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 ムスフォトは、もうすぐ消える悪魔? なんと言っていいか分からなくて、俺は黙っていた。デオの歌が、インディアンの響かせる祈りの声のように流れていた。

 単純な音階と、帯のように伸びるトーンと、艶やかさと乾きの表裏のような、そんな声だった。


「喫うかね」

 ムスフォトはシガリロを取り出した。


「⋯⋯うん」

 俺はそれを受け取って咥えた。手の中でライターを灯すと、そこにある光と熱と同じように自分の心が揺らめいているのを感じた。

 いや、そんなような気がしただけだ。悪魔は悪魔で指先の熱を使い、何を考えているのか分からない落ち着き払った顔で一服を吹き出すのだった。


 何度目かの不思議な感じ、そのシガリロが俺に与える、時間の凝縮を指でめくって森や風を見るような感覚の中で、俺はフと思いついて言った。

「ねえムスフォト。俺は気になったとこがあるが、同時にその答えも思いついた。当てるから聞いてくれ」


「よいよ」

 ムスフォトは、なかなか気分良さそうに答えた。


「あんたはその仕事で消えて無くなる。俺は今ね、『それは死か?』と聞いてみようとしたんだ。でもね、もうなんとなく分かるよ。


 それは死ぬのとは違う、ただただ消えて無くなるだけで、人間の意識や肉体の終わり方とは違うものだ。そんなところなんだろう?」


 ムスフォトは沈黙の間を空け、それから答えた。

「そうじゃ。まさしく」


 俺は足元の砂を掴んで、それをゆっくりとこぼしながら言った。

「寂しくなるねぇ⋯⋯」


「ハハ。まだ何日も一緒にいたわけではないじゃろう」


「いいや、人間の気持ちはね⋯⋯」

 俺は新しい砂を一掴み持ち上げた。

「⋯⋯時間の長い短いで決まる時もあるし、時間の長い短いでは決まらない時もあるのさ」


 また手から砂をこぼすと、それは地面に着く前に手のひらほどのつむじ風に巻かれたように踊り、犬かなにか、そんな四つ足の動物の形になって無音の咆哮を上げ、そしてまた元の砂になって散った。

 俺が見るとムスフォトは、小さく上げていた。何かしたんだ。


「はは。ビックリするじゃんか」


 俺が言うと、ムスフォトが答えた。

「それほどには見えんぞ」

「⋯⋯ちょっと寂しくてね」


「おつらそうじゃ。人間」

「はんっ。分からないくせに」


 そうして、ムスフォトと過ごした最後の夜は更けていった。イデオナの中に寂しさという感情がないことも、俺には理解できていた。

 そして翌未明に、俺はまた不思議なものを見ることになる。

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