21
昼頃に、草原の真ん中でY字路に差し掛かった。俺はその手前で、車を端に寄せて停めた。デオは俺に聞いた。
「どうかしたの? おトイレ?」
「いや。⋯⋯ちょっと身体の筋を伸ばしたいと思って」
デオは口の端で軽く笑って「いいわよ」と言った。一筋の風に乗って、たまたまうまいこと遠くへと運ばれていく木の葉のような笑い方だった。
エンジンを止めてしまうと、カセットの歌も止んで辺りはシンと静かになった。
太陽の光は、留保なく無料で降り注ぎ、土と草の匂いのする風が時々思い出したように吹き抜けていた。
南、道の右側の遠くには一群れの林が続き、北、道の左側ではもっとずうっと遠くの方に、うす青く染まった山の稜線が見えた。
グッと伸びをすると、肩の筋がキリキリと鳴った。
ライターの音がして、デオの呼吸の音が聞こえた。いや、呼吸は気のせいかもしれない。けれどもそれは、耳に憶えた習慣のようにまるでそこにあるような気がするのだ。人はライターでタバコに火を点け、人はその肺で一口目の煙を吸い込む。順番だ。
俺はポケットからケースを取り出し、巻き貯めて余っていた二本のタバコのうち一本を口に咥えた。
ライターを握ったまま、火は点けずにY字路の彼方を見た。そのどちらも、草の斜面に吸い込まれて遠くの方で消えている同じような道だった。
「どっちの方へいく予定なの?」
デオはゆっくりとした調子で聞いた。まるでピクニックみたいだなと、俺は思った。
「決めてないんだ」
俺はタバコに火を点けた。また世界が静かになり、風は途切れ途切れに吹いた。デオが言った。
「ねえ、もしよかったら、この道は右に進んでくれない?」
「いいよ」
「⋯⋯それからわたしは南の方へ行く車を探そうと思ってるんだけど⋯⋯」
俺はまた、さっきの昔の女の子のことを思い出した。デオは続けた。
「よかったらそっちの方へ行ってみない?」
俺は考えているふりをして黙っていた。
「⋯⋯できればそっちへ連れて行って欲しいんだけどなーぁ⋯⋯」
俺はそれを聞くと、もうその昔の女の子のことを思い出すのをやめた。そしてデオに言った。
「いいよ。この道は右、それから先で進路は南。この車には好きなだけ乗ってていいさ」
デオは控えめな喜びの顔で、タバコの最後の一口を吹き出した。
「ありがとうね。助かるわ」
まあ、悪い気はしなかった。
「運転も替わりましょうか」
「いや、そりゃ自分でやるよ」
俺たちは車に戻って、デオの直したターボ・マシンを振るい起こした。
こうして果てしないドライブは目的のあるドライブへと変貌を遂げた。それは大切な転換だ。




