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開幕編1話 なにがどうなったってんだ?

平凡な大学生、天掛波平くんの身に異変が起こったようです。



目を覚ましたら違う世界にいた。オレは兵士、しかもクローン実験の被験体とかいうヤツらしい。


今日も血液検査だの脳波測定だの色々あって、やっと解放された自室で唯一の日課であるこの手記を書いている。


手記を書くことにしたのは冗談抜きでいつ死ぬやら分からない日常に放り込まれて、生きている間に何かしらの記録を残しておこうという気になったからだ。


オレが死んでこの手記が誰かの目に留まったとしても問題はない。


この世界の人間には元の世界だなんだと記してあるこの手記は正気の沙汰ではなかろうし、どう受け止めようと何か出来る訳もない。


何よりおそらく死人のオレの知ったことじゃない。


──────────────────


少し自分の事を振り返ろう。


現在、実験体12号(まさか自分が某国民的アニメの人造人間みたいな呼ばれ方をするとは夢にも思わなかった)と呼ばれるオレは元の世界では天掛波平(あまがけなみへい)という三流私大の2年生だった。


父は官僚だった。日本で一番良いと言われている大学を卒業し、官僚になってからも出世コースに乗ったようだ。


父はオレにも自分と同じレールの上を走ることを望んだが、オレはそうはなれなかった。


中学まではなんとかなった。一流の中学に進学したが高校で躓いた。父の望む一流高校の受験に失敗し、第二志望の高校に進学すると告げた時の父の顔を、オレは一生忘れる事はないだろう。


オレは読心術など持ち合わせちゃいないが、無言でオレを見下ろす父が何を思ったのかは分かった。


"なんでこんな出来の悪いのが俺の息子なんだ?"


そう言いたげだった。その日以来、父はオレに関心をなくし、オレも父に関心をなくした。


……家族が終わった日だった。そしてオレは二流高校でも落ちこぼれ、三流私大に進学する事になった。


大学はあえて地方を選んだ。父から離れて暮らしたかったからだ。


父も多分、オレみたいな出来損ないは、さっさと何処かにやってしまいたかったのだろう。特になにも言うことはなく一人暮らしもあっさり認めた。


大学では単位を落とさない程度に出席し、クラブにもサークルにも入らず、友達を作ることもなく、ネットとゲームをやって過ごしていた。まあ、半分ニートみたいなものだ。


とにかく毎日が退屈だった。いつものように午前中は授業を受けて、昼からはアミューズメントパークでゲームをやって、夕方、コンビニで弁当を買って帰宅。


テレビのバラエティー番組を見ながら弁当を食べて、そろそろ酒でも飲んでみようかなんて考えていたらソファーでそのまま眠ってしまったようだった。


───────────────────


目を覚ましたら素っ裸で円柱状のガラスケースの中にいた。


少し粘り気のある薄紫色の液体で満たされていて、窒息するかと慌てたがそんな事はなかった。これはなんだ、エントリープラグみたいなもんか。


そして自分のお腹あたりを見て驚いた。綺麗に六つに分かれている。


いつからこんなムキムキボディになったのやら。そしてガラスケースに映った自分の顔は知らない誰かのものだった。


オレは別に醜男ではないつもりだったが、この顔の方が明らかにイケメンだった。


そのイケメンの顔を撫でてみた。やっぱりガラスケースに映った顔を撫でている。


夢だろうかと思ったが、夢を見ている時に"これは夢だ"と認識できた事はない。


ガラスケースの中から周囲を見渡してみた。大学の理工系の実験室みたいな感じだ。


いくつかのモニター、用途不明の器材、なんの飾り気もない無味乾燥な空間。


プシュッという音がして背後を見ると自動ドアがあったらしく白衣の男が入ってきた。


ボサボサの髪に度の強い眼鏡、無精ヒゲを生やした見るからに博士って感じの20代後半の痩せた男だった。


そいつはドアのそばのレシーバーに向かってなにやら喚いている。


「12号の意識が覚醒している!いつも通りに鎮静剤の投与は行ったんだろうね!」


「……まずアンタが落ち着けよ。」


渋く言ったつもりだったが、ガボガボと口から泡を吹きながらだから、あまり渋くはなかった。


博士っぽい男が凄い形相でガラスケースに駆け寄ってきた。


「12号!言葉の意味が分かるのか!」


「もう少しゆっくり喋ってくれたら、もっとわかりやすいんだけどね」


博士っぽい男は俯いて小刻みに震えだした。そして両手でガッツポーズをした後に拍手しだした。

テンションたけーな、この男……


「やった!成功だ!やっぱり僕は天才だったんだ!」


「天才さん、とりあえずここから出してくんない? ついでに何か着るものも持ってきてくれ。」


「あ、ああ、そうだね。とにかく皆を呼ばないと。12号、キミ、いきなり暴れ出したりしないだろうね?」


「オレは平和主義者だよ。」


「それじゃあ困るんだけどね。キミは兵士なんだから。」


はぁ? どうやら夢でもなさそうだし、難儀な話になってきた。ただ退屈な日常からは解放されたようだ。……おそらくは最悪の形で。


───────────────────


そしてオレはガラスケースの中で、天才さんを筆頭に白衣の群れに取り囲まれた。


動物園のチンパンジーの気分ってのはこんなんだろうねってボンヤリ考えていたら、銃を持った兵士が何人か入ってきた。


そしてオレに銃口を向けながら、包囲してきた。……おいおい、マジかよ。


だが兎にも角にも、オレはようやくガラスケースから出してもらえた。


囚人服みたいな服を与えられたのでとりあえず身につける。ファッションには興味ないとはいえ、これじゃいつもの量販店の地味服のが遥かにマシだな。


ご丁寧に手錠までかけられて別室へとご案内、そこはまさに刑務所の個室みたいな所だった。


刑務所と違うのはモニターが一つあるくらいか。


そしてモニターに勝手にスイッチが入った。そこに映っていたのは、さっきの「自称」天才さんだった。


「やぁ12号、気分はどうだい?」


「囚人服を着せられて個室に監禁されたんだぜ。アンタならどんな気分?」


「すまないね、偉いさんが五月蝿(うるさ)いんだ。僕はシジマ博士、キミを造ったのも僕だよ。」


やっぱり博士かよ。なんにせよ今はコイツから少しでも情報を引き出さないといけない。


「ここはどこって質問は愚問なんだろ?」


「軍の秘密研究所、としか言えないね。」


……軍、ね。日本語を喋っているから日本かと思っていたが違うかもしれない。


オレの暮らしていた日本でこんな秘密研究所が稼動できるとは思えない。


そもそも、ただの大学生のオレが突然ここにいる理由にならない。いや、博士は実験の成功だと言っていた。


大学生の意識を被験体に移植する実験か……それも違うだろうな。ただの大学生を兵士にする理由がない。


ここはシジマ博士の言う事に合わせておこう、そして自分の情報はとにかく隠す。


「オレはどうやって、なんのために造られたんだ?」


「機構軍との戦争に勝利する為の秘密兵器、といった所だよ。」


「機構軍?」


「世界統一機構軍。僕達の敵で、キミは彼らと戦う為に造られた兵士だ。」


現代日本じゃない事は確定だな。未来なのか、それとも全く違う平行世界みたいなものなのか。


「オレが12号って事は12番目ってことか?」


「そうだよ。キミは戦死した優秀な兵士の遺伝子をベースに造られたクローンノイドの12番目、初の成功例だよ。いやぁ、ここまで漕ぎ着けるまでは本当に苦労したよ。」


アンタの苦労なんか知ったことじゃねーよ。とにかく、ここは現代日本とは時間か空間が全く違うのは理解できた。


博士は無邪気に喜んでるが多分、実験とやらも成功した訳じゃない。


とんでもないイレギュラーが起こっただけの偶発的事態の様だ。そしてそれを悟らせてはならない。


死人の遺伝子をベースにクローン人間を造るような連中に、人権意識なんか期待する方がどうかしてる。


「詳しい状況は明日じっくり聞かせてもらうよ。今日はもう休ませてもらう。」


「了解だ。お休み、12号、いい夢を。」



そう、明日からだ。……とにかく、生き残る事を考えなくては。


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