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テントとタープは古い時代の物だった。とにかく無骨で、気の利いた機能が足し算されてるわけでもなければ、何かが引き算されて華奢になっている部分もない。
俺はベージュの羽布でできたそれらを見て、南極探検隊とか、ピラミッド発掘隊とか、そういったものを思い浮かべた。簡潔だ。分かりやすい。
また缶詰や干し肉やらで夕食を済ませた。発電機は置いてきたので、今日は音楽はない。⋯⋯デオの歌う鼻歌以外には。それは取り留めのない種類と調子の音楽たちだった。
幾つもの言葉の歌詞があり、ないものもあり、七音階があり、様々な文化と民族固有の音階があった。
光が手に反射しそうなほど多くの星が出ていた。デオの歌はその下で響いた。荷物を仕切るために入れている板を出して、その上にランプを置いていた。灯油のユラユラとした光は足元に広がり、合板の上に反射して周りを照らした。光は俺たち三人の姿形を、止まった時間の上に立つ闖入者のようにボンヤリと照らし出した。
ムスフォトは丸めた寝袋の上に腰掛け、膝の上で何やら小さな道具をイジっていた。イジるといっても、ときどき傾けて覗き込むくらいだ。樹皮だか繊維だかを巻いたペッパーミルくらいの大きさの筒に、胡桃くらいのガラス玉のようなものが付いている。彼はそのガラス体に視線を注ぎ込んだりしていた。俺はふざけて言った。
「それ、本物のダイヤモンドか何かなら凄く高く売れるだろうな」
ムスフォトは俺の方を見て、意外そうに言った。
「ダイヤじゃよ? そんなに価値があるのか?」
俺が飛び上がるほど驚くと、ムスフォトはそれを宙に放り投げて寄越した。俺はそれを落ちてきた生卵のように受け取った。
「馬鹿! そっと扱え!」
俺がそう叫ぶと、ムスフォトは大笑いした。
「フッハハ! ウソじゃよ! 鉱物質の結晶ではあるが、宝石というほど価値のあるものじゃぁない」
⋯⋯ふざけてくれるなよ。昼間の疲れがどっと出る。筒は見かけよりも少し重かった。中は全くの空洞ではないみたいだ。
「まあそうむくれるな。石の中を覗いてごらんね。特別じゃぞ」
俺はその、星やランプの光を透かすように映している大きな水晶体を覗いてみた。そしてすぐに、そののぞき窓の中にある不思議な世界に心を奪われてしまった。
そこから覗いて見えるのは、頭の上に広がっているのと同じように見事な星空の世界だった。それが視野の外枠にワッと広がっていて、中心の部分が魚眼レンズのように拡大されていた。
俺はそれを見て、猛禽の眼がちょうどそのように景色を見ているということを思い出した。彼らが空の上から小さなネズミを見つけられるように、俺はその星空の拡大された部分に赤い星を一つ見つけた。
「その星が見えるかね。真ん中の」
ムスフォトが言った。俺は目を離せなくなったまま、それを認める返事をした。ムスフォトは続けた。
「その赤い星が、ある星々の家族の最後の一つなんじゃ。ゆっくりゆっくりと、中心に近づきつつある」
俺はその星をじっと見た。




