開幕
野次を飛ばしながら部屋を出て行くのはいいさ、精霊達まで一階に行って大丈夫か心配ではあるが。今はそんなことを考えている場合じゃない。
扉が閉まると同時に怜奈が豹変した。
「和樹さん」
「はい」
「何を考えているんですか。
脳ミソ蛆でも沸いてんじゃないんですか、なにをどうしたら結婚って話になるのよ」
「そ、それは……」
「どうせ、貴方の事だから人の話を、ろくすっぽ聞かないで適当に返事してたんでしょ」
「……」
(なぜ、分かる)
「なによ、その顔は。
もしかして、本当じゃないでしょうね」
「それが、その……」
「はぁあ!。
呆れた、馬鹿じゃないの!」
本気で怒っているし、ここは謝っておこう。
「すいませんでした」
「謝って済む問題じゃないし。
それになによ、ルーナ達に囲まれて鼻の下伸ばしちゃってさ。
この浮気者!」
浮気した覚えはないなのだが。
「浮気って……」
「違うなんて言わせないわよ。
ルーナの香りに悩殺されていたくせに。
思い出すだけでムカつく」
「それについては、悪かったよ」
延びていたのは認めるが、なんだろう、話が逸れている気がする。
「悪かったじゃないわよ。
それに自分のお母様が、聖者、まりな様なのよ。
もう少し自覚を持ちなさいよ」
「は?」
「二十年前に行方不明になられた、神殿の聖者様。
知らなかったの?」
あの、なにを仰るうさぎさん。俺の母さんは、確かにまりなって名前だけど、異世界から来たなんて、あり得ないし考えにくい。
親父が若い頃に、やっとインターネットが復旧し始めた。当時のパソコンなんて、一般家庭は高過ぎて買えたもじゃないし、まだテレビゲーム前世紀時代。だから母さんが此方の世界に来るのは難しいし、繋げようにも接点がまるでない。
少し口論になりながらも、二人で悩んでいると、扉が開いて、母まりなが入ってきた。
(ノックくらいしてよ)
いきなり過ぎてビックリするじゃんか。なになに?。
俺達の前に座った。
「和樹さん」
「はい」
何改まって、いつもの母さんらしくないな。
「今まで黙っていたけど、怜奈さんが言っている事は、間違いじゃないのよ。
私が召喚術式を間違えて、逆転召喚してしまったのが、そもそもの原因なの。
ゲートも直ぐに閉じてしまって帰れなくなってしまったの」
そんな話は聞いてない。
『寝耳に水』ですよ。
俺が知っているのは母が養子に引取られたてことだけだ。両親を亡くして、途方に暮れていた母を観かねた、爺ちゃんと婆ちゃんに『家に来ないか』と、誘われた。
早くに病気で子供を亡くした爺ちゃんと婆ちゃんは、お袋を娘の様に可愛がり。次第に家の生活になれた母は、喫茶店を経営していた祖父母を手伝うようになり、ウエイトレスとして働いていたのは、耳にタコができるくらい聞かされた。
そんな血の繋がらない俺を、孫の様に可愛がってくれた爺ちゃんが大好きだった。
たしか厨房で働きに来ていた親父に猛烈アタックされたんだよな……。
ん? ちょっとまてよ、て、ことはなにか。母さんは召喚術式を間違えて過去に行き、父と出会って二人は結婚、そして俺が産まれた。じゃあなにか、俺は地球人と異世界人のハーフになるんじゃないのか?。
マジかよそれ……。だぁあー、もし本当だとしてら――冷静に分析しているばあいじゃねぞ。
(う、嘘だろ)
受け入れ難い真実に直面して、俺は無意識に怜奈の手を無探っていた。握ったり離したり、柔らかい感触を堪能したりして。
独り言をブツブツと言ったりしていた……。
自分の言動と行動が制御できないのだ。