激闘編6話 刃で繋ぐ信頼
新米艦長に早速試練が訪れます。
オレが艦長になったと知ったコンマ中隊の面々が、新鋭巡洋艦に次々とやってきた。
艦長室はそこそこの広さがあるが、みんなで入れば当然すし詰めになる。
満員電車よりはマシな過密状態の艦長室で、リリスが毒を吐いた。
「ウスラトンカチ!アンタらは出てなさいよ!モブはお呼びじゃないの!」
「おい、誰がモブだ!」 「リリスちゃん、モブはヒドいッス!」
「兄貴ぃ、この船が俺らのなら、俺には個室を回してくれよ。俺はガタイがデカいから棺桶は苦手なんだよな。」
「リック、まず部隊編成が先でしょう!隊長に個人的なワガママを言わない!」
シオンがリックに説教を入れたそばからナツメがワガママを言い出す。
「私はシオンと一緒の部屋がいい。おっぱい枕で眠りたいの。」
オレもそうしたい。枕にも使えるのが巨乳のいいところだ。
「隊長殿、この人だれです?」
シズルさんを横目で見ながらのビーチャムの質問に、リムセがいい加減な答えを返す。
「たぶん、カナタの新しい愛人と見たのです。」
「またかよ。どんだけ女にだらしがねえんだ。」
ウォッカ、風評被害を拡げんな。
「お姉ちゃんが言ってました。カナタ隊長は天然ジゴロだから、ノゾミは注意なさいって。」
ノゾミまで悪ノリすんじゃない!キワミさんもデタラメを妹に吹き込まないでよ!
「無礼な!私は愛人ではない!お館様に仕える第一の家臣、八乙女シズルだ!」
「隊長、八熾一族をまとめてあげるべきだとは言いましたが、率いて戦えとまでは言ってません!」
シオンさん、オレもそんなつもりはなかったんです。
「そもそも私達に相談もナシとか、勝手が過ぎない?」
リリスさん、それは司令に言ってくれ。
「カナタ、私とシオンの部屋はカナタの隣ね。また穴を空けるから。」
ナツメさん、新品の船をいきなり壊さないでね?
そんなこんなで、わいのわいのガヤガヤどやどやと騒ぎまくるコンマ中隊の面々。
「………静粛に!シオン、リリス、リックにシズルさんは残ってくれ!後は艦橋で待機!」
「ヤだ。私も残る。」
「ナツメ、おとなしく艦橋へ行ってくれ。」
「いや!」
プルプルと首を振るナツメ。この末っ子体質めえ。……可愛さにほだされそうになんじゃねえか!
「兄貴、編成を決めるならナツメはいた方がいいんじゃね? 広域に部隊をフォローするスイーパーだぜ、ナツメは?」
それもそうか。
「わかった。ナツメも残ってくれ。ウォッカ、引率を頼む。シズルさんは牛頭さんと馬頭さんを呼んでくれるかい?」
「はい、少々お待ちを。」
シズルさんは艦内放送で牛頭さんと馬頭さんを呼び、ウォッカはパンパンと手を叩いて話をまとめにかかる。
「うし、みんな艦橋に行くぞ。カナタの邪魔して楽しむのは後だ。」
聞き捨てならない台詞を口にしながら、ウォッカは引率の先生みたいに他のメンバーを引き連れ、艦長室を出てくれた。
……ふぅ。これで落ち着いて話が出来るな。
話は頭から紛糾した。編成の軸になる副隊長の人選があったからだ。
「つまり、私に副隊長から降りろ、シズルさんはそう言いたい訳ですね?」
絶対零度モードに移行したシオンが冷たく怖い目でシズルさんを睨むが、忠誠心の塊女は小揺るぎもせず、氷の視線を受け止める。
「今までお館様を支えてくれた事には感謝するが、家臣筆頭であるこの私が配属された以上、当然そうなる。」
「勝手な事言わないで!うちの副隊長はシオンなの!」
ナツメがシオンに加勢すると、牛頭さんと馬頭さんがシズルさんに加勢する。
「中隊の主力は白狼衆だ。我らを率いるシズル様が副隊長を務めるのが当然だろう?」
「兄上の言う通り。なんなら隊員の多数決で決めましょうか?」
「はんっ!悪いけど衆愚主義はお里だけでやってくんない? うちは少尉の独裁体制なのよ!だから決めるのは少尉!文句ある?」
オレの独裁体制とか、人聞きが悪いなぁ。ま、副隊長の人選はオレがすべきコトだけどさ。
「副隊長はシオンだ。変える気はない。」
「しかしながらお館様……」 「それではシズル様の立場が……」
不平不満を口にする牛頭さん馬頭さんを目で黙らせる。ここで日和ってたら、統制が取れない。
「文句があるならロックタウンへ帰れ。オレは誰かの体面や立場の為に戦ってるんじゃない。最前線で刃を振るうオレの補佐をするのは、中~遠距離で支援に回るシオンが適任だ。戦場全体を見渡せるポジションで、能力も人格も皆が認めている。」
「牛頭丸、馬頭丸、お館様の下知に逆らう事は許されぬ。お館様がお認めならば、副隊長はシオン殿でよろしいでしょう。シズルはお館様に従いまする。」
お館様に、か。つまりシオンを認めた訳じゃないってコトな?
「本来、中隊は20名編成だが、司令の命令書によるとコンマワン、コンマツーに白狼衆を加えた30人を率いろとのコトだ。オレ、シズルさん、牛頭さん、馬頭さんの4人で白狼衆を5名ずつ率いる。コンマワンはシオンが隊長をやってくれ。コンマツーは引き続きリックだ。変則的な編成だが、戦役終了まではこの体制でいく。」
オレの言葉に全員が頷く。
「白狼衆のまとめ役はシズルさんだ。正式な階級はまだ授与されていないが、准尉として接するように。シズルさん、白狼衆がコンマワン、ツーと連携が取れない、もしくはシオンの命令に従わない素振りが見えたら、即座にロックタウンに帰投してもらう。部隊は生き物だ。統制がとれない連中の生死に責任は持てないし、共に戦ってきた元のメンバーをオレは信頼してるから。」
「お館様は、我々、白狼衆を信頼出来ないと?」
厳しい目をしたシズルさんにオレは断言する。
「戦歴の短いオレだが、一つ、確信してるコトがある。平時の友人との信頼関係と、戦場の戦友との信頼関係は違う。戦友の信頼関係とは、共に戦い、共に死線を越えて初めて醸成される。配属されたばかりの白狼衆を信頼しろというのは甘えだ。」
「……なるほど。お館様の仰る通り、戦場での信頼は、刃を以て繋ぐのが道理。我ら白狼衆、白刃を振るいて信頼を勝ち得ましょう。牛頭丸、馬頭丸、抜かるでないぞ。」
主の言葉に兄妹は力強く答える。
「お任せを。白狼衆の力をお見せしましょう。」 「我らは一騎当千の精鋭、ご照覧あれ。」
「期待してるよ。編成は決まった。リリス、中隊規模の戦術プランは作製してるって言ってたよな?」
オレが将校カリキュラムを受講する前に、いずれ必要だから作製しとくってリリスは言ってたはず。
「ええ。ちょっと待ってて。不知火からデータを持ってくるから、この艦の作戦室で検討しましょ。」
備えあれば憂いなし、か。この慧眼ちびっ子は部隊に欠かせない参謀だよ。
作戦室に移動したオレ達は、大机をスクリーンモードで起動して戦術プランを検討する。
「シズルさん、辺境でヒャッハー相手に使ってた陣形があったよね? それ、見せてくれる?」
「はい。これは八熾の兵法書にある陣形を現代風にアレンジしたものです。データを入力します。」
「少尉、大昔の兵法書の陣形なんて、近代戦に使って大丈夫なの? アレンジしてるからって問題じゃない?」
近代科学の申し子リリスの疑念は、共感を呼ばなかった。
「クリスタルウィドウの基本戦術は火隠忍軍兵法書のアレンジだ。ここまで言えばリリスならわかるだろ?」
「……そっか。今やってる戦争は戦国時代の合戦まがいなんだから、昔の兵法書の戦術は使える。いえ、白兵戦主体の合戦で培われた戦術だけに、むしろ有効なのね。」
「そういう事。まず白狼衆達が辺境で戦う際に使用していた戦術プランを見せてもらい、そこにリリスの作製した戦術プランを当て込んで、コンマワン、ツーの要員でプラスアルファを加える。基本路線はそれでいいはずだ。シズルさん、八熾の兵法……」
「お館様にご覧頂く為に八熾家兵法書は持参してきております。馬頭丸、すぐにこれへ。」
頷いた馬頭丸さんは作戦室を出て行った。
兵法書を片手に戦術談義か。……気分は戦国武将だな。
日本にいた頃、戦国時代の武将の本は色々読んだが、もっと仔細な戦術を勉強しとけば良かったぜ。
今のオレに求められてるのは、信玄謙信の……いや、半兵衛官兵衛の資質なんだからな。




