挙げたのは、荒野であるが。先制のホームを踏んだ菊田の一打が大きい。
監督の野際にこの試合のMVPとして褒められる。4打数1安打であったが
「今日はお前がファーストじゃなきゃ、あの3人の魔送球は捕れてねぇよ」
「………ああ、そーいうMVP……」
何かと軽視されているファーストの守備ではあるが、最後を捕る選手がいてこそのアウト。
打線の核でもあり、魔送球を駆使する鉄壁内野陣を受けるファースト。
地味であるが、こーいうところを見て欲しい時はある。




