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照京編31話 失格親父の挽回戦



廃屋を出た私とバートの前には、チンピラが6人いる。


「テメエらはどっかから流れてきたよそ(モン)らしいな。」


二の腕が見えるように破った革ジャンからのぞくタトゥー、手には釘バットか。チンピラってのはどこの世界でも風体は一緒だな。


「いかにもそうだ。そろそろ近所回りの挨拶にでも行こうかと話していたところだよ。」


「そうかい。俺らがここいらの大家様だ。わかったら家賃を出しな!」


「いくらだ?」


「持ってる金全部だよ、アホウ!」


私は隣に立つ相棒に謎かけをしてみた。


「バート、とある国では野球のバットが年間20万本も売れた。だがボールは50個しか売れなかったんだとさ。」


「目の前のバカがその答えですか。キミ達、バカなのは仕方ないにせよ、武器ぐらいもっとマシなモノを持ちなさい。」


この世界じゃ野球は30年も前にプロリーグが廃止されたマイナースポーツらしいが、バットだけは人気らしい。


「死にてえらしいな!」


素手と甘くみたのか、革ジャンタトゥーはバットを構えて殴りかかってくる。


しゃがんで躱して、ボディにフック!くの字に体が曲がって落ちてきたアゴにアッパーだ!


「見たか、我が必殺の立砲拳を!」


懐に手を突っ込んだグラサンノッポには飛び蹴りを食らわす!


「そしてこれが至鳳拳!」


ピンポン玉のように吹っ飛んだ仲間をかがんで躱したモヒカン小僧に私は襲い掛かった。


突き出されたナイフを脇で挟み、中指を尖らせ、固めた拳を鼻と口の間に叩き込む!


「最後が暁星拳だ。堪能したかね?」


折れた前歯を吐き出しながらモヒカン小僧は前のめりに倒れ、返事はない。


私より先にバートも3人のチンピラを片付けていた。さすが本職の殺し屋だ。


「それがコウメイの拳法ですか。なかなかのものです。」


「うむ。至鳳拳(しほうけん)立砲拳(りっぽうけん)暁星拳(ぎょうせいけん)からなる弐奔刻拳法(にほんこくけんぽう)。公僕の必殺技だよ。」


フフッ、日本国憲法は平和憲法だが、弐奔刻拳法は乱世の拳法なのだ。


「……ただの駄洒落ですか。しかもセンスゼロの……」


私はまだ喋れそうなグラサンノッポの襟首を掴んで尋問を開始する。


「おまえらは何者だ? チンピラなのはわかってるが背景はあるのか?」


「……お、俺達をこんな目に合わせてタダで済むと思うなよ……俺達のバックには……」


「バックありか。殺さずに済ませたかったが、背景ありならやむを得ん。全員始末してトンズラするのが利口だな。」


「待て!ないない!俺らにバックなんざねえよ!」


「心配するな。一瞬で終わる。」


「本当だ!出入りしてるファミリーはあるが、顔が利くってほどじゃねえ。構成員として扱ってもらえてねえよ!」


「本当だな?」


「本当だ!」


「では見逃してやろう。もう一度顔を見た時は即座に殺す。……消えろ。」


念の為に盗聴器をグラサンノッポのポケットに滑り込ませてから、解放してやった。


──────────────────────────────────


「コウメイ、問題ありません。あのチンピラどもはヤサに戻って安酒を煽り、"今度あったらぶっ殺す"なんて息巻いてるだけです。」


私は器材に付いているマイクを取って、警告してやる。


「威勢がいいな。今度あったらぶっ殺す? 今すぐ殺しに行ってもいいんだぞ?」


チンピラの悲鳴が器材のスピーカーから聞こえ、バートは喉を鳴らして笑った。


「人が悪いですね。」


「あのチンピラどもは頭が悪い。釘バットを持ってるような輩の頭がいいはずがないか。」


「取りあえず、引っ越しですかね?」


「そうだな。スラムに廃屋はいくらでもある。チンピラどもに居場所を知られた以上、用心しておくに越した事はない。」


「ホームセンターでカーテン代わりのビニールシートを買っていきましょう。失敗は次に活かさないと。」


「まったくだ。」


チンピラをからかって憂さ晴らしを済ませた私達は、新たな拠点を探す事にした。


────────────────────────────────────


新たな拠点に引っ越してから一週間、バートは街で情報収集、私は法の勉強に勤しんだ。


政商に成り上がる機会を掴みたいのだが、なかなかめぼしい話はない。


もう一週間様子を見て、なにもないなら違う街に移動した方がいいかもしれん。


「ただいま、コウメイ。」


「その顔は今日も空振りだったみたいだな。」


「残念ながら。はい、コウメイの大好きな新聞各紙。しかしタブレットで読まずに紙で読むとは、コウメイは意外とクラシカルなんですね。」


「元の世界では電子媒体が主流とはいえなかったからな。紙媒体もいいものだよ。」


私は新聞の政治欄に目を通してから、記事全般を流し読みする。


……こ、これは!


「コウメイ、どうかしたんですか?」


「自然食レストラン「白鯨」のオープニングスタッフ募集……連絡は人事課のハーマン・メルヴィルまで、だと?」


「それがどうかしたんですか?」


「元の世界には「白鯨」という有名な小説がある。著者はハーマン・メルヴィル。」


「え!? じゃ、じゃあその広告は……息子さんからの……」


「ああ。これはカナタからのメッセージだ。」


私は新聞の広告欄を前に考え込んでしまった。


────────────────────────────────────


迷った挙げ句、私は広告の連絡先に電話をしてみる事にした。


「はい。御門フードサービスです。」


「人事課のハーマン・メルヴィルさんをお願いしたい。求人広告の件で。」


「しばらくお待ちください。……お電話替わりました。ハーマン・メルヴィルです。求人広告の件でお電話を頂いたようですね。貴方のお名前をお聞かせ願えますか?」


「権藤……権藤杉男だ。」


「!!……多少お時間がかかりますが、絶対に電話を切らずにお待ちになってください!」


3分ほどしてから私そっくりの声が聞こえてきた。


「無事だったんだな、権藤?」


「ああ。カナタも無事でなによりだった。」


叙勲おめでとうと言ってやりたいが、私のハンディコムでは危険だな。


「命を助けてもらった礼を用意した。今からピーカーン公園に向かってくれ。駐車場に黒いバンが停まっている。後部バンパーの下にあるスイッチを押せばコンソールパネルが出る。解錠コードはasura-0101だ。」


この街に特殊車両を準備しておいたのか。おそらく御門グループの差配だな。


「だが罠の可能性もあるな?」


疑ってなどいないのだが、適度な距離感の演出は必要だ。


「……信じろ。罠でもないし、何者かの詮索もしない。」


「わかった。ピーカーン公園だな。」


私はバートと一緒に公園へと向かった。


─────────────────────────────────


カナタの言った通り、ピーカーン公園には黒いバンが停まっていた。


用心深いバートがインセクターで周囲を調べたが、問題ないのはわかっている。


隠しスイッチを入れるとバンパー上部がスライドして、コンソールパネルが現れた。私は教えられたコードを入力し、解錠する。……後部座席に窓がなかったのはこういう事だったか。


「最新鋭の通信設備ですか。カナタさんは用心深いらしい。コウメイ、車のキーは座席下に置いてあります。」


「わかった。これがカナタの連絡先だな。バート、運転を頼む。市街の適当な駐車場までな。」


バートは市内を流してから、立体駐車場の屋上エリアに車を止めた。


「コウメイ、尾行はありません。」


「運転席で待機しててくれ。私はカナタに連絡してみる。」


後部座席に移った私は貼ってあったメモに従い、通信機器を操作してみる。


なかなか複雑な手順を踏むのだな、これは特殊な器材なのだろう。


私はうまくやれたらしく、ほどなくカナタに通信が繋がった。


「権藤、その通信設備は軍の諜報用だ。車両に盗聴機材でも設置されない限り、傍受はされない。」


「なるほど。それで私に何の用だ?」


「頼み事だ。アンタにもメリットのある、な。もちろん断ってもいい。」


「頼み事とやらの内容を聞こう。」


おまえからの頼み事を私が断る訳はないのだが……


「ミコト様が御門グループの総帥に就任される運びとなった。ついてはアンタに御門グループのアドバイザーになってもらいたい。」


「私が御門グループのアドバイザーに?」


「アンタが表に立てないのはわかっている。だから影からミコト様にアドバイスしてくれるだけでいい。アンタの望みが何かは知らんが、御門グループなら大抵の望みを叶えてくれるはずだ。」


……!!……御門グループは戦術アプリの開発も行っている。である以上、生体工学の権威も設備も揃っているだろう。ならばクローン体の製造も可能なはずだ!


いや、はずではなく可能なんだ。ミコト姫はカナタの為にクローン体を造るつもりだったのだから!


「わかった。……私の求める見返りはクローン体の製造だ。」


「クローン体だと!?」


「私には難病に冒された妻子がいる。妻子を救う為に、この星に来たのだ。」


「……そうだったのか。子供は何人いる?」


「娘が一人。」


「では製造するのは2体のクローン、それで終わりだな?」


「終わりだ。約束する。カナタが気乗りしない理由は、私が一番わかっている。だが……妻と娘を救う方法が他にないんだ。」


「わかった。ミコト様はオレが説得する。……いい親父さんを持って女房子供は幸せだな。」




いい親父なものか。……だがカナタ、私の残りの人生全ては、家族に捧げよう。




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