こんなところでなにを??
第4話です。
また、『あなたへ』と繋がっています。
お読み頂けると嬉しいです!!
土曜日。
学校は休みなのだが、かといってやることもない……
だから何となく外に出てみた、
だんだんと温かくなりつつはあるけれど、まだ少し肌を刺すような冷えた空気を感じる。
あてもなく歩きながら頭の中では、自分の将来をわからないと、遠い目をして答えた女の子のことを考えていた。
夕日の淡い光を受けていたせいだろうか……
彼女の瞳は忙しく揺れていて、なにかを胸の内に秘めているようにも思えた。
………
そんなことを考えていたのが30分程前のこと。
散歩の途中なんとなく立ち寄った公園に、さっきまで思い浮かべていた女の子の姿がそこにあった。
太陽を遮るものがほとんどない公園の陽だまりは、暖かく来訪者を迎えてくれる。
新しい季節を歓迎するように、役目を終えるように桜の花がゆっくりとその花弁を散らせている。
彼女の周りは、とても穏やかでゆったりとした時間が流れていた。
なにを見ているのだろうか。
彼女の視線はまっすぐ前を向いていて、近づいてもこちらに気づく様子はない。
その瞳に何が移っているかはわからないけれど、葉月さんはとても優しい目をしていた。
「やぁ、葉月さん」
ベンチに腰を掛けている彼女に、今日はこっちから声をかけてみた。
「……えっ」
彼女は瞳を大きく広げてこちらに顔を向ける。
突然声をかけられて、驚いたのだろう。
俺を見て彼女は少し戸惑ったみたいだけれど、その顔はすぐ色を濃くした。
さっきまでとは違う太陽のように元気いっぱいな、あどけない笑顔だった。
「こんにちは」
明るい声で返事してくれた彼女は、再び視線を戻した。
声をかける前と同じ優しい微笑みを浮かべながら何かを眺めている。
いったい何を見ているのだろう……
彼女の視線の先には、特別なものは何もなかった。
ただ、子供たちがブランコやすべり台などの、遊具で元気に遊んでいるだけだった。
もしかすると“なにか”を見ているのではないのかもしれない。
幸せそうな笑顔を浮かべている理由を聞いてみた。
学校で話しかけられた時とは明らかに印象が違う。
「いいことでもあったの?」
今度は視線だけこちらに向けて彼女は答える。
「どうして?」
「なんでだろう、雰囲気かな?」
彼女は小さくため息をついた。
「雰囲気って……でもそうかもしれないね」
なにかに納得したように彼女が口を開く。
「わたしは、あんまり夕日って好きじゃないの。もう一日が終わってしまうんだなって考えると悲しくならない?」
………
この話はどこにつながっているのだろう。
「悲しい? う~ん、どうかな」
俺にとっては、今日も一日頑張ったなという達成感を感じる場面だとも思う。
一日の終わりを惜しんで寂しく思う。
そういう感情も理解できる。
曖昧な返答をどう受け取ったのだろうか、葉月さんは穏やかな声で次の質問を口にする。
「そっか、神橋くんは毎日楽しい?」
ただ毎日を楽しく過ごせているかと聞かれても困ってしまう。
善くんや紗枝ちゃんたちと毎日バカをやっているのは楽しい。
日々の生活の中で楽しい瞬間というものは、きっと誰にでもあるはずだ。
たとえば、友達との時間。
たとえば、趣味に打ち込んでいる時間。
たとえば……
だけど、今の学校生活を総評して満ち足りているのかと考えると素直に肯定はできなかった。
答えに悩んでいると彼女が苦笑交じりに声をかけてきた。
「ごめんね。意味わかんないよね、いきなりこんなこと言われても……」
「そうだね」
わからないと両手をあげて苦笑して見せる。
それでも葉月さんのなかではさっきからの話は繋がっているのだろう。
ただ、今なら校舎では触れられなかった彼女の心の一片を知ることができる気がした。
「葉月さん、今は楽しい?」
彼女の質問から、少し意味を変えて投げ返してみる。
目の前で優しい陽だまりのような微笑を浮かべる少女は、この瞬間を楽しんでいるのかと。
「えっ、今? そうねぇ~~暖かくてポカポカしてて、こんな時間が続いてくれると嬉しいかな」
嬉しい、ときたか。
葉月さんのいう通り、まったりとしたこの時間を、
感情として言葉にするのならば、楽しいというより、嬉しいが適している気がした。
「それで、葉月さんはさっきからなにを見て笑っているのかな?」
「笑ってなんかいませんよ~~。ただ遊んでいる子供たちを眺めながら微笑んでいるだけです!!」
子供たちを眺めながら微笑む高校生。
「子供が好きなんだね」
状況を整理して言葉だけで俯瞰してみると、危ない人だなぁ~~なんて。
「あ、今失礼なこと考えてない? 顔に出てますよ」
「ショタコンだなんて思ってもないよ!!」
うん、ぜんぜん考えてない。
「って、思いっきり考えてるじゃないですかっ!! わたしは危ない人ですかっ!?」
立ち上がって、そうじゃないと反論された。
普段の落ち着いていて、おとなびた雰囲気とは違って、彼女の素の部分を目にした気がする。
それがなんだかおかしくて、そしてかわいいと思ってしまって。
「ふっ、ふふふっ」
「どーして、急に笑い出したんですか? わたしなんかよりだんぜん危ない人がここにいると思うんですけど……」
ひとしきり笑った後、葉月さんに顔を向けると、
彼女は不貞腐れたように、頬を膨らませて、丸みのある瞳を半分閉じて、じーーーっとこちらを睨みつけていた。
「ジトーーーーーッ」
ご丁寧に、声に出してこれはジト目ですよとアピールしている。
この娘、思ってたよりおもしろいかもしれない。
言い換えれば、いじり甲斐があるということでもあるけれど。
「わたし、あなたを笑わせるようなギャグを言ったつもりはないんですけど」
やれやれと呆れた顔をしている。
「なんかギャグ持ってるの? 見てみたい」
「あるわけないじゃないですか。仮に持ってたとしてもこんなところでやりません」
「そっか、じゃあ次を楽しみにしてるよ」
「だからぁ~~」
………
それから少しの間葉月さんとふたり笑いあう。
しばらくして彼女は、用事があると言って立ち上がった。
「これから、夕飯の準備があるから買い物して帰るね」
「自分で作るの? 葉月さん結構料理とかできちゃう人?」
葉月さんはまた小さく息をついて、
「わたしだって女の子なんですから、少しくらい家事はできますよ!!」
今のセリフ、紗枝ちゃんが聞いたらなんて言うだろう。
善くんから聞いた限りだと、ぜんぜんみたいだからなぁ~~
曰くポイズンクッキングだとか。
「どうしたんですか? わたしに料理なんてできなさそう、ですか?」
少しだけトゲが混じったような声で抗議する葉月さんがとても微笑ましくて、自然と頬が緩んでしまう。
「神橋くん!! なにがおかしいんですかぁ~~?」
「ごめんごめん、なんだか今の葉月さん、かわいいなって思って」
このまま笑い続けていると本当に怒らせしまいそうなので、素直に謝ることにする。
「なっ……」
ん……?
「かわっ……なんなんですか〜〜!!
神橋くんわたしをからかって遊んでるんですかぁ~~!!」
両手で口と鼻を覆って顔を隠す葉月さん。
耳が赤く染まってしまっている
口にしてしまった俺自身、葉月さんがここまで反応してくれると思っていなかったから、
こっちまで恥ずかしくなってしまった。
「その、なんていうかごめん」
「わっ、わたしもう帰ります!! さよならっ!!」
葉月さんは、そのまま走り去ってしまった。
あ~~つい余計なこと言ってしまったなぁ。
お読み頂きましてありがとうございます!!
今回は、なんとなく立ち寄った所で葉月さん発見。
これまた、なんとなく話しかけてみた。
ところで、字の文なしだと、葉月さん格好めんどくさい人っぽいような、、、
次回はもう少し早く更新したいと思います!!
また、お読み頂けると嬉しいです!!