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30歳の歳の差婚  作者: 山下 忍
2/3

愛は年齢を飛び越える

前回投稿分の続き。第11,12話を収録。


優の離婚と再就職、心は死んでも守りたいという二話を執筆。


歳の差という問題を優は乗り越え心を守りたい。

第11話 心機一転


名古屋から戻った優は長年、別居していた妻との関係に決着をつけた。お互いもう若くない。いつまでも仮面夫婦ではいられない。あまりにも長く別居していたので離れて暮らすのが当たり前になって、もう一度やり直すという気分ではない。話し合いは短時間で終わり、お互いに相手に礼を言うとそれですべて終了だった。




「離婚したよ」


「ホント?」


「なんとかね」


「そう。お疲れ様」


 心が優を慰めてくれた。


「やっと気持ちが整理できた」


「良かったね」


「ありがとう」


 気持ちが整理出来たのは大きい。これで新しい生活を考えることができる。


「教師を辞めようと思う」


「急にどうしたの?」


「いや、ずっと考えていたんだ」


「辞めて何するの?」


「全くわからない」


「先生は辞めないほうがいいと思うなあ」


「確かにこのまま続けていたほうが安定はしてる」


「でも、辞めるの?」


「うん。決めたんだ。新天地で新しい仕事をする」


「いつ?」


「まだ、先だよ。来年の3月までには決める」


「それでもずいぶん急じゃない?」




 妻との離婚が優の心を開放的にしていた。ずっと背負っていた重い荷物を下ろした感じと言えばいいか。


「わかった。私も応援するね」


「ありがとう。社会に出て荒波に揉まれてるっていう点では心のほうがずっと先を行ってるから色々教えて欲しい」


「私は何も知らないけど」


「頼りにしてるよ」




 公務員でずっと過ごしてきた優は社会のことは無知だった。公務員を辞めて何が出来るのか、不安はあるがもう後には戻れない。


「地元を離れて東京に行こうかな」


「東京はどうかな…物価高いよ」


 別にどこでもかまわないが、自分の年齢で仕事を探すなら東京くらいしかないだろう。名古屋へ行って心と籍を入れて、一緒に住むことができればいいがそんな話は心は絶対認めてくれない。


「とにかく、今は離婚したばかりなんだから焦らず探すしかないね」


「そうだよな」


 最近、心が大人になって来たと思う。説き伏せられることも増えた。


「ね、お祝いしよう」


「え?何の?」


「ん~、離婚できたお祝い」


「そうだね」


「いつがいいかな?」


「そうだね、いろいろ手続きがあるからそれが終わったら」


「わかった。後で連絡ちょうだい」




 新しい世界に向かって歩き出す。若い時なら気持ちが弾んで前向きな気持ちだけでいられたかも知れない。年齢とともに柔軟性に欠けて来た優は新しいことへチャレンジする勇気を探していた。幸い、優のことを応援してくれる仲間もたくさんいる。彼らの言葉も励みになる。


「辞める」


「本当ですか?本条先生」


「うん、決めたよ」


「そうなんですか。頑張ってください」


 仲のいい教師はみんな優に辞めないほうがいいと言った。




「ずっと考えていたことだから」


「残念だなあ」


「本当に心配してくださってありがとうございます」


「本条先生が辞めるとは思わなかった」


 教頭に辞めることを伝えるとそう言われた。会社と違って退職願など書かなくていい。




「毎日、四角い箱に閉じこもって仕事するのはもう止めた。伸び伸び生きて行くさ」


「何だかもう辞めたみたいな話し方ね」


 心はそう言うと笑った。


「何するか考えなきゃね」


「ネットビジネスでもやろうかな」


「う~ん、時間かかるし、スキルがいるよ」


「だよな。どこから手をつけていいか全然わからない」


「私は無難な生き方がいいと思う」


「そうだなあ。教師を辞めて今までと変わらない収入じゃ辞める意味がないな」


「お金持ちになりたいの?」


「それはそうだよ」


「私はお金は要らない。普通の暮らしが出来ればいい」


「二人で暮らせるくらいあれば?」


「そうだね」


 だいぶ前に心が自分を恋愛対象ではないと言ったのが頭から離れなかった。今までもそうなのかどうか聞けなかった。しかも、まだ離婚したばかりだし、年齢のこともある。思い切って聞こうかとも思うがそこでも勇気が出なかった。



第12話 死んでも守る


 心のモデルとしての仕事は以前より減っていた。彼女を使いたいというオファーがなかなか来ない。彼女の持つ雰囲気は決して他のモデルにひけをとらないはずだ。優も心に仕事が来ないことを心配していた。


「仕事がなかなかないんだ」


「困ったね。モデル事務所に相談はしてる?」


「人気と実力の世界だからって」


「そうか。おれにはわからない世界だなあ」


「前にも言ったけど…」


「うん」


「できるだけやってみる」


「そうだね」


「芽が出なかったら就職する」


「わかった。おれはいつでも応援するよ」


 あと20歳若かったら優は「おれがついてる。心配するな」って言う。だけど、今の優にはそこまで言えない。今はただ彼女を静かに見守って彼女が自分を必要とするならいつでも名古屋へ飛んで行くだけだ。


「生活は苦しくないか?」


「ギリギリかな」


「モデルの仕事ないと収入もないんだろ?」


「そうだね。貯金を切り崩したり派遣の仕事をもらってなんとか」


「部屋代高いからなあ。ちょっと応援してあげようか?」


「本当に?でも、無理しないでいいよ」


「無理なら言わないさ」


「最近、電話の声が沈んでるから」


「毎日、お金のこと考えてて」


「心配するな。例え心がどこかで誰かと結婚しても、おれはお前のことは死んでも守る」


「え…」


 優は自分でも驚いた。二人はしばらく無言だった。


「そこまで私のことを思ってくれてありがとう」


「いや、なんか…つい」


 優は恥ずかしくて話を反らした。


「とにかく、明日、お金送っておくから」


「本当にありがとう」


「琥珀の餌代とかもあるだろうし。ワクチンもそろそろだろ?」


「うん」


 電話で良かった。目の前にいたら、まともに顔が見られない。


「今日は遅いからもう寝るよ」


「わかった。おやすみ」


「ん、おやすみ」




 なぜ、あんなことを口走ってしまったのか。「死んでも守る」というのはもちろん、本心だ。しかし、あんなことを言って心に伝わるだろうか?それに他の誰かと結婚してるあの子を本当に守るんだろうか?言ってしまって、優は後悔した。




 秋になって優の高校では運動会や文化祭といった行事が目白押しだった。文化祭にはMANAMIという歌手を呼んだ。彼女はここの卒業生で地元のテレビやラジオでも歌っていた。明るく澄んだ歌声で地元の応援ソングを熱唱した。「笑顔が満開、ふくのしま~」というフレーズが耳に残った。


 今年は三年に一度の公開文化祭でたくさんの人が訪れた。後夜祭の様子を動画で心に送ると「楽しそう。懐かしい」とLINEが来た。これが優にとって最後の文化祭になる。




 昨日、校長から勧奨退職が認められたと話があった。校長も今年で定年退職になる。お互いに無事に退職しましょうと言われて優も苦笑いした。




 優はたくさんの楽しい思い出をこの学校にもらった。五年の間に1700名近い高校生を見たことになる。昨年の卒業生たちは最も印象深い。1時間目はだいたい眠かったり、テンションが上がらなかったりで静かにしているクラスが多い。しかし、去年は違っていた。朝から元気なクラスが多く授業を聞くようになるまでかなり時間がかかった。個性的なメンバーばかりで名前を覚えるのも早く、一年経った今でも多くの子の名前を覚えている。明るく真面目で挨拶ができる生徒たちというのがここの生徒たちだ。




 優にとって今一番の問題は次の仕事だ。いったい何をすればいいのだろう。自分でもいろいろ探してみたがまだこれといった仕事は見つからない。地元では自分に合った仕事は見つかりそうにない。やっぱり東京に行くしかないかと思った。

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