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戦役編4話 死ねない理由

戦役が始まり、出撃の日を迎えたカナタ。相変わらずのマイペースですが。



司令の旗艦「白蓮」を中心にした陸上艦隊がガーデンから出撃してゆくのを、丘の上から見送る。


召集された御堂グループの企業傭兵も加わった大艦隊は砂煙を上げながら、赤茶けた大地に轍を刻みつつ、戦場を目指す。


アスラ部隊の全大隊を合わせても師団には足らず、連隊止まりなのだが、財閥の総帥でもある司令がその気になれば師団級の兵力を運用可能なのだ。金持ちってのは、どの世界でも強いらしい。


そろそろガーデンへ帰るか。別働隊の出撃時刻ももうすぐだ。


オレはオフロードバイクのビアンカに跨がり、炎素エンジンのイグニッションを回す。




部屋に戻って軍服に着替え、装備を整える。


忘れ物はないかチェックしよう。……忘れてたよ、大事なコトを。


オレは引き出しから銀のシールを五枚貼ったハガキを取り出し、ポケットに入れる。


出撃前に投函しとかないとな。毎日毎日、やらしい牛乳を飲み続け、やっと銀のシールを5枚集めたのだ。


1枚で応募出来る金のシールはやはり出なかった。自分のツキのなさはよくわかってるから、期待しちゃいなかったが。


いいさ、コツコツ積み上げるのがオレの性分にも合ってる。金のシールが望めないなら銀のシールを集めるまでさ。おっぱいに関しては諦めをしらないオレは目標を達成したのだ。


649号室を出て、兵舎棟間近にあるコンビニ内のポストにハガキを投函、と。


これで帰還してくる頃には、やらしい牛乳のカバーガールの金髪姉ちゃんのヌード写真集が届いているはずだ。


死ねない理由がまた増えたな。カバーガールの金髪姉ちゃんのおっぱいを拝む為に生き残る、か。


童貞貴族にしておっぱい革新党の幹事長たるオレに相応しい「生きる理由」だ。




不知火に搭乗する前に兵站部に寄って、室長に挨拶しておくか。


兵站部長で法律顧問を兼任するヒムノン室長は、ガラス張りのオフィスの中で忙しそうに働いていた。


出撃前だからな、兵站部はてんてこ舞いだろう。挨拶は手短に済ませよう。


ドアをノックし、オフィスに入る。


「おや、カナタ君。そろそろ出撃の時刻じゃないかね?」


「ええ、出撃前に室長に挨拶をしておこうと思って。」


「君はぞんざいなんだか礼儀正しいのだか、よくわからない男だねえ。」


「室長はやっぱりお留守番ですか?」


「私が前線に出たところで足手まといにしかならんよ。司令の不在の間はガーデンの責任者は私になるしね。」


そっか、ヒムノン室長は中佐だった。司令と副司令のクランド中佐がいなければ、そうなるよな。


「ガーデンを頼みますよ、ナンバー3。」


「外敵に備えると言うより、居残りの連中が面倒事を起こさないようにするのが私の役目だがね。」


「ここは前線から離れてますもんね。でも油断は禁物ですよ?」


「問題ないさ。居残りの連中でさえ、一般兵よりはるかに強いのだよ。それに少し頭の回る敵ならガーデンに攻めてきたりしない。ここを陥落させたとしても外征に出ている主力は健在なんだ。そんな舐めた真似をされて、司令が黙ってると思うかね?」


……ですよね~。間違いなく根絶やし確定です。


オレは言葉の代わりに、苦笑いでヒムノン室長に答えた。


「と、いう訳だ。安心して出撃したまえ。戦勝パーティーの準備はしておくから。」


「景気よくお願いしますね。必ず帰ってきますから。」


「帰ってくるのはわかっているよ。カナタ君を殺すのは地上のゴキブリ全てを殲滅するより難しいからね。」


物言いまでガーデン流に染まってきたヒムノン室長はオレの肩を叩いて送り出してくれた。




ガーデンの広場に係留してある鉄の要塞のタラップを上がる。


艦の入り口ではホタルが点呼を取っていた。


「珍しいわね、カナタが出撃時刻の30分も前に乗艦してくるだなんて。」


「雨でも降らそうと思ってね。ここんとこ降ってないから菜園の野菜達が気の毒だろ?」


「私とドクターでちゃんとスプリンクラーを回してますから、ご心配なく。」


一番隊の軍医、ハシバミ先生も土いじりが趣味なんだよな。照京の名家の出だって聞いたけど、野良着を着込んで野菜の世話をしてる姿をよく見かける。


「そりゃそりゃ。コンマワン、ツーのゴロツキ共はもう乗艦してるかい?」


「ええ、引率の先生(シオン)が優秀みたいね。」


「オッケー、さて棺桶(コフィン)に荷物を置いてくるか。」


「カナタは今作戦から個室に移動よ。患…幹部でしょ?」


そういや幹部になれば個室が与えられるんだったな。


「別に棺桶でもいいんだけどな。ところでホタル……今、患部って言いかけなかったか?」


「気のせいよ。まだ2つしか率いる小隊はないけど、カナタは中隊長なんだからデスクぐらいないと作戦検討や打ち合わせも出来ないわ。」


しれっと顔で話を逸らすホタル。ラセン流奥義は1番隊に蔓延しつつあるようだ。実に嘆かわしい。


「そうだな、お言葉に甘えとくか。」


(ただ)れた私生活をしてるって噂だけど、艦内では私が目を見張らせてる事をお忘れなく!」


誤解されてんなぁ。オレは清く正しい童貞貴族だぞ。……貧乳サンドが日常じゃ誤解とも言えないか。


これ以上会話してるとますますボロが出そうだ。幹部用の個室に行こう。


幹部の居住エリアの一番端っこに狼のエンブレムの付いた扉があった。


幹部用の個室は名前じゃなくてエンブレムなんだよな。


マリカさんの艦長室は蜘蛛のエンブレムだし、ラセンさんは螺旋状の炎、ゲンさんはタガメ、ホタルは蛍、シュリは……メガネかよ。セミじゃねえのか!どんだけ眼鏡キャラを押し出してきてんだ!


友のキャラ作りに呆れながら狼のエンブレムに手の平をあてると、ドアが左右にスライドして開いた。


ここがオレの部屋か。広さは6帖ほどで、備え付けのデスクとベッドに冷蔵庫。


ボタン一つでベッドは収納されるし、デスクも机も壁に収納される。さらに畳敷きの部屋に模様替え出来る仕掛けまであるんだとか。後からシュリに教えてもらおう。日本人のオレは、やっぱり畳敷きが落ち着くからな。


そんであの扉がシャワールームの入り口、と。棺桶に比べれば格段に過ごしやすそうだ。


棺桶は棺桶で悪くないんだけど、せっかく個室をもらったんだ。有効活用させてもらおう。


荷物を置いて椅子に腰掛けてみる。窓の外に沈みゆく夕陽が見えた。


そっか、棺桶と違って窓があるんだよな。


ブゥンと音がして、デスクの上のディスプレイにマリカさんの顔が映った。


「カナタ、個室をもらった感想は?」


「窓があるのが最高ですね。」


棺桶(コフィン)に入ったコトのないマリカさんには、窓のある有難味はわかんないだろうなぁ。


「変なところに感動する奴だねえ。出撃してから30分後に幹部でブリーフィングをやる。リリスを連れて作戦室にこい。」


「アイアイ、マム。」


さて、どういう作戦がオレ達を待ってるのかね。




オレ達を乗せた不知火を先頭に、別動艦隊はタンブルウィードが転がる大地を行軍してゆく。


アスラ部隊の陸上戦艦4隻に、御堂グループの企業傭兵達の巡洋艦10隻加えた総勢900名の軍団。


もちろん指揮を執るのはエースのマリカさんだ。


「少尉、御堂グループの企業傭兵ってどのぐらいデキる連中なのかしらね?」


作戦室に向かう道すがら、不知火に続く艦隊を見やったリリスにそう聞かれる。


「司令の子飼いの傭兵達だからな。オレ達ほどじゃないだろうけど、一般兵よりは強いはずだ。」


「そうね。有象無象を寄こされても却って迷惑だもん。」


10歳児に有象無象呼ばわりされる一般兵も立つ瀬がねえな。


ま、このちびっ子参謀のリリスさんは世界最強の10歳児なんだけどな。


作戦室には幹部達が集結していた。オレはシュリの隣に腰掛ける。


リリスは当然のようにオレの隣に座ったが、ちょっと唇を尖らせた。


肘掛けがないのがお気に召さなかったらしい。司令の幼少期もこんなだったんだろうなぁ。


最後に入ってきたマリカさんが幹部達を見渡し、ホタルに目で合図した。


「揃ってるみたいだね、さっそく始めようか。」


大机の表面がディスプレイ表示に変わり、地図が表示される。


この青い三角マーカーがオレ達、赤い三角マーカーが……敵か。まだかなり離れてるな。


「アタイらは既に敵と交戦中のヒンクリー師団に合流して作戦行動に移る予定だったが……」


だったが?


「予定外の事態が生じたんですね?」


シュリの問いにマリカさんは頷く。さっそくアクシデントかよ。


「どんなアクシデントですかのう?」


ゲンさんがそう言うと、マリカさんはタッチパネルを操作する。


すると赤い光群の一部が別れ、こちらに向かってきている図に変わった。


「……これは陸上艦隊か。我々の進軍を阻止するつもりとは笑止な。」


ラセンさんが不敵に笑い、紫煙を吐き出す。空気清浄機を作動させながらシュリが質問した。


「マリカ様、敵はどの程度の戦力なんですか?」


「准将の話じゃ戦艦5隻、巡洋艦15隻ってところらしい。車両がゼロで艦船だけって事は、おそらく艦隊戦を挑んでくるつもりだねえ。兵隊同士の殺し合いじゃ分が悪いって踏んでるんだろう。」


「マリカ、どうするつもりなの?」


腕組みしたちびっ子が思案顔で訊ね、マリカさんは素敵なおっぱいを震わせながら胸を張る。


「艦隊戦がお望みなら受けて立ってやるさ。」


艦隊戦となると歩兵の優劣は関係なくなる。大丈夫かな?


「マリカさん、艦の数は敵のが多いですよ?」


艦の数が多い、それは砲門の数も多いってコトだ。


なんとか白兵戦に持ち込む方法を考えた方がよかないだろうか?


「カナタ、艦隊戦も数より質だ。僅かに優位程度の数の差なんざ目じゃないのさ。」


「そんなものですか。艦隊戦ならオレの出番はなさそうですね。楽でいいや。」


「そうは問屋が下ろさないよ。カナタの出番はあるんだ。」


「オレはなにをすればいいんですか?」


「その時が来たら教える。」


ええ~、今教えてよ~。オレにだって心の準備ってものが……


「マリカ、今の速度のまま双方が行軍すると、激突は三日後ってところかしら。」


唇に右拳をあてながら人間演算器のリリスが計算を済ませる。


「そんなもんだろうね。足止め部隊を叩き潰してからヒンクリー師団に合流。そこからの作戦は准将と相談しなきゃなんないだろう。」


ヒンクリー准将と相談、か。上手く機会を作ってリックを准将に会わせてやれないかな。


リックは准将と比較されるのを嫌ってるけど、准将を嫌ってるってワケじゃないみたいだからな。


「各隊に二級戦闘態勢を取らせておけ。以上だ。」


三日後からドンパチ開始か。艦隊戦は初めてだな。


どういう戦いになるのか、よく勉強しておこう。




そして行軍する事三日、リリスの計算通りに敵艦隊が現れた。


広い平原で待ち受ける敵艦隊。ここで戦うつもりらしい。


ブリッジには幹部が集まり、メインスクリーンに映し出された鋼の要塞群を凝視する。


敵艦隊の砲塔が回転し、こちらに照準を合わせたようだ。




「破壊の嵐」作戦の開幕は艦隊戦からか。派手な戦いになりそうだぜ。




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