再就職できない
第13話 再就職できない
退職後の再就職先は闇雲に探しても見つからないと思い、東京にいる知り合いに紹介してもらおうと思った。これまでに紹介された仕事はタクシーの運転手、警備員、マッサージ師だった。東京を離れて32年。今から東京都内でタクシーの運転手はちょっと難しい。深夜の警備員も体力的に厳しい。優は自分の持つ教員免許を生かした仕事にするか、全く違う仕事にするか迷っていた。
「タクシーの運転手の仕事を紹介されたよ」
「いいんじゃない?私ならやっちゃうかな」
「そうか?体力的にきついかな。土地勘もないし」
「あれこれ探しても多分、年齢的に厳しいんじゃないかな」
「そうだね」
「塾の先生とかは?」
「意外と給料安いんだよ」
「いっそ、起業しちゃえば?」
「簡単に言うよな」
「モデル事務所作ってよ」
「モデル事務所かあ」
「小さいとこは資本金が一千万円くらい」
「詳しく調べないとわからないけど、それくらいなら退職金でどうにかなるかな」
「一人売れっ子がいればかなり稼げるよ」
「ド素人に会社なんて作れるかなあ」
「インターネットでできないかな」
「事務所なしの会社?無理でしょ」
そんなに簡単に起業できるかどうか知らないが経験ゼロの自分が一人でできるものじゃない。
「簡単に作れるのがいいな。ほかには?」
「経営者は何人か知ってるけど、あなたは経営者っていう感じじゃないしね」
「そうかな」
「最初は少しずつお金を増やすって考えたら?」
「う~ん、どうやって?」
「わからないけど…」
「詳しい人に聞いてみようかな」
「そうだね」
インターネットを使う仕事ならば場所にこだわる必要はない。でも、出来れば心のいる名古屋に少しでも近い所がいい。そんなことを考えると東京がいいだろう。
優は休日を利用し、いろいろな所へ出かけてみた。地元のハローワークでは教師のような特殊な仕事の方に紹介できるものはないと言われた。調べると心が通っていた大学に新設の学部があったのでそこの求人票をもらってみた。かなり大変な仕事のようだ。直接、自分から聞きに行った方がいいとハローワークで言われたので地元の私立大学の講師に空きがないかどうか聞きに言ったりもした。
東京の知り合いに電話して、社長の運転手とか短大の講師とか聞いてもらうことになった。さらに、高校生の就職支援員として来ていた方に事情をお話しして企業の方に話を聞いてもらうことにもなった。何でもかまわない、どこかに自分のできる仕事がないかと探してみた。
心には再就職のために今どんなことをしているか伝え、まだ仕事は見つからないとLINEしておいた。多分、心配していると思うから。
それにしても、日本は今、コロナに震え上がっていてあらゆる方面に影響が出ている。心に電話しても出ないことが増えた。バイトや派遣の仕事が忙しいようだ。とにかく、人がいない。心にとってはバイトがきちんと入るからいいのだろうが、彼女の身体も心配だ。コロナが早く終息に向かうように願わずにいられない。心にどんなバイトをしているのか聞くととにかく派遣なので決まってないと言う。日払いの仕事もあるようだ。こんな状況でも必死で頑張っている心に優は「コロナに気をつけてがんばれ!」とLINEしておいた。