偽りと本音
「う、浮気って……。
お前な……」
「あれ?。
しませんって、言ってくれないんですか!」
俺の発言を遮った挙げ句に追い詰められたぞ。
しかも涙目で。
(逃げ道ねぇじゃん)
謀られた。
「浮気とかそれ以前のもんだ…… い」
「しませんって言うだけだろ」
(ちょっと、最後まで言わせて)
「そうだぞ、和樹。
怜奈ちゃんが可哀想だ」
他人事だと思いやがって。
宏明に続いて敏一の一言に。『そうだ、そうだ』と全員一致って。
(そりゃねぇよ)
「和樹さん」
母さんまで。俺の味方はここにはいないのか!。
このまま流されてたまるか。
「ちょっと、タイム!。
あのさ、怜奈……」
「なんですか、往生際が悪いですよ」
割り込まれたぞ。
「観念して籍入れなさい」
「怜奈じゃあ、不服なんて言わせないからね」
違ぇだろう、そこの三馬鹿娘。
意義有りげな顔しやがって、言っている事が真逆過ぎなんだよ。
一番、この状況に納得していないのは、お前らだろが!。
「外野は黙っててくれるか!」
静まるどころかヒートアップしやがった。
「みんな、お願い。
静かにして」
「怜奈。
こんな煮え切らないおとこ。
やめて、もっといい奴探したら」
「イアラ、そこまで言わなくても……」
「そうだよ、怜奈。
やめなよ、こんな穀潰し」
酷い言われようだが、リナさんよ。
その根拠はどこにあるんだか、理由を知りたいが、今は後回しにして。
「あのさ、結婚をここまで強要される覚えはないし
俺達二人の問題に、いちいち口を挟まないでくれるか」
怜奈、なんだその不満な態度は。
「怜奈。
言いたい事があるならハッキリ言ったらどうなんだ」
「……」
「な、なんだよ」
「は?。
私、言いましたよね!。
浮気しないなら…… いいよって」
苦笑い混じりで言われてもな嬉しかねえんだよ。絶対に何か隠しているだろ、その態度。それに本音を吐かせないと後味が悪すぎる。お互い納得してするもんだろ、普通わよ。
「あのさぁ。
それ、本気で言ってんのか」
「勿論」
即答かい。
あくまで言わない気だな……。
怜奈の気持ちがさっぱり分からんが、俺としては保留にして、ここは流しておきたいところではあるが。
遺憾千万、現象を打破するのが、困難でならないぞ!。
良い案が全く見付からないんだよ、どうしたらいいんだよ……。
クソ! そもそも、結婚なんて話題、誰が振ったんだ!。
下に居る、オバタリアンだ!……。
人のせいにするのは、よくないよな。
話をろくすっぽ聞かないで返事をした、俺が悪い。
だけど、ここまで執着されても困るんだよな、実際のところ。
(いやまてよ)
怜奈を含めて、皆、俺の母さんが関与し初めてからだよな。
可笑しくなったのって。
じゃ、鍵を握るのは、母さんって事になるんじゃないのか。
(ええい、迷っている場合じゃない……)
「怜奈」
「はい」
「怜奈にとって、俺の母さんはどんな人なんだい」
「とても素晴らしい人です」
今日、初めて会ったはずだよな。
なんだ、その以前から知っている様な口調は。
「シラナイ」
「ウン。
シラナイ」
「ダネ~」
「レイナ」
「セツメイ」
「ソ、セツメイ」
身を隠していた精霊達だったが、ヒョコリ顔出して騒ぎだした。
俺のツレは驚いて硬直している。当然と言えば当然だよな、これが普通の反応だ。
精霊はルーナ、イアラ、リナ達、三人には警戒心ゼロに等しいのに、敏一、宏明、清十郎には懐くのは当分は、無理かもしれない。
男女を境に綺麗に半分に別れているし、花園の楽園と見窄らしい殺風景な光景が広がっているが。
話を振られた怜奈は数秒機能を停止した。
いや、無理だって…… 必死に縋り付かれても助け船は出してやれないんだ。だから、そんな瞳で見詰めないでくれ、俺にはどうすることも出来ないんだよ。
「……。
…………。
………………」
(痛い痛いんだよ)
いくら俺が助けないからって、無表情で脇腹抓るのやめて地味に怖いから。
「痛いって。
怜奈」
(嬉しそうにしないでくれ)
ミルミル暗い表情から満面の笑みに変わったよ。
(どうすれば良いんだ、話が全然進展していかないんだよ。
クソ!)
怜奈の本音とまではいかないにしても、それなりのことを聞き出さないと話が先に進まない。
皆が居るから喋れないのか。
ん~ あ、そうか、二人きりなら話しをしてくれるかも。
「皆、悪いんだけど。
怜奈と二人きりにしてほしいだ」
「お願い、二人だけにして」
(お! 食い付いたぞ)
座礁仕掛かった船が航路に戻って道が開けた気がする。