戦役編8話 上司がチート過ぎて素敵なんだが?
マリカの緋眼は汎用性が高いようです。
蟲使いの異名を持つホタルは、観測班をあっさり見つけ出した。
同盟最強のインセクター使いであるホタルから逃れろってのが無理な話なんだけど。
マリカさんはナツメだけ連れて観測班を襲撃、見事に全員の身柄を確保した。
マリカさんからの通信で敵ステルス車両に向かったオレとコトネは、惚けたような顔の敵兵士に尋問するマリカさん達と合流する。
「暗号通信の周波数はわかった。暗号や合言葉の類はどうなんだい?」
「……最初に……現在時刻から数字を引いて……伝えます。」
「その数字とは?」
「……時-5、分-7です。」
「例えば22:15なら1708、となるんだな?」
「……はい。」
「数字がマイナスになる場合は?」
「……-をアルファベットに……換算します。……-1ならA、-2ならB……アルファベットの後に……時刻に8を足して……伝えます。」
うつろな目付きの兵士は、たどたどしい口調でマリカさんの質問に答えていく。
必要な情報を聞き出したマリカさんの緋眼が妖しく輝いた。
「ハッ!………き、貴様は緋眼のマリカ!」
「おはよう。よくおやすみだったねえ。お目覚めしたところで尋問タイムだ。コトネ、連れていけ。」
「はい。お宿はこっちどすえ。窓もルームサービスもないお部屋どすけどなぁ。贅沢言わはったらあきまへんえ?」
観測班のリーダーらしき兵士はコトネに連れられて五月雨へと連行されていく。
尋問タイムね。コトネに声と口調を覚えさせるつもりだな。
観測班の他の面子は気を失ってる4人、オレとナツメが2人づつ担いで不知火へ連行する。
不知火の営倉に観測班を放り込んだ後、マリカさんに訊ねてみた。
「さっきのは催眠術、ですか?」
「そうだ。」
「便利ですね。」
「雑魚相手にしか通じないがな。念真強度が高い奴だとああはいかない。」
それでも凄く有用な能力だ。我が上官ながらチートだよなぁ。
緋眼は瞬間催眠で眠らせるだけじゃなく、催眠術で尋問も出来るのかよ。
最高最強のアサルトニンジャと呼ばれてるのは伊達じゃない。
「睨み殺すしか出来ない狼眼と違って汎用性が高いですね、緋眼は。」
狼眼の真の姿、天狼眼は力を武器に付与出来るって特性があるけど、それにしたって殺しの能力だ。
「カナタの狼眼も隠し技の一つや二つはありそうだけどねえ?」
ギクッ。別にマリカさんに付与能力を隠すつもりはないんだけど、まだ話したくない。
付与能力の極みである夢幻刃・終焉を意のままに繰り出せるようになってから、ドヤ顔で報告したいんだ。
「コホン、後はコトネの仕事ですね。」
「そうなるね。カナタ、重要な任務を与える。」
「なんでしょう?」
「ナツメと一緒にバイクで先行して、アタイらの計略を准将に伝えるんだ。敵はアタイらの到着が遅れると思ってるはずだからな。」
「格納してるヘリを使えばいいんじゃないですか?」
「小型ヘリは危険すぎる。敵の勢力圏の中を飛ぶんだよ?」
ああ、そうか。撃墜されれば一巻の終わりだ。
「人間が記憶して直接伝える。手間だが確実な手なんだ。やれるな?」
「はい。敵がバカでなければアスラ部隊が合流する前にヒンクリー師団を撃滅しようとするはず、そこに騎兵隊のように現れるアスラ部隊。……いやん、シビれる憧れるぅ!」
「……重要な任務だってわかってんのかい?」
マリカさんは両拳で、オレのこめかみをキリキリと圧迫してきた。
「ギブギブ!任務の前にちんじゃう!」
「成功したら下着を一枚、くれてやるよ。もちろん使用済みの生だ。」
マジっすか!マ、マリカさんの生下着!我が家の家宝が誕生しちゃうよ、それ!
「やりますやります!命懸けで任務を遂行しますです!」
「どうしようもないエロ狼だね。じゃ、頼んだよ。」
「リックを連れていっていいですか?」
「リックをかい?」
「アイツの趣味はバイクで、腕前はそこらのリガーに負けません。万一に備えてバイクは2台あったほうがいいし、修理の出来る奴がいた方がいい。」
「そうだな。じゃあリックも連れて行け。途中でなにかトラブルがあっても、誰か一人はヒンクリー准将のところへ行くんだよ。無論、全員死ぬな。これは命令だ。」
「イエス、マム。」
ヒンクリー師団を勝利に導く為、そして我が家の家宝をこの手に抱く為、この任務はしくじれねえぜ!
重要任務遂行隊のオレ達3人は、不知火の格納庫からホバーバイク2台を拝領した。
ナツメとリックがハンドルを握り、オレはナツメのバイクの後部座席、リックのバイクの後部座席には装備品を積み込んだ。
準備を万端に整え、出発しようとした時に格納庫の主である同志アクセルに激励される。
「頼んだぜ、同志。奇襲の成否は同志の行動にかかってるんだからな。」
「お任せあれ。心配ありませんよ、異名兵士が3人も揃ってるんですから。」
「イズルハの諺にあったな。三人寄れば烏合の衆、だっけ?」
文殊の知恵でしょ。文殊はこの世界にはいないだろうけど、どうせモンジャだかマンジュだかがいるに違いない。
「アクセル、三人寄れば文珠の知恵だから。」
字は違えども、モンジュはモンジュだったか。
「そうかい。ま、ヒャッハーが出ても同志達の敵じゃないだろうし、心配ないか。」
……ヒャッハー?
「同志、ヒャッハーってなに?」
同志は髪を鶏冠みたいに掻き上げて、モヒカンっぽい髪型を作り、奇声を上げた。
「ヒャッハーー!!物資と女を置いていけぇ!」
「ああ、ロードギャングのコトですか。」
「ロードギャングなんて呼んでるのは同志ぐらいだ。世間じゃヒャッハーで通ってる。」
ツキのないオレがいるからなぁ。ヒャッハーぐらいは出ると覚悟はしておこう。
「なるほどね。それじゃあ同志、行ってきます。」
「あいよ、マジで頼んだぜ!」
「おっぱいぱい、了解しました!」
オレと同志はサムズアップを交わし、ナツメがホバーバイクを発進させた。
オレ達は荒れ果てた荒野を疾駆し、ヒンクリー師団が戦っている前線を目指す。
バイクを走らせること半日、日が傾きかけた頃に短い草が生えた湿原が見えてきた。
ホバーバイクをチョイスしたのは、この湿地帯を突っ切りたかったからだ。
「もうじき湿地帯だな。日も暮れてきた。ここいらでキャンプを張ろう。」
バイクを減速させながらナツメが答える。
「わかった。湿地帯は一気に駆け抜けないといけないもんね。」
オレ達はバイクを止めて、野営の準備を始める。
テントを張り、焚き火を起こして、トイレを設置っと。
魔女の森を思い出すねえ。違うのは装備が万端なコトだけど。
特にトイレが違う。置いてボタンを押すだけで設置される「置くだけクン」があるからな。
小さな天幕に囲われ、有機化合物の床が排泄物を分解し、匂いも消してくれる優れモノだ。
魔女の森でもコイツさえあれば、楽だったんだがなぁ。
設営を終えたオレ達は食事にするコトにした。
「はぁ………兄貴ぃ、軍用レーションってつくづくマズかったんだな。」
言わずもがなのコトを言いながら、リックがため息をつく。
「言うな。磯吉さんのメシと比べりゃ大抵のメシはマズイ。」
ナツメはレーションじゃなく、桃缶をザックから取り出した。
「桃缶は美味しい。到着するまで缶詰だけ食べてよっと。」
それが賢明なのかもなぁ。だけどずっと缶詰ってのも飽きがきそうだ。………ん?
「二人とも、ちょっと見てみろ。」
オレが指差す先には煙が立ち上っている。
「飯炊きの煙……じゃなさそうだな、兄貴。」
「飯炊きにしては煙がデカ過ぎるし、黒煙も上がってる。プラスチックが燃えてるってコトだ。」
「……でたでた、カナタのトラブル体質。それでどうするの?」
「知らん顔がセオリーだ。オレ達がここで野営するって問題がなけりゃだが。野営中にヒャッハーに襲撃されたかないだろ?」
「ヘッ、兄貴よぉ。ンな事言ってっけど、ここで野営する予定じゃなくても首を突っ込んでたんじゃねえの?」
「かもな。」
「行こ。でも仕掛けるかどうかは相手の数を見てからだけど。」
「そこいらの判断は兄貴に任せるぜ。」
「わかった。リック、包帯を出してくれ。」
「包帯? まだケガはしてないぜ? 何に使うんだ?」
「あや取りでもするの?」
包帯であや取りは無理じゃねえかなぁ。
「顔に巻くんだよ。ヒャッハーを始末しても二人は誰とも話さないでくれ。」
「わかったぜ。」 「うん。」
オレ達は手早く包帯を顔に巻き付け、ミイラ男とミイラ女になった。
「いくぞ。「マムズマミーズ」、出撃だ。」
「マミー2号、了解!」 「マミーガール、了解!」
二人共、ノリがいいねえ。
こんな経緯で、気まぐれで正義を執行する即興部隊「マムズマミーズ」は行軍を開始した。




