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魔王とともに絶命した哀れな勇者……は転生したので今度こそスロラる!(のプロローグ)


 冷たい石のレンガで作られた無機質な魔王城の最奥の部屋で、俺は魔王の心臓に剣を突き刺していた。

 魔王の胸から滴り落ちる血が、灰色のレンガを赤黒く染める。


 ……しかし、俺の心臓にも魔王の剣が深く刺さっていた。


 目の前で、満足そうに笑う魔王。

 その表情には、苦痛や怒り、無念と言った感情は少しも混じっていなかった。


 そんな魔王を見つめる俺の表情は――――



「勇者よ、魔王である我の心臓に剣を突き立てたというのに、どうしてそんな悲しそうな顔をしている?」


「……つまらない人生だった」


「えぇ、魔王である我を倒したのにぃ!?」


「……まだお前、生きてんじゃん」


「いや、あとちょっとで死ぬから実質倒したようなものだ」


「そうか、まぁどうでもいいけど……俺は生まれてこの方、一度も人間らしい喜びを味わうことが出来なかった」



―――俺は消えていく命の灯を感じながら、昔のことを思い出していた。




 生まれた瞬間、産声とともに(文字通り)嵐を呼んだ俺は、両親と引き離され王都で厳重な監視下の元、不自由な生活をすることになった。

 

 牢獄のような薄暗い部屋に閉じ込められ、遊び道具も与えてもらえなかった幼い俺は、


 ……壁を破壊して、瓦礫をおもちゃ代わりにして遊んでいたらしい。


 とうぜん、ここまでの話は全部聞いた話だ。

 赤ちゃんの頃の記憶なんてない。




 そんなこんなで6歳になったころ、英才教育が始まった。

 普通ならば12歳で学校に通うはずなのに……もうちょっとゆっくりしようぜ、と子供ながらにため息をついていたのを覚えている。


 薄暗い部屋で宮廷魔導士による魔法の勉強。

 宮廷魔導士は圧倒的な才能を持つ俺を妬み、何度も体罰を加えてきた。


 ……ので、魔法戦闘・実践訓練の授業でボコボコにしてやった。


 初級魔法しか教えてないから大丈夫だろうと高をくくっていた宮廷魔導士に、何千発もの火球<ファイヤー・ボール>をぶち込む。


 死なないように数10発以外は当たらないよう外してやったものの、瀕死の重傷は免れない。

 教会に運び込まれ、回復魔法をかけられる。

 ……俺も少し手伝った。


 数日後、教会で目が覚めた宮廷魔導士のもとへお見舞いに行ったが、宮廷魔導士は俺の顔を見るなり「あ、悪魔だぁ~!」と叫んで教会から飛び出し、人混みの中へ消えていった。


 ……その後、彼の姿を見たものはいない。


 宮廷魔導士爆殺未遂事件のあと、俺の魔法教育係に名をあげる者は誰一人として現れず、しょうがないから独学で勉強した。


 あいつは元気に暮らしているだろうか?




 魔法を完全に習得したあと、詰まるとこ俺が7歳の時に剣術の授業が始まった。


 先生は、王国騎士団の1人だった。

 さすがは王国を守るために集められた剣術のスペシャリスト。

 最初のうちは、ただただ剣の代わりの棒で殴られるだけで、反撃なんてできやしなかった。


 ……最初のうちは。


 剣術の授業が始まって3時間。

 それまでまったく先生の動きを目で追えていなかったが、少しずつ先生がどう動いているか分かるようになってきた。


 剣術の授業が始まって5時間。

 先生の剣戟を避けられるようになった。

 ……この辺から先生が焦りだした。


 剣術の授業が始まって7時間。

 先生を倒した。

 先生の棒が音を立てながら地面を転がる。

 膝をつき、その場に倒れ込む先生。

 お腹を押さえて倒れている先生を見下ろしながら、俺は胸の中に広がる罪悪感に苦しんでいた。


 ……なんか、スマン。


 そして3日後。


「いいですか、皆さんは無意識のうちに最善の手を選んでしまっているんです。 それでは自分より弱い相手なら倒すことが出来ますが、強い相手には勝つことが出来ません。 だから、ワザと最善の手を捨て、隙を作るんです。 そうすれば、敵はその隙をついてとどめを刺そうとしてきます。 とどめを刺す瞬間、そこには必ず、心と動作に隙が生まれる……その隙をついて相手を倒すんです」


「「「ご指導ありがとうございます、師匠!」」」


 騎士団の副団長と団長を倒した俺は、逆に騎士団の先生になっていた。

 



 そんなこんなで、騎士団に剣術を教えたり、王都の魔法学校で校長を務めたり、ストーカーと化した王国一の美女と謳われる王女様から逃げる、波乱万丈な人生を送っていた俺は、いつの間にかアレを望むようになっていた。


『スローライフ』


 スローライフ……それは全人類の夢にして最終目標。

 辺境の地でのんびり、ゆっくり、平和に生活すること。

 畑を耕し野菜を育て、たまにモンスターを狩っておいしく頂く。

 モフモフのペットなんか飼っちゃったりして癒され続ける日々。

 暇な時間は、近くの野原に行って日向ぼっこ。

 物静かな村娘の膝枕なんかもあれば、なおgood!




 そんな願いも儚く、18歳の時に国王から命令を下された。



「200年の時を経て、ふたたび魔王がこの世に姿を現した。 魔王を倒せるのはラインハルト……お前をおいてほかにいない。 お前に勇者の剣を授ける、魔王をうち滅ぼしてくるのだ!」



 正直、この機に乗じて辺境の村に行ってのんびりスローライフでもしようかと思ったが、魔王を倒さねば、あとあと面倒なことになる。


 俺はしぶしぶ、その命令に従った。





 こうして魔王を倒す旅にでて20年、今に至る。


 予想以上に魔王の配下たちが強く、ずっと魔王に勝負を挑むことが出来ないでいた。

 ……途中、けっこう道草食ってのんびりしていたこともあったが、休むのも大事である。


 なんとか魔王の配下をすべて倒し、魔王の心臓を剣で貫くことに成功したが、自分の心臓にも魔王の剣が突き刺さっている。

 魔力はもう残っていない……回復魔法を唱えることもできない。


 魔王を倒したあと、望んでいたスローライフを実現しようと思っていたのに。

 俺の人生はここまでか……。

 38歳で絶命……スピーディーライフだな。



「勇者もいろいろ大変なのだな……」


「お前はどうなんだ? 魔王」


「我か? ……我は十分に人生を楽しんだな。 勇者に倒されるたびに転生し、気の向くままに世界を恐怖に陥れた。 そうだな、お前に我の力をくれてや………あ、もう無理、死ぬ」



 ドサッ――――


 魔王は何かを言いかけて、言い終わらないうちに倒れた。



「……最後まで言え……よ」



 ドサッ――――


 俺はなんとか最後まで言い切り、魔王城の冷たい石レンガの床に倒れた。

 こうして、勇者と魔王は死んだのである。






 体の感覚がない……

 何も見えない……

 まるで深海の暗闇の中で、ゆらゆらと漂っているようだ……


 これが……死か。


 酷く寒いし、孤独だが……悪くないかもな。


 このまま死ぬのも……



――――え、ちょっ、眩しい!?


 とつぜん、暗闇の中が光で包まれた。

 体の感覚も、それにあわせて元に戻っていく。


 あ~~、これはもしかして……。


 まだ生きてる?


 目を少しずつ開くと、初めて見る薄汚れた白い天井が目に入った。

 貴族の屋敷みたいな装飾は一切ないが、農家のような木でできた天井でもない。

 ……どこかの町の家か?


 魔王城にいたはず……どうしてこんな場所に?

 とりあえず、状況を確認しよう。


 白い毛布をどかす。

 俺は起き上がって周りを見渡した。


 茶色いツタで編まれた籠の中に俺はいた。

 籠は机の上に置いてある。


 え? 俺は机の上で寝てたのか?


 窓から入る太陽の光、古びたタンス、簡素な木のベッド


―――そして、ドアの向こうで驚愕の表情を浮かべる男。


 年は10代後半だろう。 

 金色の髪に緑色の目、顔立ちもスラっとしていて、なかなかカッコいい。

 ……まぁ、今はすごい形相をしているが。



「ク……」


「バブ?」


「クランが立ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」



 男は叫びながら、どっかに行ってしまった。

 階段を勢いよく降りる音が聞こえる。

 下からさっきの男と、誰だか分からないが女の声がする。


 まったく、いきなり俺の顔を見て驚くなんて失礼な奴だなぁ。

 あと、「クラン」って誰だよ、俺はラインハルトだ。

 とりあえず籠からでて、辺境の村に行ってスローライフをしよう。


 俺は籠に手を伸ばした。


 ……。


 ……。


 ……。


 なんか手が小っちゃいんだけど。

 さっきから思ってたけど、目線低くね?

 「バブ?」って言わなかった俺?

 

 ていうか俺……赤ちゃんになってるじゃん!?

 な、なんでだぁぁぁぁぁ!?


 ……。


 ……。


 ……。


 そういえば、


「我か? ……我は十分に人生を楽しんだな。 勇者に倒されるたびに転生し、気の向くままに世界を恐怖に陥れた。 そうだな、お前に我の力をくれてや………あ、もう無理、死ぬ」


―――勇者に倒されるたびに転生し


―――お前に我の力をくれてや……ろう!


 チクショウ、魔王のせいだッッ!


 どうやら俺は、魔王のせいで転生したらしい。

 たぶん、さっきの男は俺の新しい父親だろう。

 そして、階段を上がってくる女の声の主は、たぶん母親だ。


 ……やばいっ!



「クランが立つわけないじゃない、まだ生まれて1週間も経ってないわよ」


「本当に立っていたんだ! 信じてくれ! ほらっ……え?」


「バブバブ~~」



 部屋に入ってくる瞬間に、俺は寝転んで赤ちゃんのマネをした。

 ……いや、赤ちゃんなんだけどね。


 寝転んでいい感じに手足を動かす。

 バブバブ言いながら笑顔をつくる。


 

「ほら、クランはちゃんといい子に寝転んでいるわよ。 よしよ~し」



 女は、赤ちゃんのマネをする俺の頭を撫でた。

 なんか、恥ずかしいな。


 女の年齢は男とおんなじくらい、10代後半だろう。

 癖のないまっすぐな茶色の髪の毛に、黄色い瞳。

 なかなか可愛いが……大事なのは見た目じゃない、性格だ。


 例えばだ。

 俺をストーカしていた王国一の美女と謳われる王女様は、俺が騎士団員に剣術を教えている最中に、更衣室に入って俺の服を盗んだり、俺が校長を務めた王都の魔法学校の食堂に潜入して、俺の食べ終わった後の食器をベロベロ舐めまわしたりしていた。


 他にも――――



「そ、そんな。 だってさっき……クラン、立てるだろ?」


「バブ~~~~~」



 俺は首を横に振った。


 あ、やべ。



「そうだよなぁ、生まれてまだ1週間も経ってないお前が――――いま、首を横に振ったよね!? リリー、今の見ただろ」


「何言ってるのルーカス、赤ちゃんだって首を横に振るわよ。 ね~、クラン」


「バブ~~~~~~」



 ナイスだ、リリーさんとやら。

 そりゃそうだ、赤ちゃんだって首くらい動かせる。


 ルーカスとリリーはその後、部屋を出て階段を下りて行った。

 ルーカスは不満そうだったが、ひとまず納得したようだった。


 ふぅ……これからどうしようか。

 このまま静かに町で生きていくのもいいけど、やっぱり何もない農村でほげ~っとした生活をしたい。


 とりあえず、ステータスを確認するか。

 目の前に、ステータスウィンドウを表示する。



==========


名前:クラン


年齢:0歳


職業:雑貨店の息子、魔王、勇者


レベル:1


パラメーター:

体力:9289

魔力:9842

筋力:9375

耐久:7521

俊敏:9493

持久:9120


スキル:

<剣聖の覇奥義>、<大賢者の秘術>、<体術の極致>、<時越転生>、<魔族製造>


==========



 あ~あ、めっちゃパラメーター伸びてるよ。

 スキルもなんか物騒なものが増えてるし。

 魔王の力を引き継いだせいだな、これ。

 

 職業が『雑貨店の息子』ということは、あの2人は雑貨店を営んでいるのか。

 しかも、職業に『魔王』って。


 てか……これヤバくないか?


 生まれた子供たちはみな、12歳になると学校に入学することになる。

 そのとき、入試も兼ねて実技試験や筆記試験とともにステータスカードを発行することになっている。

 ちなみに、成績がいいと王都の学校に入学できるので、けっこうみんな必死に勉強したり訓練したりする。


 つまりだ……このまま12歳までボケ~っとしていると、ステータスカード発行時にとてもマズイことになる。


 アホみたいに高いパラメーターもマズいけど、『魔王』はダメだ。

 一生、追われる身になって、とてもじゃないがスローライフなんてできない。


 どうにかしないと……スローライフはとうぶんの間お預けか。


 俺はバブバブ独り言を言いながら、問題の解決策を考え始めたのだった。 



新作書こうと思っているのですが、書きたい物語が多すぎて困ってます。

なので、4作品ほどとりあえずプロローグ書いて短編に投稿して、読者の皆さんが「続き読みたいな~」と思ってくれた作品からプロットとストック(10万字はほちぃ)を貯めたいと思いました。


これは2作品目です。

1作品目のプロローグはかなり前に投稿しました。

そちらも読んでもらえると嬉しいです!


今週の日曜日くらいには3作品目のプロローグを投稿すると思うので、そちらもよろしくお願いします!


こんな物語が読みたいみたいな感想でもいいので、なにか感想もらえるとうれしい……。

「つまらなすぎて逆に草生える」でもOKです!

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― 新着の感想 ―
[一言] なろうでの評価はあまり芳しくないようですが、 個人的には4作品の中でいちばん惹かれました。 チートステータスがバレるのをどのように防ぐのか、 非常に気になるところです。
[良い点] ベタ設定ですが、短めの作品で読んでみたいです!(・∀・) [一言] 死神さんの小説からやってまいりましたが、読みやすそうなものが多いのでぜひぜひ連載を!!
[良い点] 勇者の経歴が破天荒なところ 短いながらもコミカルでインパクトのある仕上がりになっていました とくに王女様とか、今後出てきたら物語を掻き回してくれそうです キャラ造形に勢いがあっていいですね…
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