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 俺の目には、星は止まっているようにしか見えなかった。けれども、悪魔がそう言うのならきっと正しいことなのだろう。それはゆっくりと動いているのだ。彼らに俺をだまそうとする意思はない。──ちょっと悪戯いたずらをするとき以外には──それくらいのことは、一緒にいる時間で分かってきていた。


 覗き込んだ星空が、急に金色に光って凝縮し、そしてまた元に戻った。喉の奥で小さく声が出た。俺はその驚きが落ち着いてから、ムスフォトに聞いた。

「この星は、何か別のものを示していて、それを観察するためのレーダーのようなものなのか」


 ムスフォトは関心の声で言った。

「ふふん。中々勘が良いんじゃな。その通りじゃ。ワシらはこの場所まで、その星を迎えにきたのじゃ。この、古い河の記憶が残ってる場所にな」


 俺はのぞき窓から目を離した。手に持った水晶付きの道具は、物珍しさで言えばダイヤモンドよりも格上なんじゃないだろうか。ただそれは悪魔たちの道具であり、恐らくは人間たちが値段などというような数字価値に閉じ込めることが叶わない代物なのだ。


 俺はそれを、強すぎも弱すぎもしない力で掴んでムスフォトに返した。なぜだか少し、緊張がほぐれてホッとするような気がした。


 ムスフォトの言った「古い河の記憶が残ってる場所」という言葉は、その響きで不思議に俺の心を揺らした。俺はムスフォトに聞いた。

「昔河に住んでた生き物を呼び出すのか? その、今は絶滅してしまってるような、さ」


 ムスフォトは笑った。

「いやいや、ワシらにそんなことはできんよ。過ぎてしまったものは過ぎてしまったものじゃ。呼び戻すことはできない」


 ムスフォトは水晶の道具をそっと撫で、それから星空の一角に視線を向けて穏やかに言った。

「そして、ワシの仕事ももうすぐ『過ぎてゆく』ものじゃ」


 俺はその言葉の意味がよく分からなかったが、彼の声の調子の中に何か感じるところがあった。まるで、そのうつろいゆく世界をもう自分の目では見られないというような感じが。

 いや、それは正確には「もうできない」というしさを含んだものではなく、決まった長さのものを目で測っただけのような言い方だった。地面に描かれた線の端はここで、何がそれ以上でもなく、何がそれ以下でもないような⋯⋯。


「なあムスフォト。今まるで、あんたの仕事はこれで最後みたいな聞こえ方がしたけれど、それは俺の間違いかな」


 ムスフォトは低く笑ってから深呼吸をした。そしてゆっくりと語った。

「そうじゃよ。隠すつもりはなかった。じゃが⋯⋯」


 ムスフォトはまた、その手で宙から言葉をつかみ取ろうとした。けれど、こんどは俺がその先をいだ。

「だが、特に話すタイミングもなかった。俺もだんだん、あんたたちのテンポが分かってきたよ」

 ムスフォトは小さく息をついた。溜息とも、笑っているとも取れない。


「まったくその通りじゃな。言葉とは人間たちのもの。それをうまく使うのは、やはり人間たちのようじゃ。特に、君のような勘のいい人間のな」

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