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 しかし旅は転換を経たものの、その目的の全貌が俺の手の内にないということも、後々何かの欠陥性を発揮しないとも限らない。⋯⋯まあ、するとは限らないということでもあるが。


 また心地よく車を飛ばしながら俺はそのようなことを考えていた。機械の調子が直り、思いわずらう荷物が減ると頭は色々なことを考えだすようだ。そのまま真っ更でいられないところが、ヒトという不器用な脳代謝動物の一つの宿命なのかもしれない。


 ふと思いつくことがあった。気になるのなら聞いてみればいいのだ。ヒトは言葉を得ている。


「なぁデオ。ところで何をしに行くんだ? その、⋯⋯南の方へさ」


「まずは、古い友人に会いにね。その人の仕事をちょっと手伝う用事があるわ。会うのは最後になるかもしれないけど」


「⋯⋯あまり好きな相手じゃないということ?」


 デオは喉の奥で含むように笑った。


「そういうんじゃないわ。ただ、誰とだっていつ会うのが最後のことになるかは分からないでしょ。そういう、可能性の話」


 デオの言わんとすることは、分かったような分からないようなモヤモヤとしたまま、しばらく揺れる車の中を漂い、やがて開けてある窓からヒュッと外に吹き流されていった。けれどまあ、ヒッチハイクの理由が一つ俺の手の中に残った。


 友人に会いに行く。そのための移動。


 簡潔で実質的だ。俺はそれ以上に詮索するのはめた。そう、何を思いわずらうわけでもない。機械の調子は良く、天気も申し分ないじゃないか。悪魔のブルーズミュージシャンは歌い、風は草の匂いを運んでいるのだ。


 そして車の後ろでは、人生の一端がまあまあ上等な⋯⋯心理的にはかなり上等な削りくずになってヒラヒラと剥がれ落ちていっている。それは王様が家来の全員を使っても、手に入れられるとは限らないものかもしれないのだ。


 不意にデオが言った。


「明日あたりに国境を一つ超えることになるわ。バックは何か、出入国に関する問題がある?」


「あはは、そんなもんないさ。真っ当に今日まで飯を食ってきたよ」


「そう? ならいいんだけど」


 少しばかり陽が傾き、ルーフのふちがギラギラと騒ぎ出すと、デオはサングラスを掛け、車の俺はシェードを起こして、ハンドルを握り続けた。


 海に囲まれた暮らししかしたことのない人間にはピンと来づらいことだが、自動車で国境を越えるというのはそれほどのイベントではない。高速道路の料金所のような者だ。

 次の日に会った、青い制服を着た国境の男が流暢な英語で言った。


「ハイ、これでけっこう。ところで、ずいぶんお勤めの長そうな車だな」


「うん。この『古くさい』車、俺はオーナーになったばかりだけど、調子はすこぶるいいよ」


「気をつけてな。山道では動物が飛び出たりするから」


「⋯⋯どんな?」


「まあ、色々だよ。ライトを早めに点けてスピードを出しすぎないこと」


「ありがとう」


 そうして俺たちは国境を後にした。この国は元英国領だ。話は前より通じるし、ウィットに富んだ人々が暮らしているかもしれない。


 それから、車に突っ込みかねない危険で哀れな動物たち。⋯⋯それから古代宗教の影が強い国柄でもある。厳格な僧侶たちと、風格と歴史ある寺院の数々。道は今までより起伏がある。


 そして、草原よりは森林の方が多くの割合を占める。植生は熱帯から亜熱帯のそれといったところか。ムッとする湿気と、濃い生命の気配が道の両側に渦巻いていた。

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