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入り口に下がった蔦とも根ともつかない朽ち果てた植物室のカーテンを、ムスフォトは片手で例のナイフを抜いて簡単そうに切り払った。
それほど長さがあるようには見えない、またそれほど鋭く研がれた刃のようには見えないものだったが、きっとコツがあるのだろう。
空中でヒュッと溜めをつくって、伸び上がるように気持ちよく切っ先が飛んだ。俺はデオが羊の肉を切った時のナイフさばきを思い出した。
三人で中に入っていく。入り口から入ってすぐの部屋が巨大な礼拝堂だった。そこには生き物や植物が入り込んでいる様子がない。
壁の高いところにある明かり取りの隙間から、部屋を斜めに貫くように何本かの光の筋が走っている。真ん中に広く平らな床の空間があり、それを広く挟み込むような左右の石の段の奥に暗闇が奥まで続いていた。目が鮮やかな光の筋を見ようとするせいで、その暗闇の奥には一切の物陰を見て取ることができない。
肌に感じる空気の表情のようなものは、ただただシンと静まり返っている。俺たちの立てる衣摺れや足音が、深い泉にそっと石を沈めるように無限に吸い込まれていくっだけだ。
空気からは、日陰の植物の匂いが微かにする。デオが袋を床に置いた。その音が広すぎる空間に散って消える。俺はとにかく誰かに向かって声を出したかった。
「古いな。崩れたりしない?」
ムスフォトがノンビリと荷物を置きながら答えた。
「どうじゃろ。今夜崩れるかもしれんし、千年このままかもしれん」
俺は天井を見上げた。光の筋の入り口から、さらに高いところまで空間は続いているようだ。外から見た時よりも、中はずっと広く感じる。石の天井は、今のところガッシリと支えられているように見えた。
「なんじゃ怖いのか。冗談じゃ。100年や200年で崩れるような代物じゃあない」
「⋯⋯いや、物珍しくてちょっと見てただけさ」
俺は水の入ったタンクを下ろした。その中で水は不気味にポンと鳴った。その音も、すぐさま奥の闇に吸い込まれていった。
「ここでは雨に備える必要もないし、ヒマなキャンプじゃ。危険な動物も近寄らないし、腹が減るまでブラブラしてるといい」
ムスフォトは荷物を開けて、液体燃料型のストーブを組み立てながら言った。台所にあるガスコンロから部品を引っこ抜いて持ってきたような、とても簡単な造りの道具だ。俺は暗い寺院の中を探検する気にはならなかった。建物の外側を見てみることにする。




