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 彼の中の光は、まるで滑らかな金属の上を水滴が伝うようだった。ムスフォトは言った。


「どうしたね。顔色が悪い。まるで何か、悪い術でも掛けられて体の自由を奪われた生き物のような顔をしておるぞ」


 俺はそう言われて、手を上げて顔を触ろうとした。けれども自分の腕は、まるで地面に突き立てられた添え木にギュッと固定されてしまったように動かなかった。喉がカラカラに乾いた。ムスフォトは宙の果実を掴み続け、イデオナはタバコを喫い、そして俺の喉は更に乾いていこうとしていた。デオが言った。


「ねえ、誰があなたの身体に働きかけているのだと思う?」


 悪魔たちのうち片方か、あるいは両方じゃないのか? 俺はその気持ちを言葉にして吹き出そうとしたが、喉と肺が思い通りに動いてくれなかった。痛みのない麻痺のように、俺の意志から身体に送られる命令がどこかでプツリと断ち切られている。


 デオが言った。

「あなたの身体をおかしくしてるのはね⋯⋯」


 ムスフォトは宙の果実に口を近づけながら、ゆっくりと空気を吸い込んだ。イデオナが言葉を続けた。

「あなた自身よ」


 ムスフォトが宙の果実に向かって勢いよく空気を吹き付けると、そこにあった埃が吹き払われるのと同じことが世界の全域で起こったように、砂地と木陰を覆っていた怪しい緊張感は吹き飛んでしまった。後にはさっきまでの、ノーテンキな日差しと弱い風が残った。ムスフォトが言った。


「バック君の神経が凝り固まっておる。なあ、幽霊を見る人間には二種類おるのを知ってるかね」


 俺は一度空気を吐き、そして吸い込んでから声を出した。

「いや、知らない」


 さっきまでの、痛みに近いような喉の渇きはどこかへ消え去っていた。いつもの自分の声がごく自然と大気を震わせた。


「本当に幽霊が見られるよう訓練された人間と、そんな気がしているだけの人間とじゃよ。ほとんどは後者なんじゃがな」

 ムスフォトは宙に上げていた手をダラリと下げて二、三度振ってから、爪の具合を点検するように眺めた。


 イデオナが言った。

「さっき通り過ぎた場所が、あなたが触れた鉄の欠片が、あなたの神経の中から感覚の幻を作り上げたのよ。目には何も見えなかったかもしれないけど、幽霊が見えたのとおおよそ同じような神経の緊張状態ね」


 俺は彼らの示してくれるヒントから仮説を組み上げた。

「つまり、疲れて緊張した神経が歪んだ世界を見せただけ?」


 ムスフォトが頷いた。

「そうじゃ。そしてわしらも、その歪みに割り込んで景色を眺めていたんじゃ。まったく、人間というのはその部品と作用一つ一つまで、どこまでも興味深い」


 俺は二人の悪魔の目を交互に見てみた。そこには景色が光の凝縮と影の凝縮とに分かれて、瞳の色の上に写り込んでいるだけだった。色のついた光だとか、そういうものは見受けられなくなっていた。


「変な遊びをするなよ」

 俺はため息をついた。ムスフォトが悪戯いたずらしく笑って言った。


「まるで波の裏側を滑るようなカンジがしてな、やめられないんじゃ。すまんすまん」

 俺は荷物の端を軽く叩いた。

「またおかしなことになる前に、これを組み立てちまおうぜ」


 俺たち三人はキャンプを立ち上げる作業に掛かった。

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