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サッド・ウォー  作者: 桜野ヒロ
1/3

終わらない夜

どうも。

以前消した小説をリメイクして作ってみました。

就職のどーのこーのが終わってからというものの怠けてばっかりいました、もうしわけありません。

『ねぇねぇ、秋夜!! これ読んでみてー!!』


 幼い頃、彼女に一冊の本を渡されたことがある。

 それは国が世に流すことを禁止した本だった。

 内容はシンプルな脱走劇だったが、それは我が軍の内部をこと細く書かれているし、何より我が軍最大の失態と言えるべき事件を元にした物語だった。

 その本が流れたら民衆の信頼は地の底へと落ちる、そう確信した軍の上層部が発刊を禁止したのだ。

 そんなこと、彼女は知らないのだろうがなぜよりにもよって、この本を。


『......コレ、今の日本で持ってたら犯罪者だよ?

 たとえ子供でも、その本を持ってたら殺されるって兄さんが言ってた。

 だからさ、国の人に落ちてたってことにしてさ、渡しに行った方がいいよ』


『えー? でも、知らないお兄さんがこれは面白いぞって渡してきたよ?

 それに、持ってても怒られるような本じゃないって言ってた!!』


『──────』


 呆れてしまった。

 彼女は元から人のことはすぐ信じてしまう、恐ろしく愚かなことは知っていたが、まさかここまでとは思わなかったのだ。

 彼女は親に知らない人から物を貰うなとしつけられなかったのだろうか。否、しつけられて尚もこうして、知らない人を信用するのだろう。

 それが彼女の美徳な点ではあるが同時に不安材料でもある。

 渡されたものによって彼女が何かに巻き込まれたりしたらと思うと気が抜けない。

 現に、渡された本なんかがいい例だ。

 恐らくだが、この本を渡したのは反乱軍の分子だろう。

 この本を民衆に渡すことで民衆のヘイトを軍に向けて、反乱を援助をするよう仕向ける腹積もりなのだろう。

 まったく、下らない。

 彼らの行為は所詮偽善、もしかは価値観の押しつけに過ぎない。

 確かに、日本を統治している軍は相当黒い部分があるが、反乱軍はその黒い部分の一つに過ぎない。

 自分達がこの世を変えれる、そう信じ込んでいるおバカさんたち、その正体こそが反乱軍だ。

 理想だけ語るのは自由だ。しかしいつも行動が遅い。

 そんなヤツらが仮に軍を倒し、自分達で国を引っ張って行こうとしても精々引っ張れるものはお互いの足だけだろう。


『あのさ、無知なのはこの際仕方がないけど冬花、せめて知らない人から物を受け取るのだけはやめようよ。

 僕、心配でさ。いつか冬花が何か揉め事とかに巻き込まれるんじゃないかなって』


『それなら大丈夫!!』


『だって、わたしには秋夜がいるもん!!』


 そう、彼女は俺の不安を消し去るようなほど眩しい笑顔を向けて言い切った。

 最初は馬鹿にしてんのかなと思ったけど、これが幼い頃の彼女が表現出来る、精一杯の信頼を意味する言葉なのだと気付いたのは少し先の話だった。



 ───その笑顔と、その言葉が今も尚、俺の心の中で反芻され、力となってくれてるのは彼女には内緒だ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 正暦2002年2月26日、日本では未来永劫語り継がれるであろう激震の出来事が起こった。

 古くから日本に存在する人間と同一の姿だが、相容れない亜人種、『鬼』。

 彼ら全員を害獣と認定し、積極的に駆除を奨めた法令、『亜人種“鬼”絶滅令』。

 その法令が発令されて間もなくして、当時の全国の警察組織の『亜人種課』が動き、次々と鬼を駆除し回った。


 だが実の所、鬼は一部しか人間に害する行為をしておらず、それも復讐が大半を占めていた。

 このいわゆる駆除令は結局、人間側の都合でしかなかったのだ。

 人間は、その少数でかなり手を焼いており、これが大半を占めてしまったらどうしよう、と焦りを抱いたのだ。

 そして、身勝手に行われた駆除令に鬼達は激怒し、徹底的な抗戦を行い、なんと純人間の十分の一しかいない鬼の軍団は関西全土を人間から奪い、勢力を拡大させて行ったのだ。

 こうして十七年間、今も尚、鬼と人間の最終戦争行われているのだった。


「─────以上が、今回の昇級試験の範囲だ。

 教科書で言うと三十五ページ、平安時代の鬼の誕生から百五十二ページの現在に至るまで。

 頑張って筆記だけでも点数は取っておけ。分かったな因幡一等兵」


「秋夜ー、今まで黙ってたけど所々個人の解釈混ぜてるよねー? 公式の試験官としてそーいうの、ダメだって昔言ってたじゃんー」


「フン、仮にそうだとしてもそれがどうした?

 最近は上層部の実権を俺の兄や煌月大将が抑えていてな。そういうのには少し緩くなった。

 なんで幾らでも郡の悪印象を書き放題さ。

 それに、自分達の愚かな部分を認めようとしないのは人の悪いクセだ。認めて前に進ませないと、鬼には決して勝てないだろうな。

 あぁ、そうそう。件の法令に関して幾つかの余談だが、実は煌月大将の父が裏で政府にその法令を作るよう迫ったり、その法令が発令されてから死ぬまで、法令通りに鬼を殺し回った鬼がいたらしい。

 ここも試験に出そうと思うので、しっかりと勉強しておくことだ」


 くくく、と悪戯に笑う俺に呆れる視線を冬花が向ける。

 腰まで届く茶が混じった黒の長髪を自身の背筋に密着性せながら少し嘆くように溜息を吐き、同時に不満を零した。


「ちっちゃい頃は私のお兄ちゃん的な感じだったのに。

 こういうのはダメだーって私に厳しくしてさ、酷いよね今は秋夜がグレーゾーンに突っ走ってるんだから」


「兄や煌月大将のおかげで幼い頃から我慢されていた欲が噴水の如く湧き出てきてな、休日は禁書庫で缶詰さ。

 あの無能な老害どものせいで俺が今まで読めざるを得なかった本が一体、どれほどあった事か。

 ふふ、奴らは屈辱だろうさ。混血の俺や兄が、まさかの軍の最高戦力の一角となってしまったのだからな!!」


 外に漏れそうなほど高らかに笑う。

 冬花は再度嘆くように溜息を吐いた。


「はぁーあ......今は私がお姉ちゃんかぁ。

 それだと、色々と逆転してヤなんだけどなぁ......」


「安心しろ。俺がお前を守るのには変わりないからな」


 彼女の憂鬱を振り払うように力強く宣言する。

 今は長年の抑圧されてきた欲望が解放され、いつもよりも遥かに上機嫌に過ごし、冬花を振り回しているが、俺が今の力を得るまでの過程のどれにも、幼い頃に冬花の言ってくれた言葉が刻まれている。

 その言葉が胸に反芻される限り俺は冬花を護り、最終的には冬花に戦争のない幸せな日々を過ごさせてやりたいと思っている。


「......ありがと」


 照れくさそうにそっぽを向き、感謝を述べる冬花。

 だが、すぐにいつもの姉ぶった態度を見せる。

 しかし顔は不安を隠せない、そんな瞳で俺に訴えかけた。


「でも忘れないでね。自分が助かる範囲でいいの、私は、秋夜が───────」


「風魔少佐!!」


 冬花が何かを言おうとしたその瞬間に、慌ただしく講義室に一人の兵士が駆け込む。

 ......様子から見て鬼が攻めてきたのだろう。スイッチを切り替え、兵士に訊ねた。


「どうした?」


「増援要請!! て、敵襲です!! その、りゅ、龍雅と思われる鬼が率いている軍勢だとの情報で......!!」


 龍雅、鬼の軍勢の副将軍。

 実力も鬼の軍勢内ではトップにあるという。

 噂では、彼が現れる戦場は必ず台風が発生し、戦場を混沌にする、ともっぱらの噂だ。

 まぁ、台風が発生しそうなほどの強さ、とでも捉えるべきだな。そもそも、普通に台風を発生させる奴とかが居たら先ず、人間側は十数年と持たない筈だからな。


「分かった。場所は?」


「愛知の中央部にまで攻められているらしく......!!」


「確か、愛知の統治者は......北条か」


 今、俺達のいる場所は東京都だ。愛知までは少なくとも車で三時間は掛かる。

 ヘリなどがあれば苦にならないのだが......指で数えるくらいしかない為、兵士を運ぶのは困難だ。

 なら───────。


「俺だけで行く。北条は籠城になればその名の通り、最硬の守りを保ち続ける。

 三時間の籠城なんて、彼奴からすればサウナと同じ感覚のハズだ。

 俺さえ行ければ───すぐにでも、鬼の軍勢を消してやる」


 部屋を出ようと、足を運ばすと冬花が後ろから袖をぐい、と引っ張ってきた。

『一人だけで行かないで』、そう懇願するように。

 だが、そうはいかない。道中に何か罠があるとしたら班の誰かでもいたら動けなくなるからだ。

 俺だけなら反乱分子の雑兵くらい容易いが......巻き込む訳にはいかない。


「大丈夫だ冬花。絶対に戻ってくるさ......黒奈と忠勝に伝えといてくれ。

『東京の防衛は任せた』......とな」


「信じて、大丈夫?」


「勿論。()の時のような無茶はしない」


 袖を引っ張る指を優しく除ける、俺は講義室を後にしたのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 全速力で車を飛ばすこと二時間が経過した。

 現在の状況を把握しておこうと携帯を耳に当てて、愛知の軍本部に電話をかけた。

 二回目の呼び出し音がなり終わると同時に、誰かが電話にでた。


「もしもし。茨城県本部指揮官の風魔秋夜だ。そちらの現状況を把握したい、情報提供を求む」


『こ、こちら愛知県本部副指揮官の北条綱氏!!

 現在の戦況を説明する!!

 未だ中央部に龍雅と断定された鬼を抑え込んでいるが、かなりキツイ状況、恐らくあと一時間で戦線は突破されるであろう!!

 そちら、援軍は何人でしょうか?』


「済まないな、俺一人だ」


『な......正気か!? 一人の増援でどうにかなる状況か!?』


 電話越しでも耳鳴りがしそうな怒声が飛ぶ。

 俺は愛知の副指揮官を宥めながら事情を説明することにした。


「怒鳴るな、正気故だ。俺の能力は味方を巻き込んでしまう可能性がある。

 万が一の状況になったとすれば、俺はそれを考慮して、力を使えずに殺されるだろう。

 最近少し滞在させてもらってる総本部の軍人達が噂していてな。

 ここ最近、反乱分子の動きが怪しくなりつつある、とな」


『しかし..................!!』


「そちらが怒鳴る理由も分かる。だがここは俺を信用して欲しい。

 目的地の愛知の本部まではあと目と鼻の先と言っても差し支えない。

 到着次第、俺は前線に出て奴らを必ず消すことを約束しよう」


 愛知の近隣の県は恐らく軒並み出動できないのだろう。

 そうでなければ東京に助けを求めないのは明白だからだ。

 兄と煌月大将は今は新しく軍の統制を整える為奮闘している最中だ、彼らに状況を伝えたとしても、俺が結局......いや、無理だから、俺に状況を伝えるよう兵を使い走らせたのだろう。


「面倒なことに─────っ!?」


 なった、そう言い切る前に正面横一列に迷彩柄の大型車三台が道路にずらりと並んでいた。


『もしもし!? もしもし風魔少佐!?

 応答願う、風魔少佐!!』


「............少し遅れる。敵が待ち伏せていたようだ」


 電話を切り、車から降りる。

 それに応じるように三台の車の荷台や運転席から兵士がぞろぞろと出てくる。

 ......およそ二十人以上の兵士達が各自武器を構え、俺を睨みつけた。

 白の帽子に白の制服......俺達軍の制服を勝手に塗り替えたのは反抗のつもりか。

 反乱軍の分子達が、俺の道を阻んだのだった───。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 東京総本部の講義室では、机に突っ伏した様子で憂いの情を浮かべる冬花がいた。

 秋夜が外に出て数時間が経ち、同僚の黒奈と忠勝に事情を伝えた後、はぐれた子供のようにとぼとぼと行く宛がなかったのか、講義室へと戻った。

 談笑をしようという気になれなかったのだ。

 想い人である秋夜が一人で戦場に出た中、自分達は談笑をするのは彼女からすればあまり心地のいいものではない。

 彼女にとって今、この空間は無力感が突風となって襲ってきているのだった。


「......だから、私も手伝いたかったのになぁ」


 だが、無理強いは出来ない。

 秋夜は皆を守るために戦っているのだと、冬花は思っているからだ。

 もし、自分のためだけと分かれば説教をして着いていくところだが、味方全員を守りたいとなれば、話は別だ。

 冬花たちの所属する軍、鬼滅軍では徴兵制で半ば強制的に兵士となった者が戦争に慣れておらず、恐怖心で心が一杯でまともに戦えない状態に陥ることなどザラざからだ。

 そんなものを気遣い、気遣ったものが隙をつかれて頭を撃ち抜かれて死ぬ。よくある事だった。

 秋夜は自分達が訓練生として励んでいる間に何度もそういった瞬間を見てきたのだろう、だから秋夜は皆をなるべく戦争に出さずに勝ちたいのだろうと、冬花は思っている。


 風魔秋夜は齢十四に初陣を飾り、以降三年間戦場で暮らしていた。

 暮らしていた、と言っても過言でないほど秋夜は戦争に参加していたのだ。

 訓練生として鍛錬を積みつつも微かな青春を謳歌できた自分達と違い、秋夜はそんな楽しみを味わえずに、血筋の優秀さが仇となって戦場へと駆り出され、見たくない仲間の死を見てきたが為にそして、皆を守れる力を得たが為に、秋夜は戦場を一人で行こうとする。

 そう、冬花は勘違いをしてしまっていたのだ。


(そういえば、秋夜と久しぶりに会った時......傷だらけだったな)


 冬花と秋夜が再会した日のことだ。

 秋夜は、首根まで伸びていた黒髪が焼き切れて不自然な髪型になっており、端麗だった顔立ちは傷まみれになって、見るも痛々しいモノとなっていた。


(あんなに傷まみれになって......一人で無茶しすぎたんだろうなぁ)


 だから────────自分が、彼を支えてあげたい。

 冬花はそう決心して、必死に勉学や訓練に励み、鬼滅軍に入隊してわずか三ヶ月だ昇進したのだ。

 彼女の動力炉は再会した日の秋夜の姿。

 それだけでこの、元は臆病だった少女は勇敢になれたのだった。

 少女は勘違いをしたまま、憂鬱な気分で講義室に項垂れていた───。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 講義室で冬花が項垂れている頃。

 秋夜は命の危機にあった。

 自分のここ最近の奔放な動きが仇となったか。

 正面には一列に計三台の迷彩柄の大型車が道路の行き先を塞いでおり、大型車の前には鬼滅軍の本来の制服を白く塗りつぶした、反乱軍のトレードマークである服を身にまとっている兵士が二十人以上武器を構えて、秋夜を睨んでいた。


(チ───邪魔だな)


「なぁ、鬼が攻めてきているんだ。どいてくれないか?

 今は権力争いなんてしている場合ではないだろう」


「我々の目的はただ一つ!!

 鬼達の人権の容認だ!! それが一番平和に解決する方法だ、なのにお前達は意固地になって、無作為に鬼を、人を犠牲にしているんだろう!!」


 秋夜を糾弾する、周囲とは違う上官の制服を着た男。

 秋夜はその男が、この集団のトップと判断した。

 そして、その男の言葉を嘲笑した。


「この国に真の平和なんて存在しない。存在することになるとしたらそれは、鬼か人間、どちらかが滅んだ時だけだ」


「そうやって貴様らは─────!!」


 激怒した男が銃口を秋夜に向ける。

 しかし秋夜は臆することなく男達の耳に届くように声を張り上げた。


「決めつけではない、事実だ。平安時代中期から、元は悪霊の退治を理由に生まれた鬼達はその強大な力を恐れられ、迫害され続けた。

 時の陰陽師である安倍晴明が鬼を手厚く保護したからいいものの、安倍晴明が死した時、人は豹変して鬼を迫害した。

 そうやってもう何世紀にも渡って同じようなことが繰り返されてきた。

 そして現代、人は鬼を見下す習性が、鬼は密かに人に怒りを抱くようになった。

 少数とはいえ犯行を犯した鬼達の力を前に恐れた人間達は愚かにも鬼の虐殺を認める法令が出した。

 そのせいで鬼達は激怒し、今までの、先祖代々まで受け継がれてきた恨みを解放した!!

 お前達のような、自分達の考えが正しいと思い込んでいる偽善者のせいで、今の惨状をつくりあげたんだ!!

 お前達保守派は自分達の考えが正しいと思ってるかもしれないがそれは違う。

 時にそれは正しいのかもしれない。けど、蓄積されていくと不安しかなくなる。『次はいつ迫害されるのだろういつ殺されるのだろう』......とな。

 お前達のやり方では永遠と恨みの連鎖を作っていくだけなんだよ!!

 真に正しいことそれは───作った俺達人間の手で引導を渡してやるしかないんだ」


「なら貴様は認めるのか!? そして続けるのか!?

 親が死に伴侶が死に子供が死に友人が死に恩師が死に恋人が死に......死に満ち溢れたこんな、虚しいだけの、悲しい戦争を!!」


「咎を認めなければ前に進めない!! 人も、鬼も認めて前に進むしかもう無い!!

 人は勝利して繁栄の道を......鬼は敗北して滅びる道を!!

 そして続けてやるさ、鬼が滅亡するまで俺は戦い抜いて......戦争を終わらせてやる!!」


 凛とした声で、堂々と男達に秋夜は言い放った。

 男達はその宣言に耳を疑い、秋夜が正気かどうかを疑った。

 確かに、男達も秋夜の噂は耳にしていた。


『鬼相手に一騎当千を成し得る鬼以上の化け物』、それが、風魔秋夜という男だということを。


 しかし信用はできなかった。当然だ、鬼は人間の遥かに身体能力を上回っている。

 それに、秋夜とて───


「お前にできるというのか?

 お前も鬼の仲間だろう!? 若かりし頃に英雄だった男、風魔蒼龍(ふうま そうりゅう)が鬼と婚姻を結び、成した子二人!!

 それがお前達、風魔春朝(ふうま はるとも)と風魔秋夜だろう!!

 同族を殺すということはお前達には辛いのではないのか!?」


 秋夜とて、鬼と人の混血。心は痛むことだろうと、男達の最後の良心と言えるべきものが疼いた。


「知るか!!

 アイツが人間なら俺は人間に手を貸す、それだけだ!!」


 しかし、秋夜はその良心を踏み砕いて一蹴した。

 秋夜はもう既に覚悟している。

 同族を殺す咎を。

 他人をトコトンと利用しぬく狡猾さを武器にして。

 そのための理由は一つ。

 ───好きな女の子(因幡 冬花)が平和に暮らせる世界を作るため───!!

 そんなことの為に、しかし凄まじい覚悟を持って秋夜は、禁忌に触れた。


「─────術式拘束解除」


 秋夜が呟くと共に、男達の周囲の空気が重く淀む。

 男達は秋夜の仕業と断定して、秋夜を睨んだ。


「貴様......何をした!!」


 銃口を向け、自身に説明を要求する男達の鈍さ(・・)に、秋夜は呆れて力弱く笑った。


 ただでさえ十数年の間、ロクに改修もしていないボロボロの道路にヒビが入る、そんな錯覚を男は見た。


「何って、お前達を殺すための準備さ裏切り者共。

 少し時間を取って長ったらしく講義してやったんだ、感謝して死ね......と言いたいところだが。

 俺の強さのカラクリを教えてやる」


 男達は銃を撃とうと引き金をひこうとしたが、指先が動かなかった。

 重く淀んだ空気、恐怖心が男達の指先を震わせ、指先を動けなくしたのだ。

 秋夜はそれを見越してゆっくりと説明を始めた。


「訓練生時代にお前達は習ったはずだ、特殊な血筋しか呪術は使えない、と。

 正確には人間の血だけが使えるという事だがこれは、人間側が反乱分子を作るとなった際にはそこまで強大なものにしないでおこうという企みがあっての事だ。

 使用者の生気を特殊な器官で吸い取り、その生気を四大元素に付着させれる呪力を複数の元素と合わせることで特殊な現象を引き起こすことが出来る。

 それが、呪術。

 そして四大元素プラス無の元素の最奥といえる秘術、強大すぎる故禁止された伝説の呪術───それが、『禁呪』だ」


(そろそろ、頃合か)


 秋夜がタイミングを見計らい、男達に再度、嘲笑した。


「信念が中途半端だから、覚悟が中途半端になるんだよ。

 だから、その数ミリの引き金さえ弾けない」


 俺は弾けるがな、と付け足して秋夜は微笑む。

 その姿はまさに悪魔だろう。

 悪魔が笑みを浮かべ、引き金を───


「発動......!!『“無の極地”、消滅!!』」


「..................ひっ!? ..................え?」


 秋夜が唱えて数秒経ったが変化は無かった。

 つまり、引き金は秋夜も引けなかった、男達はそう確信した。

 それなのに秋夜は強がってか、前へと進む。

 その様子はどんなに無様で、情けないことか。

 秋夜を笑うように一人の男が銃を構え、秋夜に凶弾を放とうと引き金を───。


「引けないさ。お前達の上半身はもう消えたんだからな(・・・・・・)


 秋夜の言葉と共に、男達の上半身は残り、下半身だけが残った。

 そのまま大型車に乗り込み、秋夜が車のエンジンをつける。


「.........結局は、化けの皮が剥がれるもんだ。

 アイツらは最終的な話は戦争にシフトしていた。つまり、本当に鬼のことを気にかけていなかった」


(まぁ、俺もだけどな)


 そう。秋夜のあの会話の殆どが、自身の兄、もしくは恩師が言っていたことを引用していただけに過ぎない。

 秋夜は鬼なんてどうでもよかった。

 ましてや、人のことも。

 秋夜はただ一人だけ、冬花のことだけが大事で、大切だった。


「冬花の為ならどんな犠牲だって出してやるさ。

 戦争だって─────終わらせてたやる」


 そう意気込んで、秋夜は大型車を動かす。

 男達を消したと同時に後方の大型車も消し、動けるようにしておいたのだ。

 愛知本部まで、秋夜は急ぐのだった─────。


少し説明詰め込みすぎましたかね?

何はともあれ、スタートという事で。

抱負としてはヘタラないことですね笑(過去作2つを見つめながら)

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