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戦場で生きる  作者: 朝顔の種
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俺が戦う理由

退屈な隊長の朝礼が終わり、朝飯食って午前に訓練兵時代に何度もやった障害物競争のようなの10週、筋トレ、10キロマラソンなどのしんどい訓練が終わったあとの昼飯の前。


「先日の任務の疲れを癒すために午後と明日一日は休みだ。また、明後日から一週間訓練でその後実戦が入るかもしれない。しっかり休んでおけ」


と隊長がいった。

仲間からは「休んでおけって、こんな体力訓練やらせておいて午後からどこにも行けんだろ」とか普通に「よっしゃ」とかいろいろな声が上がる。


自主練やるとか言ってる元気な奴もいたし、坂本から「今日の夜、小隊で飲み会やるが来るか?」と聞かれたが、行くところがあると断った。実家に帰るつもりだった。たった1日でも帰ってあげたかった。俺がいつ死ぬともわからないから。


外出届けに諸々記入し提出して、基地を出る。その後、最寄りの駅で田舎の方に行く電車に乗り座って寝た。訓練で眠かった。


目を覚ますと何駅か通り過ぎていたので慌てて戻る電車に乗る。俺は何してるんだろうと目の前のスマホをつまらなさそうにいじる青年を眺めながら考えた。


実家の最寄り駅に着いたのは基地を出た昼の12時から5時間立った時だった。今は春で少し薄暗くなる時間だがいつもより一層暗く感じる。

田舎は田舎だが発展している方だから駅前にデパートがあって、そこで母と妹への小物のプレゼントをひとつずつ買って実家に向かった。



古い住宅街にある実家につくと見慣れない高級な家庭用の車が止まってある。何だと思い緊張感が高まる。何かあったのではないか?まずその車の中を見た。中にも特殊なものは置いてないので普通の民間人の車のようだ。


一応車のナンバーをケータイで消音にして写真を撮る。そのあと実家の窓からカーテンの隙間で中の様子をうかがう。何やら母と妹、それと知らない男とで居間で話し合っているようだ。


3人が深刻そうな顔で話していたので何の話をしているの気になりばれないように中に入って聞き耳を立てることにした。


話し合っている居間から玄関より遠い勝手口に回り、どうやって開けようかなと考えているといつも部隊で使っているピッキングツールが背中のリュックに入っていることを思い出し鍵を外して静かに中に入る。


微かに声は聞こえるが遠いせいかやはり聞こえにくい。呼吸音と足音、関節からなる音にさえ注意して居間に近づく。声が聞こえる距離まで近づいた。


「覚悟はできてるんですか?私の娘の一生を背負っていく覚悟が」


母の声だ。


「はい、既にできています」


これはさっき見た知らない男の声だろうか。


「本当にわかってるんですか?」


何をしたんだ、その男。めっちゃ気になるんだが。勢いよく席を立つ音が聞こえる。まずい母が殴るのかと思い急いで出ていく。


「母さん、待て、早まるな!」


と母を止めようとした。


そして視界には家族と知らない男一人がぽかんとしている姿があった。


「じゃあ、その男と妹が勝手に婚姻したって話か?」


と俺が聞くと


「はい、その通りです」


と知らない男が答え、妹を見るとうなずいていた。確かに成人同士なら婚姻に両親の許可なくできるがいいんだろうか。


「じゃあ、俺の勘違いか」


と笑いながら言った。あはははは、ちょっと恥ずかしい。母も笑いながら、


「もうどんな勘違いしてるのよ、わざわざ勝手口を開けてまで。まったく」


といった。


なんで俺は見慣れない車を見ただけなのにそこまで警戒してしまったのだろうか。やっぱり軍隊にいると警戒心が強くなってしまうらしい。


「というか、帰って来るなら先に言えばいいのに」


と妹が言った。


たぶん結婚話はあまり聞かれたくなかったのだろう。なんせ勝手に結婚したって話だしな、兄には聞かれたくないと思うのは自然だろう。妹が戸惑っているような目で俺を見てきて、なんか気まずくて出ていきたくなった。プレゼンを渡して帰ろうとおもった。


「じゃあ、これ」


と渡して


「俺は帰るわ」


といった。母が


「もう帰るの?みんなご飯はまだだから食べていきなさいよ。」


という。心の中で余計なことをするなよ、気まずくて帰りたいんだと思ったが、結婚したその男に聞きたいこともあったから


「じゃあ食っていこうかな」


といった。久しぶりの母の料理の味は気まずさでほとんどわからなかった。

母から聞かれて近況について当たり障りのない話をし、その妹の旦那、義弟とは「妹との出会いはどうだったのか?」とか聞いた。名前もその時花園だと知った。

で、花園に本題をぶつけることにした。


「お金は大丈夫なのか?」


と俺は切り出した。


「はい?お金ですか?なんのことです」


と花園は返した

「妹の病気のことだよ。もちろん知ってるんだろ?治療費は大丈夫なのかって話だよ。父も会社の重役でそれなりにお金を持っていたが死んでからお金が足りなくて、母が働いてもそれだけじゃ全く足りなかった。俺の給料を合わせても毎日食っていくのが大変なぐらいには治療にお金がかかる。こうして病院の外で普通に生活できているように見えるが今もまだ治ってないからこの先かなりの金がかかるはずだ。こっちからも支援してやりたいがほとんどできないのが現状だろう。だからお金は大丈夫なのかっって聞いたんだ」


妹の体形、顔は抜群だ。かなりモテていたみたいだが、みんな彼女の病気を知って逃げていく。だから結婚相手なんて後十年は先だろうと思っていたがまさか既に結婚しているとは思ってもみなかった。


花園は


「ああなるほど。花園コーポレーションって聞いたことありません?あそこは父の会社なんですよ。お金のことは心配ありません。今までうちの嫁をありがとうございました」


といった。俺は


「妹の面倒を見るなんて兄として当然だ。お前に礼を言われる筋合いはねえよ。むしろこっちが礼を言いたい。父親もこう思ってるだろう。ありがとう、妹をもらってくれて」


といい、母に帰るといって家を出ようとした。そのときさっきの会話を聞いていたのか妹が

「いままで、ありがとう。お兄ちゃん、これからは私はお兄ちゃんに頼らずに生きていける。だからお兄ちゃんも自分が生きたいように生きて。私知ってるんだよ、お兄ちゃんが今の仕事を精神すり減らしながら続けてるの。無理してお父さんの代わりをしようとしてたのも。お兄ちゃんはしたいようにしていいんだよ」


そうか俺が戦う理由はもうないのか。


現代の社会では、経済活動にほとんど人は必要とされなくなった。人工知能やロボットが代替している。もちろんベーシックインカムは存在するが、それでも妹の治療費は足りない。だから一般人が成れる職業なんて兵士か研究者か水商売かの時代で頭もルックスも普通だった俺は軍人になることにした。


兵士がいまだロボットに代替されない理由は二つ。一つは戦闘、つまりは銃を撃って戦況を個々で判断し山を素早く踏破するなど、の総合力はいまだ人間の方が上だからだ。それともう一つはデモや反乱のときに鎮圧するのがロボットだといくら壊しても良心は痛まないが人だと殺したときに良心が痛んで収まりやすいからだ。だから俺はせっかく大学を出たが兵士になって、給料の高い特殊部隊に志願したのだ。


戦う理由がなければもう今の仕事はやめよう。明日にもやめたいが、それは無理だろう。次の任務が終われば辞められるよう上官に相談しよう。


ようやく嫌な仕事がやめられるはずなのに少し寂しい気持ちがするのはなぜだろうか。


帰りの電車ではあまり年も離れていないが娘のように思っていた妹が結婚するといううれしさと、自分の役割がなくなるという悲しさで目を赤くした。

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