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懊悩編31話 カレー大好きラセンさん

ラセンさんはカレーが大好きな苦労人詐欺師、ついでにしれっと顔でお茶目な性格のようです。



オレは格納区画で軍用車両の使用許可を申請し、6人乗りのハンヴィーを借りた。


リリスと2人だから4人乗りでよさそうだけど、雪風を連れてくかもしれないし、リリスのコトだから買い物の荷物が山ほどできるかもしれないからな。


普通車しか乗ったコトがないオレは、デカいハンヴィーに乗る練習もした方がいいだろうし。


ん~、今からロックタウンに向かったら昼を大幅に過ぎちゃうな。


昼メシはガーデンで済ませ、チョイとのんびりしてからロックタウンへ行こうか。


リリスの買い物は日本の裁判みたいに時間がかかりそうだから、晩メシはロックタウンで取るコトになるだろう。


それもいいか、考えてみればオレはガーデンの外の世界を知らない。


ロックタウンをゆっくり散策するのも悪くないよな。


オレはリリスを誘って昼メシを食べにいくコトにした。




部屋に戻ると香ばしいカレーの匂いがした。食堂にいく必要はなさそうだ。やっほい、カレーだカレーだぁ。


「戻ったよ、リリス。カレーを作ってくれたのか?」


「ええ、准尉はカレーが好きでしょ?」


「ああ、ラセンさんほどじゃないけどな。リリス、料理を作ってくれるのはありがたいんだけど、無理はしなくていいんだぞ? 怠惰が美徳なんだろ?」


「無理はしてないわ。准尉の好みに合わせた料理ぐらい作れないと、結婚してから困るでしょ? 後2085日しかないんだから。」


「………いつ結婚するって決まったんだというツッコミは置いておくとしてだ、2085日って数字はどこからきた?」


リリスはサイコキネシスでカップボードからカレー皿とスプーンを取り出す。怠惰が美徳のリリスにサイコキネシスってうってつけの希少能力だよな。


「私が16歳になるまでの所要日数よ。イズルハの大抵の国じゃ女は16歳で結婚出来るみたいだから。」


「………あのぉ、もう結婚するって決定してるんでしょうか?」


「准尉と私の今の関係を事実婚って言うみたいよ? もう通い妻みたいなもんでしょ?」


………反論しようにも普段から掃除洗濯に料理、今朝は散髪までしてもらった身で何が言えるんだろう。


「相互依存だと思っていたが、考えてみたらオレが一方的に依存してんじゃねーか!ダメ男か、オレは!」


リリスは肉球柄のエプロンを外しながら、邪悪な笑みを浮かべる。


「そう、残念ながら既に籠絡済みなのよ。今さら事実婚は事実無根って言っても、なんの説得力もないわ。」


「リ、リリエス、ローエングリン………恐ろしい子ッ!!」


オレは月影さんのように戦慄するしかなかった。どうやらオレの独身生活は後2085日で終了するらしい。





「へえっ、カレーにコンビーフなんか入れたのかぁ。旨い旨い。カレーはなに入れても合うって言うけど、コンビーフとはなぁ。」


リリスお手製のカレーは味もボリュームも申し分ない。さすがは史上最年少の完璧超人だ。


「前線でもコンビーフなら手に入るでしょ? そこらも考慮してみた試作品よ。」


「戦場ではある程度マズいモノも覚悟すべきだと思うけど、旨いモノ食えるならそれにこしたコトはないか。」


「109500回しかない機会なのよ。一回だって無駄にすべきじゃないわ。」


「その数字って一体どこから………」


「天寿を全うした場合の平均年齢は100歳って話だから。100歳×365日×3食よ。バイオメタルは食事回数が多いから、実際はもっと上の数字でしょうけど。」


元の世界より平均寿命が長いな。………当然か、医療技術が格段に進歩してる世界だ。


それにバイオメタルって老化が遅くなるって研究結果もあるらしいから、もっと平均寿命が伸びるかもな。


「………このカレー、隠し味になにが使ってあるんだ………ん~、そうだ!塩辛だ!」


「bingo! カレーの隠し味に塩辛っていうのは定番なんだけど、これはただの塩辛じゃないのよ。うるかを使ってみたの。」


「うるか? なんの塩辛なんだ?」


「鮎の内臓を使った塩辛だ。一般的には内臓のみを使った苦うるかの事を言うが、ほぐし身を混ぜた親うるか等、色々な種類がある。このカレーの隠し味に使ってあるのは苦うるかだな。」


「へ~、鮎の内臓の塩辛かぁ。珍しいモン使ってるんだなぁ。…………って!」


「准尉のお酒のツマミにと思って磯吉さんにもらってきたの。…………って!」


「なんでここにいるんですか!」 「しかもしれっと顔でカレーを食べてるわよ!」


オレ達はしれっと顔でカレーを食べてるラセンさんに、同時にツッコミを入れたが華麗にスルーされた。


「いやはや、香ばしいカレーの匂いにつられて、気が付けばこうなっていた。摩訶不思議な話だ。」


………このヒト、どんだけカレー好きなんだよ。


「ラセン………アンタ、カレーを餌に罠をかけられて2階級特進とかしそうね。」


「カレーと共に生き、カレーと共に死すならば本望。彼岸にはカレー煎餅を供えてくれ。」


カレー教の教祖らしくカレーに殉ずる覚悟がおありのようだが、迷惑千万な話である。


「お願いですからそんなマヌケな死に方はヤメて下さい。クリスタルウィドウの恥です。」


「カナタもおっぱいと共に生き、おっぱいと共に死ぬなどと言っていたように思ったが? おかわり、大盛りでな。あと生卵はあるか?」


おかわりまですんのかーい!しかも生卵までいるんかい!


もういろいろ諦めたらしいリリスが、この苦労人詐欺師(いさりびらせん)のリクエストに応えてやる。


大盛りカレーを瞬く間に平らげたラセンさんは卓袱台のカレー皿に手を合わせ、


「リリス特製うるカレー、確かに頂いた。ではサラバだ。とうっ!」


そう言ってラセンさんは窓から飛び降りた。ちなみにここ、六階なんですけどね。


念真障壁をトレイのように発生させ、飛び石ジャンプしながら降下していくラセンさんの姿をオレとリリスは仲良く窓から見送る。


「………あれがSNC作戦で最多殺傷数を記録した男なんですぜ? どう思いますリリスさん。」


「………殺された機構軍の兵士も浮かばれませんね、としか言えないわね。」


まったくだ。




昼メシを終えたオレとリリスは貸与されるハンヴィーを取りに格納区画へ向かう。


例によってリリスはアニマルエンパシーで雪風を呼び寄せた。雪風先輩、すっかりリリスの使い魔にされてんなぁ。幸せそうだからいいけど。


貸与されたハンヴィーの傍には同志アクセルがいた。オレの姿を見て敬礼してくれる。


「おっぱいぱい、同志。ロックタウンに行くなら運転してやるぜ。」


オレもおっぱい革新党式の敬礼を返す。


「おっぱいぱい、同志。ありがとうございます。ハンヴィーの運転を練習したいので同乗願います。」


リリスが雪風と後部座席に乗り込みながら悪態をつく。


「一緒に行くのは構わないけどバカ丸出しの挨拶ね。アタマ沸いてるの?」


失敬な、栄えあるおっぱい革新党の挨拶を侮辱するとは。


「せっかくだしシュリも呼んでやろうぜ、同志。」


「そうですね、ハンディコムで呼んでみます。」


シュリもロックタウンには行きたかったようだ。なんでもホタルと一緒に業炎の街へ里帰りするらしく、里の皆へのお土産を買いたいらしい。


ホタルと無事に仲直り出来たようで良かったな。シグレさん、ありがとう。




食堂の出口あたりでシュリを拾うコトにして、オレはハンヴィーのハンドルを握った。


同志アクセルの指導の下に慎重に運転する。


幸いガーデンの中の道路は広いし、ロックタウンまではだだっ広い荒野だ。


ロックタウンに入ってから、同志に運転を代わってもらえば事故などおこすまい。


食堂前にはシュリと…………ナツメもいた。珍しい組み合わせだな。


「カナタ、ナツメも連れていきたいんだけど、いいかい?」


「いいけど、シュリが誘ったのか? おまえら仲が良かったんだな。」


「いや、カナタとハンディコムで話した後、それを聞いてたナツメが私も行くって言い出してさ。ナツメ、ロックタウンに行きたいなら、自分でちゃんと言いなよ。」


「……………」


例によってナツメは無言だ。もういい加減その罰ゲームはヤメねえ? 自分イジメも大概にしなよ。


でも自発的に買い物についてくってのは大きな進歩だよな、ナツメの気が変わらないウチに出発するのが吉だ。


「シュリもナツメもさっさと乗んなよ。いっとくけどオレの運転は快適とは言えないぜ。」


「なんだ、僕らはカナタのハンヴィーの練習に付き合わされるのか。」


「そういうこった。ささ、乗った乗った。」


シュリとナツメがハンヴィーに乗り込むのと同時に、オレは勢いよくアクセルを踏み込む。


「カナタ!アクセル踏むのが早いよ!」 「………スピードも出しすぎ。」


別にいいだろ、気分がいいんだ。シュリはホタルと仲直り出来たし、ナツメにも変化の兆しが見えたし。


なにかイイコトがあったら素直に、目いっぱい喜ぶコトにしたんだ。




イイコトばっかりじゃない現実を生きるにはそうした方がいいだろ?




ノクターン版がストーリーを先行する状態でしたが、この話からなろう版が先行します。


改めてよろしくお願いします。<(_ _)>

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