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再会編33話 比翼の友



「シュリ、オレはこれから突拍子もない話を始める。信じる信じないは任せるよ。」


「わかった。テレパス通信を使うかい?」


「いや、こんな辺鄙なところには誰もいないだろう。この話だけはテレパス通信ではなく肉声で伝えたい、万一、誰かに聞かれたら聞かれた時の話さ。」


「覚悟の要りそうな話だね。少し時間をくれ。覚悟を決めながら周囲の索敵もやっておくから。」


シュリの袖口から数機のインセクターが飛び立っていく。ホタルのように60機とはいかないが、シュリも複数のインセクターを同時起動出来る才能を持っているのだ。


数分後、シュリは大きく息を吸って、言葉とともに息を吐いた。


「オールクリア、この周辺には誰もいない。……話してくれ。」


……本当に話していいのだろうか? 勇気を出せ。言うんだ!オレが空蝉修理ノ助の友である為に!


「まず、オレがアギトの甥っ子だってのは嘘っぱちだ。真実はアギトの遺伝子から造られたクローン、オレは人為的に製造された……クローン兵士なんだ。」


「な、なんだって!? それは本当なのか!!」


眼鏡の中の瞳が見開かれる。……そりゃビックリするよな。


「ああ。ザラゾフ元帥がヒビキ先生の従兄弟であるシジマ博士に命じて、「超人兵士培養計画」とかいうろくでもないプロジェクトを始めやがったのさ。アギトみたいな超人兵士を量産する為にな。だが計画は上手くいかなかった。製造されたクローン体は全員、知性を持たない戦闘マシーンでしかなかった。一般兵よりははるかに強いが、異名兵士なら知性の欠如という弱点を突いて、造作なく斃し得るレベルだ。兵器としては二流どまりだろう。」


一般兵だって、数を揃えて冷静に対処すればどうにか出来るだろう。なにせ破壊衝動と殺戮本能だけで動いてる訳だからな、ビビりさえしなければいいんだ。


「……カナタはその実験の唯一の成功例、という訳か……」


紙コップの酒を飲み干したシュリ、オレは二つの紙コップにウィスキーを注いでから話を続ける。


「それも違う。実験は全部失敗してたんだ。オレがクローン兵士であるというコトは司令、クランド中佐、ヒビキ先生は知っている。ここからの話はミコト様しか知らないと含んでおいてくれ。……オレは地球という星に暮らす平凡な大学生だった。だった、と過去形なのはアクシデントで脳死状態になってしまったこの体に意識が転移しちまったからだ。」


「地球? カナタは違う星からきた人間だっていうのか!」


「ああ。地球はこの惑星テラそっくりの星でな。経緯としてはこうだ。御門宗家には心転移の術という秘術がある。その秘術は脳死状態の体に意識を移し替えるコトが出来るんだ。御門左龍に抹殺されそうになった八熾羚厳は御門宗家の血を引く者でもあり、心転移の術を完成させていた。そして心転移の術を使った八熾羚厳は地球で交通事故を起こし、脳死状態になっていた天掛翔平の体に転移してしまったんだ。」


「天掛翔平……それがカナタの……」


「そうだ。八熾羚厳の魂を宿した天掛翔平がオレの爺ちゃんなのさ。地球はこの星よりも科学が遅れた星で、地球人は念真力への親和性も低い。過大な念真力が原因で発症するキマイラ症候群という難病に、オレは罹患する可能性が高かった。オレは"念真力が成長する"という特性を持っていて、悪性腫瘍を抑止するエリクセルは地球にはない。だから爺ちゃんは惑星テラにオレを転移させる準備を進めていたんだ。天心通というテレパス通信のベースになった力を持つミコト様は、八熾羚厳が異世界で生存しているコトを知っていて、オレの転移計画にも協力してくれるはずだった。だが手違いが起こって、オレはこの体に転移してしまった、という訳だ。」


「……そうか。それでミコト様は、カナタの事を羚厳様に育てられた本当の姉弟と仰ったのか……」


「荒唐無稽なお話だろ? 信じてくれるかい?」


話し終えたオレはウィスキーを一気に煽り、空になった紙コップにシュリがウィスキーを注いでくれた。


「もちろん信じるよ。カナタは八熾羚厳の孫、黄金の狼の意志を継ぐ男なんだって。」


「厳密にはどうなんだろうねえ。八熾羚厳の魂を宿した天掛翔平が爺ちゃんで、オレは八熾羚厳の妹、牙門シノの子であるアギトのクローン体に魂を宿して……」


もう訳がわからん。状況がややこしすぎる。


「火隠の里には物知りのおババ様がいるんだ。この間ホタルと一緒に里帰りした時に、二人でおババ様から八熾家の事を色々と聞いた。マリカ様からカナタが八熾家直系の血族である事は聞かされていたからね。色々と八熾家の話を聞けたんだけど、おババ様は最後にこう仰られたよ。"雌雄一対、二つの黄金の勾玉を瞳に宿す者こそ、八熾の本流。天駆ける狼の魂を継ぐ者なのじゃ"と。カナタはクローン人間なんかじゃない。偉大な祖父から黄金の瞳とその志を受け継いだ、僕の親友だ。」


泣きたかないけど、泣けてきた。涙脆いってのだけは、元の体と変わんねえってのがイヤになるぜ。


「カナタ、その瞳は涙を流す為にあるんじゃない。眩く黄金に輝き、その光で暗い時代を照らし出す為にあるんだ。鳥玄で僕と誓ったじゃないか。"程々に妥協出来る世界を創ろう"って。」


「そうだったな。オレ達で創ろう。……程々に妥協出来る世界を。」


オレとシュリは紙コップで乾杯した。


─────────────────────


その後は足らずの情報を補足し、シュリに今後の方策の相談にのってもらう。


「……仔細な状況はこんなところだ。仲間にも今の話はしておくべきなんだろうが……」


「難しいね。万が一にもカナタの真実が世間に知られたら面倒な事になるだろう。」


「秘密を守る最善手は話さないコト、司令のポリシーもまた真実なんだよな。」


みんなを信用してない訳じゃない。でも今回のオレのように、うっかり秘密を漏らしてしまう危険性はある。それを防ぐ手立ては話さないコトだけだ。


「僕達の仲間も皆が皆、嘘が得意でもないし、腹芸に長けている訳でもないからね。リリスは嘘八百は得意芸だけど、ナツメは……」


「だよなぁ。でもリリスには話してナツメには内緒、とかはしたくねえ。」


「だね。カナタを大事に想ってるっていう点には遜色ないから。僕の考えを言わせてもらえば、今はまだ話すべきじゃない。」


「ああ、オレも同じ考えだ。非人道的な実験が絡んでなければ話せるんだが……」


オレがいくら人間だって言っても、クローン人間としか見做さない者だって出てくるだろう。オレの立場が危うくなれば、こんなオレをお館だと担いでくれてる八熾一族の立場まで危うくなる。


()()()()、だからね? いずれは自分の口から事情を話すべきだ。それで離れていく者もいるかもしれないけど、そうすべきなんだ。」


「……わかってる。」


「僕が思うに司令が同盟の実権を握った時がそのタイミングだと思う。そうすれば非人道的な実験も、同盟ではなくザラゾフ元帥の個人的悪行で留められ、カナタはその被害者という線で世論を誘導出来るだろう。」


「もしくはその手前でだ。実験の件を明るみに出し、ザラゾフ元帥を失脚させる。司令はそのタイミングを窺っているんだろう。」


「いや、やっぱりそれじゃダメだ。実験の事を話すのは仲間達だけでいい。どんなに巧みに世論操作しようと、世間ではカナタをクローン人間呼ばわりする者が必ず出てくる。若くして地位と名声を得た人間に嫉妬する者がいない訳はないからね。そんな連中はカナタを誹謗中傷するのは嫉妬ではなく、クローン実験によって生まれたという事実を指摘しているだけだと平気で言い張るだろう。カナタの事をよく知りもしない癖にそんな事を言う輩を見かけたら、僕は最低傷害罪、下手すれば殺人罪を侵す事になる。刑務所入りは御免だよ。」


「ハハハッ、なんにせよ司令が同盟の実権を握ってから話すべきだな。一番いいのは戦争が終わってから、なんだが……」


「終わってから、じゃない。終わらせるんだ、僕達の力で。戦争が続く限り"程々に妥協出来る世界"なんて創れっこない。」


「そうだな。終わらせるぜ、オレ達の力で……この戦争を。」


ローゼだって世界を変えようと、か細い肩で重荷を背負(しょ)ってるんだ。オレには出来ないだなんて男として情けなさすぎる。




オレには頼もしい仲間達が、お館と支えてくれる一族が、弟と呼んでくださる貴人がいる。……そして比翼の友、空蝉修理ノ助がいるんだ。きっとやれるさ!



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