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RE:collection of Justice D*RE:am  作者: カザハラ
chapter0 はじまり
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 眠れ 眠れ 亡国の強者よ

 貴方の怒りは 剣と共に

 貴方の悲しみは 水晶の中に

 沢山の記憶が 世界に散らばっている

 眠れ 眠れ 愛し子よ

 救世主が欠片を集め 納めるその時まで



 *



「ナイト!」


「ナイト…!行っては駄目…!」


 声が聞こえる。

 親しい友人達の声だ。

 でもそこには一人足りない。



 僕の…僕の妹はどこだ。



 *



 いつもと変わらない朝だった。

 長い旅を終え、全ての始まりであった砂時計を封印し、もう脅威は襲ってこないと信じていた。

 しかし、起こってしまった。


 ナイトが暮らしている村は、とても小さな村だった。

 名前はなく、周りからは「はじまりの村」と呼ばれていた。

 はじまりの村では、過去に大きな紛争が起こった。

 幼い頃、ナイトの妹であるイブニーが見つけた不思議な砂時計を廻り、村長が暴動を起こしたのである。

 ナイトが砂時計の力を借り、村長を倒したことにより紛争はおさまったが、その際に村の占星術師であるババ様が亡くなった。

 その孫娘であるルナは左目を失明し、暴動を起こした村長の孫息子デュランも、村長を止めようとし深傷を負った。


 そんなことが二度と起こらないように、ナイトは一人旅に出て、その道中で同じく一人旅をしていた3人の仲間と出会い、彼らとの旅の中で砂時計を封印した。



 それなのに、なんでまたこんなことに…



 ナイトは絶望していた。

 自分がしたことは無駄だったのだろうか。


「悪く思わないでね。この土地の力が必要なんだ」


 ナイトに対峙する人物は、綺麗なブロンドの髪と赤いマントを風になびかせながらナイトを見下ろしそう言った。


「ネビロス復活のために、この土地…いや、この神殿の力を解放させてもらうよ」


「そんなこと…させない!」


 ナイトは右手で構えていた、先端が三日月型の杖をくるくるとバトンの様に回し、叫ぶ。


「時魔法、“一時停止(ストップ)”!!」


 回転させた杖の先端をピタッと相手に向け、緑の閃光を放つ。

 相手が足に力を溜め、思いっきり飛び上がるとバシュッと魔法が相手が先程までいた場所に当たる。

 スタッと元の位置に着地すると、相手は口を開いた。


「いいねえ、君のその力。流石は七神獣の鷲獣だね」


 相手はパチパチと拍手をナイトに送った。

 そしてこう続けた。


「でもね、私も七神獣の一人なんだよねえ。聞いたことないかな?闇の大蛇、ってさあ!」


 相手はそう語尾を荒げると、右手を突き出し紫に染まる波動弾を放った。

 ナイトはそれをバックステップで避ける。

 茶色い髪と帽子から垂れるベルトが揺れる。


「ほらほら吹き飛びなよ!闇魔法の力を思い知るがいいさ!」


 容赦なくナイトに闇波動弾を放つ相手。

 ナイトは避けるので精一杯だった。


「くっ…時魔法“巻き戻し(リロード)”!」


 ナイトはまた杖をくるくると回し、今度は相手が放った波動弾に先端を向けると、薄い水色の閃光を放った。

 バシュッと閃光は波動弾に当たった。

 すると波動弾は相手の方へ「巻き戻って」いった。


「へえ、そんなこともできるの」


 相手はふうんとその様子を眺めると、新たな波動弾を撃ち「巻き戻って」きた波動弾を相殺した。


「ますます君を殺すのが惜しくなってきたよ。…だからそろそろ諦めてくれないかなァ!」


 左手と右手を合わせ、力を溜める。

 ナイトはその隙を見逃さなかった。

 くるくると杖を回し、力を溜める相手に照準を向ける。


「時魔法“永久停(フリー)…」


「遅いよ!」


 ナイトが呪文を唱え終わるよりも早く、力を溜め、より強力になった巨大波動が放たれる。


 駄目だ速い!これは避けられない—




「兄上ッ!!」



 *


 何が起きた?


 ナイトは目の前の光景に呆然としていた。

 自分の目の前に転がる、小さな体。

 その体から流れだす大量の赤い液体。

 その赤い液体が、薄い金髪のツインテールを赤く染めていく。


「嘘…だ…!」


 その体は自分の妹、イブニーのものだった。


「あらら、お兄さんを守るために自分の命を投げ売っちゃったんだねえ、その子」


 自分に対峙する相手は、なんとも思わないかのようにそう告げる。


「よかったねえ、いい妹をもって」


「き、貴様アアアアアア!!!」


 眼鏡の奥の、緑の瞳が怒りに染まる。

 ナイトは目の前にいる妹の仇めがけて飛びかかった。

 しかし、見えない大きな力に邪魔をされた。


「ぐっ…!?」


「悪いね、時間稼ぎはもう終わりなんだ」


 相手は見えない力によって空中で固まるナイトに同情するかのように蒼い瞳を向ける。


「私の優秀な部下が神殿の封印の鍵を破壊したようだ。ありがとう、時間稼ぎに付き合ってくれて」


 左腕がナイトに向けられる。


「せめてもの感謝の印に、ゆっくりお休み」


 その直後、ナイトを巨大な力が襲い、ナイトの意識はだんだん薄れていった。



 *



「ナイト!」


「ナイト…!行っては駄目…!」


 デュランとルナがナイトを見つけた時には、既に全てが終わったあとだった。

 ナイトは分厚い氷の中に閉じ込められていた。


「っは、畜生…!叩いても斬っても撃っても壊れねえぞこの氷!!」


「デュラン、そんなに衝撃を与えちゃ駄目よ…!ナイトに何かあったら…」


「わかってるっつーの!」


 ダンッとデュランは氷の壁に拳をぶつける。


「くそっくそっくそっ!!どうしたらいいんだっての!!これじゃもう、ナイトは…ッ!」


「落ち着いてデュラン、あなたが落ち着かなきゃ話が始まらないわ」


 ルナはとにかくデュランを落ち着かせる。


「落ち着けるか!いくらルナさんの言うことでも、こんな状況じゃ…」


「ナイトはまだ助かる」


 デュランはルナの言葉に、目を丸くしてルナを見つめる。

 ルナは赤い瞳を真っ直ぐデュランに向けていた。その瞳は、過去にデュランが信じた瞳だった。


「…確証は?」


「勘よ」


「うわぁお、さっすがオレのルナさん」


 ルナはいつもの調子に戻ったデュランの赤い頭を思いっきりひっぱたく。


「だ・れ・が、あなたのルナさんよ」


「いってぇ!!!」


 ルナはわざとらしく頭を抱えてリアクションを取るデュランの前髪をつかみ、自分の方へ顔を向かせる。


「いい?この氷を溶かす方法を見つけるまで、私たちでここを守るわよ」


 そう言うとパッとデュランの前髪を放し、今度はナイトの方へ向く。


「…きっとあの人が、導いてくれるわ」


「あの人?」


 あの人、という言葉にデュランは首をかしげる。

 自分にはそんな人物に今のところ心当たりがない。


「ルナさんよ、何か打開策でも知ってるわけ…」


 そうデュランがルナに訪ねようとした瞬間だった。

 ゴゴゴゴと強い地響きが鳴り渡り、強烈な縦揺れが辺りを襲った。

 デュランは思わず体勢を低くし、頭を守るように腕をかざす。

 その判断はどうやら正解だったようで、周りの壁や草木が揺れに耐えられずに倒れ、崩れ落ちてきた。

 しばらくすると、だんだんと揺れが弱まってきた。

 完全に揺れが収まると、デュランは頭を上げて様子を伺いながら身を起こした。


「うひゃーなんだ今の!地震とかそんなレベルじゃないっての!」


 辺りに散らばる壁だったものの残骸や、根元から倒れた木を見ながら、デュランは少し茶化すように騒ぐ。


「いやー、もう少しでペシャンコだったぜ…ってルナさん!ルナさんは大丈夫だった!?」


 と、デュランは先程までルナがいたであろう場所に顔を向ける。

 が、返事は返ってこなかった。


「…ルナさん?」


 そこに、ルナの姿はなかった。



 *



 声が聞こえる…


「…き…さ……」


 この声は…


「…きな……い」


 あれ…


「……!お…なさ……て…!」


 誰の声だ?


「ちょっと!さっさと起きなさい!」



 *



 怒号と共に、頬に激しい衝撃を食らいながら僕は飛び起きた。

 何故か椅子に座っている。おかしい、僕は椅子になんて座っていたどころか、攻撃を食らって…。

 そんなことより両頬がヒリヒリする。おそらく、というか確実に目の前の人物にビンタを食らったんだろうな。


「まったく!いつまで寝てるつもりなのよ…あなたは寝てる暇なんてないのよ?」


 僕の前にいる人物は、黒に近い紫の短髪の男性…男性?だった。

 左目を隠すように前髪を伸ばし、耳には白い弓矢のような飾りを着けた、留め具がピンクのイアリング。

 服は白のシャツに黒のベストといった、まさに酒場のマスターといったような出で立ちだ。

 僕は辺りを見回してみる。

 質素な作りの椅子とテーブルのセットが数組、それらと同じような趣のカウンターもあり、その奥にはずらりと酒瓶が並べられた棚と、その横に小さく取り付けられた釜と大鍋。そして目付きの悪い赤髪のメイド。


 …メイド?


 まあともかく、ここはどうやら本当に酒場か食堂のようだ。


「…状況が理解できてなさそうね」


 男性…多分男性が、キョロキョロと見回す僕を見て、ため息混じりに話しかける。

 それは当然だ。だって僕は確か…。


「あなたは、死んでないわ」


 僕の言いたいことがわかったのか、おそらく男性が僕の疑問に答えをくれた。


「アタシはフラン。ここの喫茶店のマスターよ」


 フランお姉さんって呼んでちょうだい。とウインクをしてくる。

 奥のメイドが「出たよクソオカマのいつものセリフ」と悪態をついていたが、とりあえずどちらも無視する。


「フランさん、僕が死んでないってどういうことですか」


「そうね、そのまんまの意味よ?」


 フランさんはニッコリと笑うと、僕の前から離れてカウンターの奥へまわり、棚から瓶を取り出す。

 それに合わせて、メイドがグラスを取り出しフランさんの目の前へ置いた。


「あなたは、あの強烈な魔法を食らって氷漬けにされたわ。

 あの氷は、どうやっても溶かすどころか壊すことも出来ないでしょうね

 …あなた以外には」


「はい?」


 フランさんはグラスに、酒瓶の中身をトクトクと注ぎながら続けた。


「あなたは賢そうな子だから、知ってるんじゃないかしら。時魔法の特殊性について」


 時魔法。僕が使えるこの魔法は、確かに他の属性魔法と比べると特殊だった。

 まず、使える人間が限られること。他の魔法は素質のあるなしに関わらず、一通り学べば身に付くものであるのに対し、時魔法だけは先天性の才能によるものでしか操れない魔法だった。

 そして、他の魔法と比べ威力が違いすぎること。なんと言っても時を操れるのだ。時だけでなく、極めれば空間、物理法則でさえも操れてしまう。

 だから、他の魔法じゃできないこともまず出来てしまう。それぐらい強い魔法なのだ。


「…つまり、僕が閉じ込められている氷は、僕自身でしか破壊できない。

 それは氷を破壊できる可能性が高い時魔法を使える人間が、最低でも僕しかいないから」


「ご名答!」


 フランさんはカウンターから出ると、まるで正解した賞品だと言わんばかりに、先程酒瓶の中身を注いでいたグラスを僕の方へ持ってくる。


「だからね、あそこで凍って死なれちゃうのは困るから、アタシが助けてあげたのよ」


「助けた?」


「そうよ。とは言っても、助けたのは精神の方だけ。肉体は相変わらずあそこで冷凍保存されてるわね」


 その言葉に僕は目を丸くする。


「えぇっと…?」


「だーかーらー、テメェは今夢ん中にいるようなもんだっつーことだよ」


 今まで会話に参加せず悪態をついていたメイドが話に割り込んできた。

 赤いおかっぱに黒のメイド服。しかしその丈は短く、赤いラインの入った黒のタイツが膝の辺りまで丸見えだ。

 しかし、僕はメイドの顔を見て思わず固まってしまった。なぜなら、左目が剥き出しだったからだ。

 何て言えばいいのか、とにかく、目のまわりにあるべき瞼が、皮膚が、無い。だがその下の肉が剥き出しになっているというわけでもなく、その肉すらなかった。空洞。空洞にただ眼球だけがはまっていた。


「もー、ナッちゃんたら!いきなりそんなこわい顔を向けたらビックリしちゃうでしょ!」


「うるせぇクソオネェ」


「女の子がそういう言葉遣いしないの!」


「あ、あの、彼女は…?」


 僕の前で口論を始めそうな二人を遮って、僕はおずおずとメイドのことをフランさんに訪ねる。

「ああそうね、紹介が先よね!」とフランさんは言いながら両手をパンと前で叩いてからメイドの紹介をしてくれた。


「彼女はナッちゃん。正式名称はMEIDEN-72TA…だったかしら?

 自立型メイドアンドロイド…要はロボットよ!」


 あんどろ…ろぼっと?

 聞き慣れない単語に、僕は目をぱちくりさせる。向こうもそんな僕の態度に気づいたのか、しまった、という顔をした。


「そうだったわ…こっちでは機械人形って言った方が良かったわね…」


 とにかく彼女は人間ではないらしい。かと言って魔物でもなく、魔獣でもないとのことだった。


「アタシのことはどーでもいンだよ、テメェだよテメェ!」


 そう言うとナッちゃんさんは僕をビシッと指差した。


「さっきも言ったけどよ、テメェは今夢ん中にいる。だからさっさと目ェ醒まさなきゃなんねェの。

 クソオネェがめんどくさくタラタラ回りくどいこと言いやがるからわかんねぇだろうけどよォ」


 ナッちゃんさんが言うには、僕は今、おそらくフランさんの手によって肉体と精神を引き離され、深い眠りについた状態に等しいらしい。

 だから、今精神だけの僕が行動しているこの世界は夢の世界と同じ。元の肉体に戻るためには夢から醒めなければならないわけで。


「だから、あなたにはこれから夢から醒めるために旅をしてもらうわ」


 フランさんはまたカウンターに戻ると、今度は大きめのジョッキを用意し、その中に氷をドバドバ入れる。


「旅?」


「そうよ。きっと彼女が導いてくれる」


 氷が入ったジョッキの中に、今度は薄黄色のシュワシュワっと軽く泡立った液体を注ぐ。ほんのりと柑橘系の爽やかな匂いがする。


「さ、それを飲んでひと息ついたら、早速出掛けなさい!冒険は待ってくれないわ!」


 フランさんはそう言うと、ジョッキを持ち上げてグイッと中身を飲み干す。

 …外見に沿わず、意外と男らしいな。

 僕はそんなフランさんを横目に、さっきから目の前に置かれたままのグラスに目をやる。中身は透き通った赤紫色ををしていた。

 酒は飲めないんだけどな…と思いつつ、グラスを軽く持ち上げて一口中身を飲んだ。


 中身は酒なんかじゃなく、ただの葡萄を絞ったジュースだった。

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