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出撃編7話 毒舌美少女リリエス・ローエングリン

ディアボロスXとは人間兵器のリリエス・ローエングリンという美少女でした。ただこの美少女、性格に問題がありそうで……………



炎に包まれた特別実験室を後にして、専用エレベーターで5階に降りる。


5階まで上がってきたエレベーターで1階まで降りるのかと思ったが、マリカさんは別の方角に向かう。


「どこに行くんです?」


「建物の外周部だ。窓ぐらいあんだろ。」


「飛び降りるとか言いませんよね? 5階ですよ、ここ。」


「飛び降りるのさ。まあ任せときな。」


ムササビの術でも使うんだろうか?


リリスが胡乱うろんげな顔で注文をつける。


「助けた以上はちゃんと責任持ちなさいよ!私みたいな美少女が死ぬなんて世界の損失なんだから!」


「カナタ、その自称美少女を黙らせろ。」


「不可能です、マム。このコは死ななきゃ沈黙しないタイプですよ。」


「やれやれ、まったく碌でもない任務だ。」


外周部に到達、大きな窓がある。


分厚い強化ガラスもマリカさんの鬱憤うっぷんのこもったキックの前にはひとたまりもない。


「この高さならいけそうだね。」


マリカさんはそう言うとオレを小脇に抱える。


リリスをお姫様抱っこしたオレをマリカさんが小脇に抱えるという、なかなかカオスな状況だ。


マリカさんはオレ達を抱えたまま、窓から飛び降りた。


そして飛び石の様に地上に向けて念真障壁を複数展開、左右に飛びながら無事に着地。


退路に向かって走るマリカさんの後を懸命に追う。


敵兵に何度か遭遇したがマリカさんが始末してくれた。


南西の見張り塔では激しい射撃戦闘の真っ只中だった。


ゲンさんの指揮のもと1番隊のゴロツキ達が退路を確保してくれている。


見張り塔に登ろうとする兵士は無慈悲なナツメの餌食になった。


「いくよ!」


敵兵の群れにオレたちは突っ込む。


背後からの奇襲に敵兵が混乱した所を駆け抜ける。


脇腹に痛みが走る。銃弾を食らったか。


だが足は止めない。止まれば死ぬ。


オレ達の突入を見たナツメ達が、見張り塔から飛び降りてきて援護してくれる。


マリカさんはまたしてもオレを小脇に抱えて、見張り塔まで飛び石ジャンプ。


オレ達が見張り塔に上ったのを見て、ナツメは煙幕を張ってから合流してくる。


「ゲンさん、首尾は?」


「シュリとホタル達は先に行かせました。怪我人は多数ですが死人はおりませんわい。」


「上出来だ、アタイらもズラかるよ。ナツメ、殿しんがりは任せたよ。」


オレ達は見張り塔を降りて森の中に駆け込む。


森を駆け抜けた所にはアクセルさん達リガーチームが待機していた。


「お帰り、同志。王子様になったみたいだな。可愛いお姫様連れちゃってよ。」


「じきに前言撤回する事になりますよ。可愛いけど可愛くない子なんで。」


「バカ言ってないでさっさと乗んな!アクセル、全員乗ったらすぐ出せ!」


オレ達は慌てて指揮車両に乗り込む。全員乗ってすぐに発進。


マリカさんは索敵車両のシュリと通信する。


「シュリ、ソナーは出力全開。ヘリを警戒しろ。渓谷越えのルートを通って不知火と合流する。」


「イエス、マム!」


そしてマリカさんはオレの座っている席までやってきて、


「カナタ、脇腹に1発もらったろ。見せてみな。」


「不知火に戻ってからで大丈夫ですよ。血は止まってますし。」


「いいからみせな。」


オレは軍服のシャツを上げて傷口を見せる。


「弾は体内に残ってるね。誰か!ピンセット持ってきな。」


オレの隣にチョコンと座っていたリリスが長い銀髪をかき上げながら、


「私がやるわ。マリカ、どうせスキットル持ってんでしょ。出して。」


マリカさんは黙ってポケットから純銀製のスキットルを取り出し、手渡した。


リリスは鈍く輝くスキットルの蓋を空けて匂いを嗅ぐ。


「シングルモルト、芸州の20年モノか。いい趣味してるわね。」


匂いで銘柄が分かんのかよ。どういうお子様なんだよ、おまえは。


「リリスは未成年だろ。いったい………」


「シャラップ!」


ピシャリとそう言ったリリスは自分の銀髪にウィスキーを振りかける。


そして、リリスの髪が数本、オレの脇腹の傷口に侵入していく。


コイツ、ゲンさんみたいな芸が出来るのか!


「おい、リリス、おまえは………」


「喋らない、動かない、ジッとしてて。」


そうして髪が脇腹の中の銃弾に絡んで掴み、摘出してくれた。


「思ったより浅いトコにあったわ。伍長はいい皮膚装甲を搭載してるみたいね。まさに面の皮が厚いってヤツかしら?」


「面の皮の厚さではリリスには負けるよ。弾を摘出してくれたのには感謝するけどね。それからオレのことは伍長じゃなくてカナタでいい。」


「名前で呼んで欲しいの?」


「隊のみんなはそう呼ぶからね。」


「じゃあ意地でも階級で呼ぶわ。」


こ、この天の邪鬼小娘め~!


厳しい表情のマリカさんが問いただす。


「リリス、その髪、他に何が出来るんだ?」


「単分子鞭としても使えるけど。………恐い顔しないでよ。おかしな真似はしないわ。アンタに殺されるだけでしょ。」


「よく分かってるじゃないか。おかしな真似はしない事だ。」


リリスは摘出した弾丸をポイすると、スキットルに口をつけようとする。


「お酒は二十歳になってから、だ。10年後にしな。」


マリカさんはリリスから愛用のスキットルを取り上げた。


「ケチ!いいでしょ、ちょっとぐらい!」


「カナタ、子守は任せたぞ。」


マリカさん、面倒くさくなって逃げたな。




指揮車両を先頭に不知火との合流地点を目指す。今のところ追っ手はない。


オレ達の消耗は激しい、このまま無事に不知火と合流できればいいが。


………そう言えば助けた子供達はどこから拉致されてきたんだろう。


「なあ、リリス。一つ聞いていいか?」


「なによ、仮性包茎伍長?」


「仮性包茎じゃねえよ!」


「じゃあ、包茎伍長。」


「より悪化してんじゃねーか!!」


「いい大人が子供相手にムキになるなんてみっともないわよ?」


「喧嘩売ってきてんのリリスだよな?」


「ちょっとしたジョークじゃない。」


「悪意が満載で品位が不足してんよ、そのジョーク。」


「あらそう、気をつけるけど改めないわ。それで私に聞きたいことってなに?」


「改めろよ!どういう育ち方したんだよ!………リリス達は拉致されてあの研究所にいたのか?」


「拉致、と言えるかしらね。みんな戦災孤児よ。戦争で両親を失った子達のいる施設から、里子に出す名目で合法的に連れてこられた。」


「戦争で両親を失うって、もう十分すぎるほど戦争の犠牲になってんじゃねーか!その上まだ人体実験に使うとか何考えてんだよ!ありえねえだろ!!」


リリスが研究者達を生かしておけない気持ちになったのは分かる。あの研究所にいた連中は戦争の犠牲なった子供達をさらに犠牲にしたのだ。許せる訳がない。


「興奮しないで、伍長がいきどおったところで現実は変わらないわ。」


「リリスはなんでそう冷静でいられるんだ? 二重の犠牲者達の当事者だろ!」


「今の話は私以外の子達の話よ。私は違うの。」


そう言った時のリリスの寂し気な碧眼には、どこか見覚えがあった。


どこで見たんだろう。どこで…………


「………リリスは何故あの研究所に?」


「………聞きたい?」


「聞いたら後悔するのは分かってるけど、した方がいい後悔もあると思ってる。」


「…………私は父に売られたの。父の出世の為に、ね。」


………そうか、見覚えがあったはずだ。


………元の世界で鏡を見る度に映る………オレもあんな目をしていた。


リリスの目は元の世界でのオレの目そっくりだった。肉親に見放された子供の目。


「………伍長も親とはうまくいってないみたいね。」


「………売られた訳じゃないが似たようなモノかもな。」


「そう、同類ね、私達。」


「ああ、同類だな。」




オレとリリスは顔を合わせて微笑みあった。空虚な微笑みだった。




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