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照京編28話 宴会のダブルヘッダー

降格したのはギャバン少尉だけではないようです。



ビーチャム・チームと顔合わせした翌日、また新顔がガーデンにやって来た。


辺境基地のみそっかす達とは違って、今度は即戦力のゴロツキどもだが。


中庭に降りてきたヘリから現れたのは、真新しい軍服姿のロブちん率いる元ロードギャング達。


オレの隣で一緒に出迎えたナツメが手を振りながら声をかける。


「やっほー、ロブちん!久しぶりだね!」


「ロブちんは勘弁してくれよ。……来たぜ、大将。」


ヘリを降りたロブちんがオレに敬礼してくれる。


「よく来た、便利屋。やっぱ降格は免れなかったか。」


ロブちんの胸の階級章は少尉、ギャバン少尉と降格コンビの結成だな。


「構わんさ。俺は出世の為に軍務に復帰した訳じゃねえ。」


「安い正義、今度こそ貫こうね!」


笑顔のナツメにニヤリと微笑み返すロブちん。吹っ切れたいい顔してやがんな。


「……ああ。俺はその為に帰ってきたんだ。安い正義を、今度こそ貫くさ!」


「せいぜい頑張んな、ロブちん。」


「ナツメはしょうがないにしても、大将までロブちんはよしてくれ。じゃないと俺は侯爵様って呼ぶぞ? 昨日の放送は見てたからな。」


「そりゃ勘弁だ。じゃあロブ、食堂へ行こうか。歓迎会の準備がしてある。」


「おいおい大将、真っ昼間から歓迎会か? ノンアルコールとか言わねえよな?」


「昼酒はガーデンじゃ普通だ。夜はミコト様の歓迎会、お姫様と元ヒャッハーの歓迎会を合同でやる訳にゃいかんだろ?」


「歓迎会のハシゴかよ。ゴロツキどもの楽園だな、ここは。」


「そういうこった。」


歓迎会のダブルヘッダーか。同志磯吉は大忙しだな。


───────────────────────────────────


ロブ達と昼酒をしこたま飲んだ後に昼寝して、夕方に目を覚ます。


「昼酒、昼寝、日が落ちたらまた宴会か。いいご身分だな、まったく。」


……いいご身分ではあるのか。歓迎会ではオレに対して、正式に侯爵号の授与もされるってんだからな。


侯爵号の授与なんて断りたかったが、ミコト様とシズルさんに外堀を埋められてしまっていた。シズルさんは和合の前に、一族の家人衆達に両家和合の証として剥奪された侯爵号の再授与がなされると触れ回っていやがったのだ。


シズルさんの先走った申し出を、ミコト様は笑顔で受諾。しかもミコト様ときたら再授与の立会人に司令を指名するんだもんなぁ。


立会人になった司令は"まさか私の顔を潰すような真似はしないだろうな?"とオレを恫喝、ミコト様はミコト様で"カナタさん。せっかく為された和合に水を差すような事はしませんよね?"としれっと加勢するしさ。……硬軟合わせた術策を前に、オレは白旗を上げるしかなかったのだ。


……はぁ……夢から覚めたら、悪夢みたいな現実かぁ。侯爵だなんて、ホントにガラじゃないんだよ。照京が陥落したせいで領地のない、名ばかりの爵位だけにしてもだ。


ベッドに半身を起こして軽く背伸びをすると、傍らで眠っていた小娘どもが欠伸する。


「うにゃ、また宴会なの。」 「ふあぁ。よく寝たわね。」


「リリス、ナツメ、シングルベッドに三人で寝るのはどうかと思うぞ?」


オレの抗議に、小娘二人は斜め上の答えを口にする。


「カナタがダブルベッドを買えばいいの。」 「私は天蓋付きのがいいわね。」


「オレはチープなパイプベッドが性に合ってるの。だいたい天蓋付きのダブルベッドなんか置くスペースないだろ!」


「ナツメ、いっその事、両隣の壁を抜いちゃわない? シオンと私が部屋を交換してから、ね?」


「いいアイデアなの!」


「なにがいいアイデアなのかしら?」


シオンが二人の首根っこを摘まんでベットから放り投げる。


空中でリリスをキャッチしたナツメは反重力発生アプリを使って壁に張り付き、抗議の声を上げた。


「シオンは乱暴なの!」


「乱暴にさせたのはあなた達でしょ? 隊長、時間です。」


オレはベッドから降りて呑む蔵クンを起動させて、アルコールを抜く。


どうせすぐに飲むんだけどな。


───────────────────────────────────


食堂には雛壇が設置されていて、その壇上には帰投してきた司令、ミコト様、ロックタウンの市長の姿があった。


宴席にはアスラの部隊長達に、シズルさんを筆頭にした八熾の家人衆の姿も見える。


オレ達も着座し、残る空席は三つ。たぶん、アスラ3バカと呼ばれるお三方がまだ来ていないのだろう。


「お~、悪い悪い。俺らが最後だったか。」


台詞に反して全く悪びれた様子がないバクラさんが席に座り、カーチスさんはご馳走と酒を見てニンマリ笑った。


「バクラ、トゼンがまだ来てねえみてえだぜ?」


「アホか。トゼンが来る訳ねえだろ。」


着座したトッドさんはミコト様にウィンクし、ミコト様は笑顔で応じた。


(おい、カナタ。お姫様は俺に気があるのかもしんねえな?)


(……トッドさん、死にたいんですか?)


ミコト様をナンパしようとしたら、人生という航路で難破してもらうぞ。マジでだ!


(冗談だよ、冗談。そんなに凄むなって。)


(その手の冗談は笑えません。もう一度言ったら泣いたり笑ったり出来なくさせます。)


(……肝に命じとく。)


分かってもらえてなによりです。


───────────────────────────────────


例によってクランド中佐が挨拶に立ち、これまでの経緯の説明と授与式の開始を告げる。


形式と建前を面倒だと嫌う部隊長達に配慮して式典は簡素に行われ、オレはミコト様から侯爵杖を授与された。


片膝を着いて杖を下賜されたオレの隣で涙ぐむシズルさん。


シズルさんも八乙女家が有していた子爵号を再授与されたのだ。


目下のところ、名誉だけの貴族でしかないんだが、と思っていたのだが、それは甘かった。


「本人の希望により、今後も天掛姓を名乗る天掛少尉だが、同盟加盟都市、及び同盟軍は天掛カナタを正当な侯爵号を有する八熾家当主として認めよう。また当面の領地としてロックタウンに新設された25区も爵位と共に授与される。」


「司令!それは聞いてないです!」


オレは立ち上がって抗議したが、悪辣な立会人はどこ吹く風だった。


「私からの祝儀だ。遠慮なく受け取れ。」


「遠慮するに決まっ…」


背後からシズルさんに口を塞がれ、オレはモガモガと呻くだけの情けない醜態を晒した。


「25区の正式名称は「八熾の庄」と決定する。八熾の庄はロックタウン市内にあるが、独立した自治領であり、全ての権限は八熾家が所有する事実上の私有領だ。市長、それでよろしいな?」


「もちろんです、准将閣下。」


市長はニッコリ笑い、25区の権利証をオレの手に掴ませた。


「そういう訳だ。頑張るのだな、領主カナタ。」


「おめでとう、カナタさん。」


こんな話ってアリ?


侯爵杖を右手に、権利証を左手に立ち尽くすオレに、無責任な拍手が降り注ぐ。


……周囲の人間全てに裏切られ、本丸は陥落。オレがいくら当主(仮)だと主張しても、もう通りそうにない……


───────────────────────────────────


「お館様、いくら目出度い酒であろうと、いささか飲み過ぎなのではありませぬか? お体に障ります。」


アルコール分解アプリがあるからお体には障りません!ほっといてよ!


「目出度い酒に見えるか? シズルさんの、シズルさんの裏切り者ぉ!」


「これは異な事を。このシズル、八熾の御為、心血を注いでお館様に尽くして参りました。これまでも、これからもです。」


「はいはい、精々お家の為に励んでくだされ。オレなんか担いで、お家がどうなっても知らねえぞ!他にマシな奴はいくらでもいるだろうに!」


「お館様。シズルは八熾カナタ様なればこそ、我らのお館とお支えするのです。誰でも良い訳ではありません。……いえ、天下に我らのお館はあなた様だけ。わかって頂けませぬか?」


「……シズルさん。」


「その目です、お館様。その瞳に輝く光に、シズルは一族の未来を賭けようと決意したのです。」


「輝く光? オレの持つ天狼眼のコトか?」


「いいえ。羚厳様も優しい目をされた方だったとお祖母様から聞き及びました。黄金に輝く目ではなく、そんな優しい目をされるお館様だからこそ、シズルはついて参るのです。」


ここまで見込まれて、覚悟を決めらんねえなら男じゃないか……よし、覚悟は決めた!


「ガラでもないし、力足らずだとも思うけど、やってみるよ。(仮)はもう仕舞いだ。」


「では!」


「ああ。オレが八熾家当主、天掛カナタだ。」




ミコト様を護る、それがオレの爺ちゃん、八熾羚厳の願いだ。その願いは孫のオレが、八熾の名を以て叶えてみせる。




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[一言] 腹黒お姉ちゃん司令と甘やかしお姉ちゃん同盟組みました!
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