ある朝
初めての投稿作品でです。
ダメなところを是非おしえてください。
逆に良いところを教えてもらえればうれしいです。
〇
誰かがこちらを向いて立っている。ここからでは顔は見えない。その誰かもわからない影はゆっくりと近づいてくる。しばらくすると顔の様子がわかる距離まで来た。
そいつは目や口から血を流して、ところどころ腐敗しているように見える。ハエもたかっている。そいつの顔を俺はよく覚えている。その顔を見て、俺は取り乱してしまう。
「なんでお前がいるんだ。あの時確かに俺が、俺自身が殺してしまったはず。なんでそうやって生きているんだ」
「そんなのどうでもいいでしょ。実際にあなたの前に立っているんだから」
そいつはおよそこの世のものと思えない不快な声で答える。その声を聞いただけで腰が抜けて立っていられなくなる。地面に手をつきながら、今にも泣き出してしまいそうだ。
続けてその気持ちの悪い甲高い声でそいつは問う。
「ねえ、なんであの時私を殺したの?私が何かした?軍に殺されるようなことを私が。」
その問いを聞いて自分がその人間を殺してしまった時のことを思い出す。思い出した悲しみと目の前の恐怖から涙が出てくる。
泣きながら、自分に言い聞かせるように言い訳をするように叫ぶ。
「俺だって殺したくなかった。あれは任務だった、誰にも存在を気づかれてはいけなかった。気づかれたら民間人であろうと殺すしかなかったんだ」
「そう。あなたは任務のためなら平気で人を殺せるのね。そんな奴が国のために働いたと堂々と生きているのが許せない」
と心底のことを恨めしそうに見ながら、軽蔑するようにそいつは言う。
「憎い、あなたが憎い。私を殺しておきながら任務だったと正当化しようとするあなたが。殺す、殺してやる」
そいつは近づいて俺の首を絞めようとする。殺した人間が目の前に立っていて自分を殺そうとするという非
現実的な状況に置かれて足も手も思う通りには動かせない。
「や、やめてくれ。許してくれぇぇぇ」
大声で命乞いすることしかできない。とても苦しいと思った。彼女の後ろにはいくつもの無数にも思える影がみえた。
〇
「おい、起きろ。起床時間だ」
そう呼びかける声が聞こえる。俺は目を覚まして起き上がる。自分の呼吸が乱れているのを感じる。
「また、お前うなされてたぞ。一年前からずっとそれだよな、仕事が終わった次の日には必ずと言っていいほどうなされてる。何回も言ってるがお前この仕事向いてないわ。死ぬ前に辞めた方がいい」
呼吸を整えながら、その声の方向を見る。一年前、この部隊に配属されてからずっと同室の屈強そうな男がいる。
その男の言い分は全く持ってその通りだ。俺はこの仕事に向いていない。そんなことは自分でも、いや、俺自身が一番わかっている。誰かを殺す度にそいつの顔が出てくる悪夢を見るような奴が向いているわけがない。
精神がすり減ってなくなる前に辞めるべきなのだろう。でもやめられない理由がある。
「やめられない」
そう、一言だけ答える。
「家族のことか?前にも聞いたがこれ以外にもたくさんあるんだ、仕事はよ。確かに給料はいいがお前は頭がいい。もっと別の仕事に使った方がいいぜ」
その男、坂本が説得するような口調で俺に語り掛ける。この話は面倒でしかない。こいつは俺のことを思って言っているのかもしれないが、俺にとって面倒でしかない。終わらせるために俺はいつもこう言う。
「考えておく」
「考えておくって言っても、これで何回目だ?やめる気配一向にしないんだが?」
かれこれ何十回もしたこのやり取りはいつもここで終わった。が、坂本は続ける。
「お前、前回の任務で目撃した民間人殺したんだってな、別の部隊だったがお前と同じ隊だった奴に聞いた。初めてだったんだろ?なんの罪もない人を殺すのは。ばれちゃいけない任務だったんだから仕方ねえと俺は思う。けど、お前は違うんだろ?同じ罪でも一人一人でその背負い方は違うからな」
坂本は知っていたのだ。今回、俺がしたことに、それで俺が悩んだことに。この顔は怖くて体もとてもごつい男はいつも気を遣ってくれている。なんかできの悪い弟のように思われていそうだ。
「お前は早くその背負い方を見つけろ。心が潰されちまう前にな。人並みのことしか言えんが5歳も年上のお兄さんからのアドバイスだ」
たまにいいことを言ってくれるこの人を実の兄のように慕っている自分がいることに気づいたのは最近のことだ。
「誰がお兄さんだよ。見た目はただのやくざじゃねえかよ」
そのことは調子に乗るから間違っても口に出さないが。
「はは、ちがいねえがもうちょい敬意を払ってくれよ」
「考えておく」
おどける坂本にいつもの口癖を言う。
「さあ、そろそろ時間だぞ。早く布団片づけていくぞ」
今日も一日が始まる。