表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
451/501

再会編41話 忍者の芸は進化する



巡洋艦レッドキャップの現在位置は敵軍中央、そのど真ん中だ。本来なら旗艦が位置する場所、リードは半端な保険を掛けたようだな。


ヘタの考え休むに似たる、だ。猛将のイメージに惑わされたオレ達が先陣を切る旗艦に攻撃を集中させればよし、見破られても最も安全なはずの軍団中央にいれば普通に逃げ切れるかもって考えなんだろうが……甘いな。


軸足を二つに分けて保険の保険を掛けておくのは間違いではないが、こういう場面では決め打ちすべきだった。策を見破られた挙げ句に、オレが決め打ちしてきた場合はどうするつもりなんだ? 既にロスパルナスの防衛という勝利条件は達成し、ボーナスステージに挑んでるこの局面、オレが決め打ちを躊躇う理由はないんだぞ?


「今は砲撃は控え目でいい。レッドキャップの通過に合わせて一斉砲撃出来る準備をしておけ!」


退路に殺到する敵軍からの反撃は散発的だ。攻める時には無類の強さ、その反面、守勢に回れば存外脆い。司令の看破した通り、リードはやはり名槍を振り回す素っ裸の男だ。


「ブレイザー1、2、3、エンジンを最大出力まで上げろ!一斉砲撃が終わると同時に艦列に割り込む!ブレイザー2、3は攻撃目標後方から撤退してくる後衛艦からの壁だ。ブレイザー1は衝角(ラム)を準備、レッドキャップに体当たりする。ラウラさん、腕の見せどころだぜ?」


宜候(ヨーソロー)、お任せください!」


軍帽を跳ね上げたラウラさん、本気モードだな。


「ハンマーシャークはブレイザー1の後ろにつけ!突進でレッドキャップの足が止まったら白狼衆と一緒に艦内に突入だ。」


「そうくると思っていたよ。エンジン最大出力!」


メインスクリーンに映ったシュリの顔は頼もしい。出会った時より格段に凄味が増してる、オレと一緒に現在成長中だもんな。


「ブレイザー2、ランス少尉!レッドキャップを援護しようとする敵軍の鼻っ面を叩け!ブレイザー3のトリクシーはその援護だ!」


「了解した!」 「任せてください!」


「カレルはオレがレッドキャップを制圧するまでレイブンの指揮を執れ!リリスとシオンがサポートする!」


「イエッサー!」 「はいはい、お留守番ね。」 「隊長、気をつけてください。」


カレルはドネ家私有軍の指揮官をやっていた。だから大軍の指揮経験はある、短時間なら任せられるはずだ。


「リックはコンマツー、シズルさんは白狼衆を連れてオレとこい!旗艦に残った兵士の指揮はロブに任せる!」


「おうよ!暴れるぜ~!」「お館様、八熾の力を見せてやりましょうぞ!」 「了解だ、大将。」


メインスクリーン上方に映っているのはガーデンから送られてきた助っ人であるシグレさんとダミアン、この二人には各都市から派遣されてきた増援部隊の指揮をやってもらおう。現在、有志連合部隊二千名は右翼と左翼の二つに別れて展開している。


シグレさんもダミアンもアスラの部隊長、目上の二人に命令ってのはやりづらい。ここは命令ではなく要請ってカタチを取らせてもらおう。


「え、ええっと…シグレさんとダミアンに要せ…」


逡巡しながら要請しようとするオレの言葉は、シグレさんにピシャリと撥ね付けられた。


「カナタ、戦場に師弟関係を持ち込むな。この増援軍の指揮官は誰なのだ?」


ダミアンも厳しい顔でオレの心得違いを窘める。


「シグレの言う通りだ。要請ではなく命令を下せ。」


「はい。シグレさんは右翼、ダミアンには左翼部隊の指揮を任せます。シグレさんはオレの突入後は全軍の指揮も統括を。総員、配置につけ!」


右翼左翼はアスラの部隊長であるお二人に任せれば問題ない。ブレイザー1に残るカレルがレイブンを指揮し、ブレイザー2のランス少尉は直接攻撃を担当、そのランス隊を重砲火力で支援するのはブレイザー3のトリクシー、ロブは状況に応じて双方をバックアップ、この布陣でイケるはずだ。……いよいよオーラスだな。


──────────────────────


「3、2、1、……撃てー!」


タイミングを見計い、満を持しての砲撃開始命令、牽制攻撃に徹していた増援艦隊は溜めに溜めたその力を解放した。


瞬く間に戦場に砂煙と黒煙が充満し、そのモヤを振り払うかのように敵艦隊は懸命に逃走を続ける。


「大破させる必要はない!総軍、敵艦のキャタピラを狙え!」


巡洋艦レッドキャップを守る軽巡群は一斉砲撃を受け、一枚、また一枚と剥がされてゆく。


機は熟した、今だ!


「ブレイザー1、突撃!攻勢艦隊は後に続け!」


黒煙をなびかせながら逃亡を図るレッドキャップに迫るブレイザー1。針路を阻もうとした軽巡のキャタピラに主砲が命中し、足を止める。


「寂助、いい仕事だ!」


砲座に座って主砲を操る寂助はサムズアップで喜びを表現し、すぐに砲撃任務に戻った。


高速で迫ってくる巡洋艦レッドキャップの姿。さあ、いくぜ!


「機関臨界!総員、衝撃に備えろ!」


命令してから指揮シートに備え付けられたグリップを握り、衝突に備える。


数秒後、激しい衝撃が艦内に走り、メインスクリーンの画像がブレたが、すぐに正常化する。


横合いから衝角を喰らったレッドキャップの動きは止まった!再動される前にカタをつける!


「トンカチ、パイルチューブを射出だ!乗り込むぞ!」


オレはシートベルトを外して腕に装着した戦術タブに異常がないかを確認、それから決戦の場に向かって駆け出した。


─────────────────────


白狼衆が先陣を切って乗り込んだ敵艦内、さっそく手荒いお出迎えをされた。


敵兵達は通路に設置されたスライド式の防壁を引き出し、盾にしながら銃撃してくる。


監視カメラを壊そうと銃を構えた牛頭さんを手で制し、白狼衆は通路角に待機させた。


(お館様、なぜカメラを生かしておくのです?)


(威嚇の為だ。戦争は最後まで戦って総崩れなんて例は稀、大抵はビビって算を乱したから総崩れになる。)


羅候って最高のお手本があるからな。自分をどう見せれば一般兵がビビるかはわかってる。


オレは念真障壁で銃弾を弾きながら、ゆっくり歩み寄る。演技のスパイスに、小首を少し傾げてやるかな?


「……そんな攻撃でオレを止められるとでも思っているのか?」


"相手を騙すつもりなら、まず自分自身を騙せ"これは司令から最初に教わったコトだ。……いくぞ、テメエらの命なんざゴミクズだって思い込んだぜ!


「もう気は済んだだろう?……では死ね!」


天狼眼で敵兵達を一睨みすると、耳血を噴き出しながら一斉に倒れた。


「狙うは敵将、アダム・リードの首一つ!歯向かう者には容赦するな!逃げる者はほっといていい!」


直衛部隊の兵隊さん達、聞こえただろ? リードを見捨てて逃げれば命は助かる。さあ、どうするね?


─────────────────────


同時突入したシュリ隊と連携し、艦橋からの退路を塞ぎながら、オレ達は艦内を制圧していく。


「シズルさん達は艦橋を制圧、リードはいないだろうが、いたらオレに連絡し、交戦は控えろ。オレはコンマツーを連れて格納庫に向かう。ビーチャムはシズルさんの援護だ。」


「ハッ!お任せを!」 「了解であります!ビーチャムチーム、行くぞ!」


一応注意喚起はしてみたが、100%の確率で艦橋にリードはいない。ヤツは格納庫にある車両で逃げにかかるに違いないからな。白狼衆のお供はビーチャムチームにとってはいい実戦訓練になるだろう。


─────────────────────


「はろー、豪腕。地獄からお迎えに来てやったぜ?」


振り返ったリードに向かってオレは敬礼してやる。額には汗びっしり、そりゃ焦るよなぁ。


「け、剣狼!」


リード、格納庫前の通路でオレとシュリに挟み撃ちされるとは、おまえさんもツイてないな。


「本来なら降伏勧告すべきなんだろうけど、僕はしないよ。リード中佐にはロードギャング時代に民間人を虐殺した容疑がかかってるからね?」


眼鏡を外して戦闘モードのシュリは部下達に扉前を固めさせ、リードと僅かに残った直衛隊に一歩近寄る。


リードと行動を共にしたのは4人ぽっちか。能力はあっても人望はなかったようだな。


「部下が4人いるのは僥倖だったな。三途の川を渡る御駕籠を担ぐのに丁度の数だ。渡し賃の六文銭は持ってるかい?」


「5人合わせて三十文、地獄じゃクレジットカードは使えないよ? いつもニコニコ現金払い、スマートなビジネスだね。」


寸劇を演じながらオレとシュリは間を詰める。


「き、貴様ら……」


「カナタ、リードは僕が殺る。」


シュリはリード達がオレに視線を向けた隙に、ホログラム投影用の超小型インセクターを通路の天井に飛ばし終えてる。舞台装置は万全って訳だ。


「任せた。地獄への土産に見せてやれ。……空蝉修理ノ助の芸を。」


雑魚どもに邪魔はさせない。オレが距離を詰めると、目論見通り、部下4人はオレをブロックしに来てくれた。


一騎打ちの状況が整ったシュリが両手を左右に広げると、その体が五つに分裂し、それぞれに違う構えを取った。


「バカが!そんな古臭い手で驚くか!……なにぃ!」


五つの影がリードに迫り、白刃を交える!シュリの奴、分身の数を増やしただけじゃなく、刀身部分の念真壁を硬質化させる技までマスターしてたのか!いくら念真力の緻密なコントロールが得意だっつっても、緻密すぎんぜ!


リードは豪腕の異名通り、パワフルな攻撃で二体の念真人形を破壊したが、そこまでだった。残った二体がホログラムの皮を脱ぎ捨て、リードの両腕を抑える。


「念真力で作った人形!!こ、これが…ゴバァ!」


「そう、僕の芸のタネだ。疑念が解けてスッキリしただろう?……迷わず地獄に堕ちるんだね。」


火隠忍術の必殺剣"鎖抜き"がリードを捉え、鎖骨の隙間から心臓を貫かれたリードは立ったまま絶命した。


雑魚の始末を終えたオレは刀に付いた血を振るって払い、リードの死体を寝かせたシュリとハイタッチした。


「ス、スゲえ!これがシュリさんの芸、こんなの初見の敵が対応できるわきゃねえぜ!」


コンマツーの面々は一様に驚愕している。フフッ、なんだかオレまで誇らしい気分だな。


「リック、ウスラ、トンカチ、ノゾミ、この事は絶対に他言するな。身内だけの酒席であろうと話題の俎上に載せる事は許さない。わかったな?」


シュリはオレの直属の部下であるおまえ達だから、芸を見せてくれたんだぞ?


「おう!もちろんだぜ、兄貴!」 「信頼されてるから見せてもらえた訳だからな。トンカチは特に気をつけろよ?」 


「うっせえッス!ウスラこそ気をつけろッス!」 「空蝉修理ノ助の芸を見た者は必ず死ぬ。知られているのはそれだけでいい、ですね。」


そうだ。異名を持たない兵士だが一撃必殺、いや、一芸必殺の技を持つ男。それがオレの親友、空蝉修理ノ助だ。




そして豪腕リードを討ち取った空蝉修理ノ助の武名は、同盟にも世間にも知れ渡るだろう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ