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サッド・ウォー  作者: 桜野ヒロ
3/3

夜を思う

2ヶ月ぶりぶりざえもんでーす(は?)

しばらくモチベなかったから......許して♡

月一で更新出来たらやっていきますね( *˙ω˙*)و

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 秋夜が愛知の防衛線の最前線で獅子奮迅とも言える活躍をしている頃、東京都鬼滅軍本部。

 その周囲は、鬼滅軍の兵士たちで囲われていた。

 理由は一つ、愛知に攻めてきたという鬼達が来た時に備えて兵士たちは本部を守るべく、愛知支部から鬼達を全滅させたという報告が来るまで見張っているのだった。

 いつ鬼たちが攻めてきてもおかしくはない、という緊張感が漂う中、防衛網の後方で待機している因幡 冬華の友人である最上 忠勝が不意に口を開いた。


「あーあ、暇だなー。

 早く鬼ども攻めてきてくんねーかなマジで。

 毎度毎度こうやって東京で待機すんのも嫌なんだがなー」


「ちょっと忠勝、そんなこと言わないの。

 平和っていいことじゃない」


 愚痴を零す忠勝を茶色の髪を短く切っている、忠勝と恋仲である少女、白純 黒奈嗜める。

 しかし、余程不満が溜まっていたのか忠勝は止まることなく、愚痴を続けた。


「いやさ、俺だって男なワケでよ。

 カッコイイとこを彼女に見せてやりたいというかさ。

 でも秋夜が俺達を絶対安全な首都で待機させて、自分だけ美味しい思いしてるせいでさ、全然見せれてねーのカッコイイところがさ。

 ......ホントムカつくぜ。

 流石、戦争ごっこしてるって陰口叩かれてるだけある暴君っぷりだよな、そのせいで俺も絶対槍術鈍っちまったし」


「......そういえば秋夜、そんな陰口言われてたわね。

『隊員を仲のいい身内で固め、安全圏に置いて死なせずにしている戦争ごっこを楽しんでるお子様だ』......って。

 正直、そんなことをする人じゃないってのが私の考えね」


 黒奈の言葉に、忠勝は秋夜に対して嫉妬で眉を顰めた。

 彼からすれば嫌いな秋夜の話を黒奈にされて不快だったのだろう。

 幼馴染という立場だからこそ、秋夜の人となりをよく理解しているのだろう、そして秋夜以上に黒奈は恋人である自分のことを理解してくれているはず。

 そんな自信はある、しかし、それでも幼い頃から大嫌いであった秋夜の人物像の話を、自分の恋人にされて自然と腹が立つのだった。

 少し強い口調で、忠勝は黒奈の話を否定した。


「なわけねぇだろ。

 アイツはな、そういう奴なんだよ。

 じゃなきゃ14の頃から戦争なんてしてねぇって。

 ......親に無理やり軍に入れられたとか言ってるが、他の名門出のヤツらは俺らみたいにしっかりと訓練学校を卒業してからだしな。結局、本人も戦争で活躍して英雄気取りたかっただけなんだよ。

 それを俺らに先にされちゃ困るからこうして安全な任務ばかり受けさせるんだ。

 小賢しいヤツだぜ本当」


「あのさぁ......」


「───いいよ黒奈、秋夜はそう思われても仕方の無い行動を取ってるんだし。

 でも、私は彼を信じる。

 小さい頃から私を周りから守ってくれた、優しい秋夜の事をね」


 黒奈が呆れて、忠勝に物申そうとしたが、冬華が宥めた。

 内心では少し傷付いているが、それでもこの場を丸く治める為に冬華は母親のような慈愛に溢れた眼差しで二人を交互に見た。

 そして、包み込むような優しい口調で秋夜への信頼を口にしたのだった。

 その優しさに圧されて、忠勝は態度を変え始める。


「.........フン、まぁ俺はあいつの事大嫌いなのは変わんねぇよ。

 でもまぁ、これ以上言ったら冬華に悪いしな。

 いいさもう。

 それに、不満なら堂々と家ってきっとアイツ(・・・)も言ってたからな。帰ってきたら速攻文句言ってやるぜ」


 忠勝はどこか懐かしむように、もう一人の友人を思い浮かべながら、秋夜への愚痴を終わらせた。

 忠勝の口から出た、もう一人の友人の事をふと思い出し、黒奈と冬華は二人とも、その友人の事を心配するのだった。


「元気かなアイツ......秋夜と同じで14の時に無理に戦争に参加させられたけど......。

 可笑しいよね、父親が稀代のテロリストだったからって無理に戦争に参加させて捨て駒にさせるなんて。

 本人はテロリストとかと関係ないってのに」


「秋夜が言うには、諜報員として鬼達の領土に潜入させられてるって。

 ......たまに報告が来るみたいだけど、元気だって。

 そろそろ鬼達の幹部になりそうだって自慢げに話してたみたいだよ」


「マジか!?

 そりゃそろそろ敵として俺らと戦う羽目になりそうだなあの野郎!!

 もし戦場で会ったらどうしたやろーかなー!!」


「オイそこ!! なに油売ってんだ、警戒怠ってんじゃねぇぞ!!」


 話題が膨らみかけた矢先、忠勝が大声を出したせいで上官に怒声を浴びせられる三人。

 直ぐに頭を下げて、謝罪を述べたのだった。


「申し訳ありません!! 以降気をつけます!!」


「上官が風魔少佐だからって図に乗るなよクソガキ共が!!

 次やってんの見たら煌月様に報告してやるからな!!」


 最後に忠告だけ残し、足早と上官がその場を去る。

 遠くまで行ったのを確認するとすぐに黒奈が、大声を出した主である忠勝を責めた。


「ちょっと忠勝!

 あんた気を付けてよね、私達も巻き添え食らうんだから!」


「いや俺は悪くねぇだろ、今回は冬華が悪ぃだろ。

 アイツが鬼の幹部になりそーだーなんて言うもんだからよ......」


「あはは......ごめんね忠勝。

 余計なこと言っちゃったな」


 雪のように白い髪を弄りながら、冬華は忠勝に謝るのだった。

 忠勝はおう、と短く切り上げてから、また怒鳴られないように偵察を再開させ、黒奈も忠勝の後ろを着いていく。


(───秋夜、無事だといいけどなぁ......)


 そんな心配を抱きながら冬華は、少し遅れながらも忠勝達の後ろを着いていくのだった─────


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 鬼滅軍愛知支部、作戦会議室内にて。

 円卓を部屋の中央に置き、指揮官であった北条氏は、自身の部下達の講義を一身に受け止めていた。

 というのも、茨城の総司令官でもある秋夜が作戦指揮を握るということに、部下達はある種の危機感を持っていたのだった。


「司令!! なぜ、茨城県の総司令官である風魔少佐に、一時的とはいえ愛知の軍に対する指揮権を委ねたのですか!?

 彼は危険です!! なぜなら彼は、反乱軍とはいえ同じ人間を冷徹に、冷酷に冷静に殺せてしまう......鬼との混血です!!

 奴が密かに鬼と繋がっているという噂も絶えません!!」


「そうです!! 奴ならば、実に合理的な作戦だと見せかけて現場の兵士を騙し、敗北へ誘導することも可能でしょう、それくらい彼の頭は優秀なのです!!」


「そもそも、他県のものに指揮権を握らせる、その行為自体危ないものだ!!

 彼が茨城を手に入れた要因をご存知ですよね!?

 ───今のような状況で、反乱軍から狙われていた茨城の当時の総司令官が当時東京渋谷支部の副司令であった風魔少佐に指揮権を委ねて、茨城の反乱軍を壊滅させた......そこまでは良かった!!

 しかし、風魔少佐はあろう事か『総司令官として不甲斐なし』として煌月大将に報告し、茨城の総司令官はその地位を取り上げられた果てに自害なさった!!

 ......彼のやった事が広まり、新たに反乱軍を生み出す要因となった!!

 なのに、あなたは二の轍を踏むというのですか!?」


 次々と押し寄せてくる詰問の波を、北条氏は落ち着いた様子で、兵士達を一瞥してから答え始めた。


「ならば、こちらも質問させてもらうが......

 君たちは本当に、私の指揮下の元で鬼たちを下せると思ったのか?

 君たちは私と長年苦楽を共にしてきた、だからこそ私の欠点は承知のはずだ。

 ───私は確かに、籠城戦や防衛戦の作戦立案は得意だ。

 しかし撃退戦、迎撃戦等の作戦立案はめっぽう苦手だ。

 この意味、君達なら分かるだろう?」


「...............」


 北条氏の言う意味、それは自身は耐えることしか能が無いという事だった。

 しかし、北条氏は耐えたその先の事に不安を抱いていたのだった。


「援軍は風魔少佐の一人のみ。

 しかし、君たちは風魔少佐の能力をどこまで把握している?

 私と違い長年の付き合いは無いし、そもそも普段は前線を出れない風魔少佐の実力を、君たちはどこまで把握して、彼の行動を予測して作戦に組入れることが出来る?

 ......言ってみなさい」


「......出来ません。

 我々は少佐をよく知らない。ですので、彼を作戦に組み入れることは到底、出来はしないでしょう」


 部下達の答えを、北条氏は頷き、そして話を続けた。


「だろう?

 ならば現場にいて、尚且つ我々の戦力を瞬時に見抜く事ができ、即座に指揮を出せる風魔少佐が今、この場で適任なのは言うまでもないだろう?

 ......それに彼は、言うまでもなく茨城での事を反省しているはずだ。同じ過ちは繰り返さんよ」


「しかし、しかしです司令。

 その保障はありません。

 彼が本心を隠し、欲にまみれた人間ならば、さらに幅を利かせる為に愛知を吸収ということも有り得ます」


 北条の言葉に説得された部下は大半だった。

 しかし、それでも引き下がらない一人の部下がいた。

 赤毛を角刈りにし、眼鏡をかけた青年である北条氏の事を慕っている羽柴(はしば)だけは、未だに秋夜の事を信用しようとしないでいた。

 羽柴の警戒を解すには骨が折れる、そう確信した北条氏は羽柴に目線を向け、再び説得を試みる。


「以前、各県の総司令官、総責任者が集まり会議を開いたことがあったな?

 その時に風魔少佐自身が真剣な眼差しで二度としないと誓い、我々にしっかりと事情を説明してくれた。

 どうやら当時の茨城の総司令官であった本田氏は密かに鬼達と内通していたようだ。

 それを突き止めた風魔少佐は、脅迫材料を手に、指揮系統を譲るように脅したようだ。

 ......ちなみに、茨城にいた反乱軍というのは全て風魔少佐が用意した兵士達らしい。

 さながら劇に踊らされた道化のように、本田は息を引き取ったようだ」


「なっ.........!?」


「決して喋らないことが約束だったが......まぁ、過去一番愛知がピンチなんだ、団結力のために破っても文句は言われんだろうが、君たちも黙っておいてくれよ?

 彼は単に、汚れ役を自ら演じきっているのだからね。

 綺麗な噂が流れては彼の苦労が台無しだ。

 羽柴、信じるかどうかはお前次第だ。

 しかし私は、彼を信じる。男としてな」


 北条氏の覚悟に圧されて、羽柴も口を閉ざす。

 秋夜の勝利を信じ、決意を固める彼の眼差しは到底折れるものでは無いと理解した羽柴は自らが折れることを選択し、口を閉じる。

 そうして、彼らの抗議の声を納めた北条氏は、窓から外の景色を見る。

 各方面からは狼煙が上がり、爆発等は未だに無い、いつも通りの静かな戦場。

 仮に、ここに戦車や爆撃機が現れれば一瞬で、出された方は負けるだろうと北条が考えたその矢先───突如として、はるか先にある、ギリギリ見えるくらいに位置する建物が爆発したのだった。

 何が起こったか、そんなことを知る由もなく、北条氏は数分後に『秋夜が行った』と聞かされるまで不安を抱き続けるのだった───。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ちょうど、建物に爆発が起こったその頃、戦場では。

 前線まで急いでいる龍雅と、その従者たちがいた。

 ふと、爆発が起こった方に視線を向けて龍雅は相手の実力を見抜いた。


「───凄まじい呪力の量やな。

 お前ら注意せぇや、今前線で暴れとるやつに呪術師がおる。

 お前らは長い歴史のどっかで人間と交わった鬼達の血ひいとるから見えへんやろうが......ワシは見えたで敵の呪力。

 中々楽しませてくれそうなやつやないか......!

 多分、前に殺りあったあの地味男並に楽しめるで」


「地味男って......あの、大将と互角に殺りあった人間側のバケモンみてぇなやつでっか?

 まさか、そんな奴が二人も三人もおられたらたまりませんわ大将!!

 冗談は辞めてくださ───」


「なんやお前、ワシが冗談言うとるた思っとんのか?」


 龍雅の冗談だと笑い飛ばそうとする一人の従者に対して、龍雅は思わず身震いしてしまう程に威圧的な視線を向ける。

 その重圧は、冗談だと一蹴しようとした従者からすれば死そのものだと錯覚するような程であった。

 その圧から逃れたくて、従者は咄嗟に首を横に振る。

 しかし龍雅は、許すはずなど無かった。


「───次、ワシが戦場で冗談言うとると抜かしおったら......お前を殺すで?」


 圧とともにやってくる龍雅の言葉に、思わず従者は失神してしまった。

 他の従者の二人が起こそうとする。

 しかし、龍雅はそれを止めて、先へ進むことを促した。


「やめい。

 そんなアホ放っといてさっさと次行くで。

 ......コイツは小心者や。やからこそ、死にそうやと思ったらすぐに飛び起きてこっちの方に向かってくるわ」


 龍雅は、信頼とも言える言葉を口にし、失神した従者を置いて先を急いだ。


 ───前線へ向かって進むにつれ、鬼滅軍達の兵士達の士気が高揚しているのに龍雅は気が付くのだった。

 遠くからでも感じる、その活気の良さに違和感を抱いた龍雅は、ある結論に至る。


「......なるほど、援軍のモンと指揮権を交換したんやな」


 そう、龍雅は指揮権が交代されたことを見抜いたのだ。

 彼は作戦を考えれるほど頭は良くない。

 しかし、長年の戦闘経験から、正解を見出したのだった。

 いきなり敵の士気が高揚していると思ったら指揮官が変わっていた、ということは、敵側......、すなわち鬼滅軍前政権ではよくある事だったというのも要因だろう。

 しかし、あまりに段違いすぎる高揚ぶりに、龍雅はさらに相手を予想する。


(なるほどな......今回の相手は一際手強い奴やいうことやろうな。

 これは油断せずに行かな殺されてまうやろうなぁ)


「おいお前ら、さっきも言ったと思うが......」


「わかってますよ大将!!

 気を付けろ言いはるんでしょ?

 なんか......さっきの爆発と言い、大将がさっき言ったことがよぅく分かりましたわ。

 それにしても、思ったんですが相手の風魔 秋夜とかいうのはいったいどんな人間なんでしょうなぁ......。

 強さ、というよりも性格が、の方ですが」


 従者達の疑問に、きっぱりと龍雅が答える。

 彼の思う、秋夜という人間を。


「決まっとる。

 戦場におる以上、覚悟を決めとる奴や。それでいて、殺すのに躊躇がない人間の屑やろうな。

 ......こんなもん極論やけどな。

 だが、ワシは殺すのに躊躇がない人間の屑いうても、快楽的に、死を見せもんするほど外道ではないと、ワシは思うで」


「......ある程度の誇りを持った、人間ってわけでっか?」


 従者の言葉に、龍雅は頷いた。


「せや......ワシの見立てではの。

 まぁ、誇りがあったらの話や。誇りなんてもん犬に食わせたいうやつなら、ド外道やろうけどな。

 まぁ、鬼の血が流れとるんや。誇りは捨てとらんと思うんやけどな。流石に、同族に対して何かしら思うことはあるやろうと思っとるで。

 ......ちゅーか何無駄話しとんねんおどれら!!

 はよ歩かんかい、いてまうぞオルァ!!!!」


「す、すいやせん!」


 喝を入れるように怒声を浴びせた後に、龍雅はさらにもう人段階早く駆ける。

 その後ろ姿は、従者たちにとっては何よりも頼もしく、そして遠い憧れに見えることであっただろう。


 ───そうして、龍雅は戦場の最前線、秋夜のもとへと辿り着いた。

 しかし、その最前線の光景は龍雅が予想していたものとは大いに違うものだった。

 上半身や下半身が無い、自身の部下達。

 彼らの衣服を見ると、泥や靴跡が付いている。

 ということは、踏まれたり、蹴られたいしたというのはほぼ確実、といったところだろう。

 彼らの屈辱的な光景を凝視し、龍雅は静かに怒りを抱き、周囲を見渡す。

 しかし、今は拮抗しあっている兵士達が殆どで、その場を圧倒するものは居ない。

 別の場所に移動したというのを察した龍雅は、すぐにその場から離れ、目の前にいる人間達を容赦なく大剣で切り伏せていった。

 修羅のごとき形相で龍雅は秋夜を探し始めた。

 自分が想定していたよりもさらに最悪、最低な人間であった秋夜を、この手で惨めに殺してやる。

 龍雅の中ではその気持ちだけが反芻し続けていた。


「どこや......風魔秋夜!

 お前は絶対にぶっ殺してやるで─────!!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 鬼達を殺しつつ俺は、戦場を動き回る。

 ずっと留まり続け、龍雅に遭遇する時間を早くするよりもこうして龍雅との遭遇を遅らせつつ鬼達を殺す方が効率的だからだ。

 数を減らさねば。

 出来る限り数を減らし、龍雅に数を集中できるようにする。

 それが今の、俺の狙いだ。

 龍雅はなるべく早い目に殺しておくべき鬼というのは実に明白だからな。

 実力だけ、でいったら龍雅は恐らくこの日本においては他の追随を許さないだろう。

 一応、対抗出来るのは一人いるが......短時間しか相手にできない。


「......ならばこそ、頭を使って龍雅を殺す、俺はそう決めた。

 この戦いで龍雅に退場して貰わないと後々困るからな。

 ......冬華に危険が迫る可能性がある。それだけは避けんとな」


 そう、冬華が危なくなるのだけは避けねばなるまい。

 冬華は夢見がちな少女だ。

 きっと、俺がこの戦争を幼馴染五人無事に生き抜きたいと考えているのだろうが......残念ながら違う。

 俺は冬華さえ生きてくれればそれでいい。

 それで俺が死のうが、今は俺の事を好きでいようが時間が経てば他の人間を好きになるだろう。

 病と一緒だ、患いをするが放っておけば治る。


「しかし全く......中々治らない病だな冬華の恋心は」


 一人、笑って愚痴りながらさらに鬼達を手にかけて行く。

 ところで、この光景を鬼達はどう思ってみているのだろうか。

 傷だらけな俺の風体からして、まさに悪魔そのもの、だろうか。

 まぁ、俺はそのつもりでいるから思ってくれて嬉しいわけなのだがな。


 ───一体の鬼を手を掛けた途端、ふわり、と視界が揺れた。

 恐らく、じゃないな。

 完全に呪力の使いすぎだな、バカスカと打ちすぎてしまったか。

 しかし......龍雅は別に俺が相手にするわけじゃない。

 だからこそ。

 もう少しだけ無茶をさせてもらうぞ、俺の体よ......!


 呪力を再び行使し、俺はそこらにあった廃ビルを爆破させて、鬼達を下敷きにした。

 恐らく、鬼たちは1万弱の兵力で攻めてきただろう。

 そして、今は恐らく四割近くを殺せたろうか。

 呪術を積極的に使って正解だったと睨むべきだな。

 最終的には今の兵力で愛知に攻めてきた鬼達を皆殺しにせねばならないのだから。

 愛知の者たちには申し訳ないとは思っている。

 ハッタリを言ってしまって、後で殴られるだろう。

 それは仕方ない、が。見方も騙さねば士気を高揚させるのは成功しない。

 なので、今は踊っといてもらおうか。

 ふと、この中に忠勝が紛れていたらどうだったかを想像してみる。

 俺にしょっちゅう突っかかってはやれ戦場へ出せだのとほざくアイツだが、正直弱い。

 鬼滅軍で一番戦争を軽く見ているのは、あいつだと、俺はそう思う。

 恐らく、今も愚痴っているだろうが......幼馴染でなければ今頃戦場に駆り出し、特攻兵として死なせていた。

 それくらいあいつは弱いし、要らない存在だ。


(......武器の扱いはまぁ、確かに舌を巻くがな)


 周囲を見渡すと、鬼達の数は明らかに減っていた。

 未だに龍雅と遭遇しないとなると、龍雅は今頃真逆の方向を向かっているのだろう。

 運を味方につけた気で、俺は周囲の兵達をさらに元気づけるべく行動を起こした。

 刀を空に掲げ、俺は声を張り上げる。


「諸君!!

 見たまえ、鬼の数が明らかに減っているぞ!!

 このままの調子で鬼達を殺していけば、東京の精鋭達がこの地に到着する前に鬼達を殲滅できる!!

 ......要は、自身達の強さをアピール出来るチャンスだ、出世の芽も出る!!

 そのまま鬼達を殺す作業(・・)に励むといい!!!!」


 俺の号令に押されて、兵士達は咆哮に似た雄叫びを出しさらに貪欲に鬼達と戦闘を始めた。

 ......このまま鬼達をみるみる減らしてもらおう。


「見つけたで、風魔秋夜やな────!!」


 俺がそう、陰湿なことを思った矢先に、隕石が落ちてきた、とでもいうべきか。

 この世の生き物とは思えない速さで、龍雅は荒々しく俺の目の前に現れた。

 怒り狂っているのが目に見えて分かるほど、龍雅の形相は険しく、そして殺意溢れた目をしていた。

 軽く、絶望に近い感情が湧く。

 まさに、災害というべき存在。それが、龍雅という男なのだと俺は理解した。

 しかし、それでも俺は震えを隠しながら虚勢を張らねばなるまい。

 十四の時に初陣を飾ってから覚悟をしていた死などいざ目の前に迫っても怖くないと────!


「その通り、この私が援軍としてやってきた茨城の総司令官であり、禁呪使いである風魔秋夜だ。

 君は......そこの転がっている死体の回収をしに来たのかい?

 勤勉な事だ、思わず...フッ、笑ってしまうよ」


 ほくそ笑みながら、絶望と対峙するのだった───

次回「秋夜死す!」デュエルスタンバイ!!(違う)

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