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懊悩編29話 ネコ耳ですがなにか?

カナタは新たに芽生えた萌え属性の除去に失敗していたようです。



※カナタ視点に戻ります。


※作者より 作中でのパラレル中国は央夏と言います。央夏とか夏人と表記されていたら中国っぽい感じをイメージして下さい。

無論、ぽいだけで現実に存在する国家、民族とは無関係です。これは作中全てのパラレルなんちゃらにも適用して下さい。

宗教もキリスト教に近いジェダス教、仏教の阿弥陀様に近いアミタラ様が登場していますが、似ているだけで全く無関係です。バクラさん絡みで寺や仏法と表記をしましたが、他に言葉が見つからなかっただけで現実の寺、仏法とは関係ありません。よろしくお願いします。



リリスシェフの今朝のメニューは央夏風の粥だった。昨日トゼンさんにぼてくりコカされたオレの体を気遣っての心尽くしなのだろう。


リリスは言動は辛辣毒舌でも、行動は優しかったりする奥深いちびっ子なのだ。


央夏粥を食べ終えたオレ達は、食後の珈琲を楽しみながら雑談する。


「准尉、だいぶ髪が伸びてるわよ? そろそろ散髪してきたら?」


「伸ばしてるんだよ、ちょっとイメージチェンジしようと思ってな。」


研究所にいた頃は髪はかなり短かったのだが、ガーデンに来てからは普通に伸ばした。


それからは特にファッションにこだわりのないオレは、髪質に任せて調髪する程度にしていたのだが、それはアギトの髪型に結構似ていたのだ。


だから長めに伸ばしてイメージを変え、少しでも顔が見えにくい髪型にしてみる事にした。


目指すはギャルゲーの主人公っぽい感じだ。


リリスはお茶請けのシガレットチョコをかじりながら、無感動、かつ平たんな声でオレの思惑を言い当てる。


「急にイメチェンする気になった理由は言わなくていいわ。でもね………」


「それに関するリリスの感想も言わなくていい。朝から喧嘩はヤメようぜ? オレはリリスと仲良しこよしでいたいんだ。」


リリスは、はぁ、とため息をついてから同意してくれた。


「そーね。じゃ、見解不一致な点は置いといて、見解が一致する提案をするわね。伸ばすにしても毛先はそろえましょ。今日は広報部の取材があるんでしょ? 私のハニーなんだから、少しでも写真映えして貰わないと。」


「そうだな、散髪屋が開いたらすぐに調髪してこよう。」


「ウフフ、認めたわね?」


「なにをさ?」


「見解は一致した訳よね? 私のハニーなんだからって言った点も含めて一致した、と私は見なすから。」


こ、こいつ!何気ない会話にとんでもない罠を仕込んでやがった!油断も隙もありゃしねえ!


「ぎ、議長!修正審議を申し立てます!」


「申し立てを却下します。本法案は全会一致で可決されました。」


木槌代わりのティースプーンで卓袱台をカンカンと叩き、リリス議長は法案成立を宣言した。


ぐ、なんて事だ、コイツの事だから法的根拠を盾に、ガーデン中でオレ達はラブラブだと吹聴して回るぞ!


………いや、さっきの法案関係なくもう吹聴してんよな。ならいいか、修正審議の意味がないや。


「オレとリリスが恋愛関係であるかどうかは継続審議を要求しておくとしてだ、散髪屋って何時から開店だっけな?」


「継続審議は拒否するとして、開店なんて待たなくても調髪程度なら私がやったげるわ。」


与党(リリス)野党(オレ)の話し合いは、どこまでいっても平行線らしい。


リリスは廊下を挟んで向かいにある自室に戻り、散髪道具を持って帰ってきた。


肉球柄のビニールシートを床に置き、オレを座らせるとバスタオルをオレの体に巻き付け、ハサミを持った。


サイコキネシスでオレの顔の周りを浮遊しながら、手際よく毛先を整えていく。


ついでにカメラ映えするようにメークアップも施すとか言い出して、いろいろ顔や髪に塗られたが、オレにはなにをどうしているのかサッパリ分からなかった。


理容師もメークアップアーティストも出来るのかぁ。ホントに多才な天才ちびっ子だよ。


もう驚かないけどな、だってリリスだし。


「はい、完了!まあまあの出来ね。」


「あんがとな。しかし器用な事で。」


「お礼はリグリットに行った時に返してもらうわ。ガーデンやロックタウンで大抵のモノは揃うんだけど、私の欲しいモノには大抵じゃないモノも多いから。」


通販で買えよ、と言いたいが元の世界との大きな違いは物流の悪さだ。


なにせ攻撃衛星群のおかげで、ジェット機が存在出来ない世界だからな。


当然、空輸なんてほぼ不可能だ。貨物運搬用の大型ヘリがあるにはあるが、ジャンボジェット機とは積載量が雲泥の差だし。


そして致命的に物流を悪くしてるのが道路状況だ。元の世界は小さな街が国土全体に広がり、街と街を繋ぐ道路や線路が整備されていた。


だが広域の領土を持つ国家という概念が崩れ、メガロポリスを中心とした都市国家がこの世界のスタンダードな姿だ。


鉱石が産出するとか、数少ない豊かな自然があるって場所は都市国家が所有、もしくは所有権を争っているのだが、そんな土地が多いハズもない。


つまり、世界全体に不毛な荒野とゴーストタウンが広がっている、というワケだ。


不毛な荒野とゴーストタウンとくれば次にくるのは、………そう、ロードギャング。


マッドマックスや世紀末救世主伝説に出てくる、モヒカンとタトゥーがトレードマークの人達。


そんな奴らがゴロゴロいれば、物流コストは跳ね上がるに決まってる。


元の世界ならロードギャング共も車やバイクの給油が問題になりそうだが、この世界の乗り物は炎素エンジンで動いている、給油は必要ない。


炎素って物質は元の世界にはなかったが、もしあったら産油国の経済は滅茶苦茶になるだろうな。


大型の純炎素エンジンなら、陸上戦艦でも動かせるってんだから大したもんだ。


「な~によ。こんな美少女が一緒にいるのにボケ~っとしちゃって。ボケてんのは頭の中身だけにしなさいよね。」


「ちょっと考え事さ。取材なんて受けるのは初めてなんでね。」


「取材なんて大仰に考える必要はないわよ。連中は戦意高揚の為の提灯記事が書きたいだけなんだから。んで御用メディアにそれを流す、と。」


「ペンは剣より強しって言う言葉もあるんだがね。メディアは世の中をちゃんと正す気ねえな。」


「どこの格言だか知らないけど、ペンは剣より暴力的なダケよ。剣を持った人間は秩序の名の下に、ペンを持った人間は自由の名の下に、手にした力を行使するだけ。違いはペンのもたらす悪影響の方が広範囲って事ぐらいじゃない?」


世界最年少であろうちびっ子哲学者の立ち位置は、性悪説であるらしい。


「哲学者リリス博士のご意見に概ね同意するよ。他に違いがあるとすれば、剣で人を殺す場合は明確な意志が必要だが、ペンで人を殺す場合はそうでもないって事かな。」


「そうね、自覚なき殺人者になり得るのはペンを持つ者の方でしょうね。ところでトゼンに痛めつけられた傷はもう大丈夫なの? アバラにヒビが入ってたんでしょ?」


「オレの回復力なら今日中に直るだろうってヒビキ先生が言ってた。心配いらない。」


「それじゃ取材が終わった後はフリーよね? 今日はトレーニング出来ないでしょ?」


「ああ、傷を悪化させたら意味ない。なにか用があるのか?」


「ロックタウンに行きたくてね、せっかく大都会(リグリット)に行くんだから、それなりのお洒落はしてないと田舎者だと思われちゃうでしょ? ガーデンのモールには私に合う服ないんだもん。」


そりゃガーデンにお子様はリリスしかいねえからな。子供服なんか置いてる訳がない。


「どうせ向こうでシコタマ服を買うんだろ? 二度手間じゃんか。我慢しなさい。」


リリスに我慢って言うだけ無駄なのかもしれんが。


案の定、ワガママちびっ子は納得などしない。不敵な顔でニヤリと笑う。


さあ、どういう手でワガママを押し通すつもりだ? くるならこい!貴様のワガママにはもう慣れっこだ!


リリスは髪の変異型戦闘細胞を使ってネコ耳を形成する。そして完璧な猫なで声で甘えてきたのだ!


「にゃ~ん、ロックタウンに行きたいのにゃ。ご主人様に連れてって欲しいのにゃ。」


ぐ、ぐおお!そんな手できやがったかぁ!


リリスのネコ耳モードは以前に一度、不知火の中で経験済みだ。


その時は………オレに変な属性を生やそうとすんな、生えかけた属性は引っこ抜いておく、と断言したのだが。


実はオレは新たな属性の除去に失敗していた。ネコ耳の良さに気付いてしまったのだ。


今ではオレの秘蔵のコレクションの中に「ネコ耳娘のパジャマパーティー」まである始末だ。


リリスは羽織っていたガウンを脱ぎ捨てる。


まさかまた透け透けネグリジェじゃなかろうなと警戒したのだが、ガウンの下はある意味透け透けネグリジェよりもヤバイ代物だった。


に、肉球柄のパジャマだとう!ば、馬鹿なぁ!リリスは寝間着はネグリジェ派だったはず。


リリスはネコ耳、パジャマとオレのウィークポイントを的確についてくる!


朦朧としたオレをベットに押し倒すと、オレの胸板の上でゴロゴロと喉を鳴らしながら、さらに甘えてきた。


「にゃ? いいのにゃ? ロックタウンに連れて行ってくれるかにゃ?」


ダメだ、手も足も尻尾も出ねえ。オレはコクコクと頷くしかなかった。


リリスはマウントポジションに移行し、勝利宣言を行う。


「フフッ。はい、これで准尉の午後の予定は決まりね。」


「参りました。お願いですからオレの体の上からどいて下さい。」


「ネコ耳にパジャマねえ。やっぱり准尉の性的嗜好ってマニアックね。」


「ど、どうしてオレの弱点が分かったんだ? ハッ!………ま、まさか!」


リリスはさっきまでの甘~いネコちゃんモードを解除し、本性である悪魔の素顔を見せる。


「ちょっと探せばわかるところにダミーのエロ本を隠し、手の込んだところに本命を隠す。なかなかいい手よ。でも私には通じないわ。」


ダミーに気付いてやがった、この悪魔め!


「おかげで准尉の性的嗜好はほぼ把握したわ。今のブームはネコ耳パジャマでしょ。その前は裸エプロン、これは後ろ向きでお尻が丸見えのアングルが好物。その前はノーブラデニム、デニムシャツのボタンが全開で乳首をチラ見できるのが………」


「やめてえ~!もうやめてえ~!オレのライフポイントはとっくにゼロよぉぉ!」


ベットの上で頭を抱え羞恥に悶絶するオレ。隠していたエロ本が綺麗に学習机の上に並べられていた中学生ってこんな気分なのかもしれん!


それでも悪魔少女リリスは死体蹴りをやめない。


「おっぱいが本当に好きよね。分析の結果、准尉の性的嗜好(コレクション)の72%がおっぱい絡みだったわ。」


そんな分析いらねえよ!いらんコトに才能使うな!


「でも紐パンライダーはいくらなんでもマニアック過ぎない? 私でさえヒキそうになったわ。普通のジャケットじゃダメで、ライダージャケットがいいなんて、どういうこだわり?」


「ぎゃ~~~~~~!!」


殺されてゾンビになって甦って………また殺された気分だ。


「朝っぱらから楽しそうじゃないか、ええ?」


真夏の喫茶店で出されるお冷やみたいな冷たい声で呼びかけられて、ドキリとする。




いつの間にかドアが開いていて、ドア枠に肘をあてて頬杖をついたマリカさんの姿がそこにあった。




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