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 俺たちの支度したくに合わせたみたいにピッタリと、ムスフォトが車を運転してやってきた。頑丈そうな四輪駆動車だ。それほど新しくはない。彼は運転席の高い窓から俺たちを見下みおろして言った。

「おはよう! よく眠れたかね」‬


「深い眠りをとった。けれども少しばかりの二日酔い気味だなぁ。あの酒は難しいよ」‬


俺がそう言うとムスフォトは笑った。‬


「ハッハッハ! 何日か飲んでればすぐに慣れるさ」‬


 きっとその前に身体が参ってしまう。俺とデオは、ハッチバックの高い荷台に荷物を積み込んだ。中にはテントや寝袋や、炊事の道具やタンクに入った水が積んであった。‬


俺が助手席に乗り込み、デオは後ろに収まる。俺はムスフォトに訊いた。‬


「すごい荷物だな。よほど険しい道をいくんじゃないかい?」‬


「まあな。けれどもワシらにとっては昔からの通常営業じゃ。人間の道具やら道やらが入り込んで、大分楽になったもんさ」‬


 一体この者たちは、どれほどの昔からの世界をうろついているのだろう。ムスフォトはギアをローに入れ、低いうなり声をこぼしながら、車は走り出した。



 昨日までのような道路をしばらくの間走っていてから、木の茂った目立たない脇道に入っていく。木々の勢いが一段上がり、左右から枝葉が覆いかぶさって道は影の中に沈んだ。

 気温がずっと暑いために、その影は不気味というよりありがたいような感じがした。しかしそれは最初だけの感覚で、実際には密度を増した木の幹や下草が空気の流れをさえぎり、気温は前とほとんど変わらなかった。

 ただ車の進むスピードに合わせて、ゆるゆると蒸気の塊が前から後ろに抜けていくだけだ。‬


 木の根や石ころが道を凸凹でこぼこにしていたが、その見た目に比べると乗り心地は快適だった。あくまで相対的な話ではある。


 けれどもそれは、「おっ」という程度の小さな発見だった。俺はそれまで、本格的な四輪駆動車で本格的な荒れ道を進んだことがなかった。


 本などにはよく、「乾燥機能付きの洗濯機で揺られ続けるようなものおだとか、舌を噛むので無駄口をきくこともはばかられる」だとか、散々脅すように書いてあるのを目にしていたため、これは意外だったのだ。俺は隣でハンドルを握るムスフォトに言った。‬


「思ったより揺れないね」‬


「コツがあるんじゃよ。サスペンションのセッティングと、遅すぎも速すぎもしない適度なスピードじゃ。どれ」‬


 ムスフォトはそれまでよりアクセルを緩めた。すると途端に、車はプリンの上で左右に揺らされてでもいるかのようにユラユラと頭を振り始めた。‬


「どうじゃ。それに⋯⋯」‬


 こんどはギアを変え、道を無理に速いスピードで突進した。こんどはガツッガツッという突き上げるような衝撃が次々に襲った。俺はルーフグリップを強く掴みながら言った。‬


「わかった! よく分かったよ! 快適なスピードでいこう。それに、ひっくり返りそうで危ない」‬


「ハッハッハ! そうかい? これでもまだまだマシな方じゃがな!」‬


 ムスフォトは楽しそうに一頻ひとしきり車を揺すってから、元の快適な運転に戻った。‬

後ろの席でデオが言った。‬


「オモチャじゃないのよ、まったく」‬


 確かに、その通りだ。

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