出張編30話 楽しいデートのお約束
リリスはデートのやり直しをしたいようです。
ビッグゲームを楽しんだ週末が終わり、カリキュラムが再開される。
夕方からはヒムノン少佐と交代したリリスに振り回されるのを覚悟していたんだけど、そんなコトはなかった。
もちろん一緒に夕食を取ったり、軽く街を散策などはしたけど、ほとんどオレの勉強の面倒を見てくれてた。
今日もホテルの部屋でオレの家庭教師をやってくれてる。
ありがたいんだけど、申し訳ないような気がしてきたので尋ねてみた。
「なあリリス、週明けからずっとオレの家庭教師をやってくれてんのは感謝してるんだけど、いいのか? せっかくの大都会でのバカンスだぞ?」
リリスは鉛筆をクルクル回してる手を止めて答える。
「准尉がマジメに勉強してるみたいだから手を貸そうと思って。ねえ、准尉。提案なんだけどカンニング抜きで試験を受けてみたら?」
「オレはそこまで自信家じゃない。保険はかけておきたい。」
「駄目でもイスカが下駄を履かせてくれるんでしょ? 保険は効いてるじゃない。」
「司令にこれ以上借りは作りたくないんだよ。しっかり取り立てられるに決まってんだから。」
リリスは鉛筆回しを再開しながら、怖いコトを言ってくる。
「私への借りに利息がつかないなんて思ってないでしょうね?」
利息がつくんかい。
「勘弁してくれよリリス。ただでさえ方々に借りを作ってんのに、おまえにまで利息をつけられたら、貸し出し超過で債務不履行になる。」
「私への借りは体で払ってくれればいいわよ?」
いやん、オレってばなにされちゃうの!? いや、ナニされたらアカンだろ!
「冗談でもそういうコトは言わない!ホントませてんだから。」
「冗談じゃないんだけど? ま、冗談ならぬ本気はさておき、試験は授業で受けた範囲からしか出題されないわ。今の准尉の頑張りぶりなら、余裕とは言えなくても合格点は取れると思うのよ。」
「冗談にしといてくれ。本気になるのは10年後にな。その時は前向きに考えるからさ。」
「6年後、そこまでなら妥協してもいいわ。」
………コイツ、オレを婿にする気満々かよ。………嬉しいけど。
「オッケー、6年後だな。試験の話だけどオレに期待すんな。勉強は苦手って言っただろ?」
高校受験に失敗して親から見放されたトラウマがうずくんだよ。
ペーパーテストが上手くいくイメージが持てない体なんだ。
「だからよ。どうもペーパーテストにトラウマがあるみたいだけど、准尉はやれば出来るコよ。トラウマ払拭の為にも自力で勝負してみたら? きっと出来るわ、明確な根拠があるんだから。」
「明確な根拠とやらがなにか聞いていいか?」
リリスは回してた鉛筆を置いて、年齢のハードルを跳び越したくなる笑顔を見せてくれる。
「勝利の女神と美少女家庭教師を兼ねた私がついてるから。………ね? 頑張ってみない?」
………頑張ってみるか。こっちの世界では期待に応えられる男を目指してんだ。
それが可愛い小悪魔の期待ならなおさらだ、男を見せる時だぜ。天掛カナタさんよ。
リリスの期待に応えるべく、オレは真剣にカリキュラムを受講し、終わってからはまっすぐホテルに帰ってちびっ子家庭教師の指導の元、予習復習に励んだ。
今日は土曜でカリキュラムは休みだってのに、リリスは朝から勉強に付き合ってくれてる。
「うん、上出来とは言えないけど、試験をクリア出来るぐらいの力はついてきてる。この調子よ。」
リリスの上出来って満点なんだよなぁ。高いハードルだよ。
「リリスってテストで満点以外とったコトないだろ?」
「98点が一回あるわね。女子高の入学テストで。」
へえ、このインテリチートでも満点以外をとったコトがあんのか。
「リリスでも間違えんのかよ。ちょっと安心したぜ。一応、人の子だったんだな。」
「一応ってのが引っ掛かるんだけど、出題が間違ってたからどうにもならないわ。」
「は? 出題が間違ってた?」
「歴史の選択問題だったんだけどね。試験の二日前に定説を覆す論文が発表されてたの。新たに発見された資料の裏付けもあったから、定説が間違ってたって事になるでしょ? それで「どれも間違っている。」と解答したら不正解にされたわ。」
「おまえ史学の論文なんか読んでたのかよ。いや別に不思議でも意外でもないが。」
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶって言うでしょ?」
………オレは多分、いや確実に前者だろうな。
「それでどうなった? おまえのコトだから毒を吐いたんだろ?」
「論文の載った学芸誌を持っていって学園長相手に、「名門女子高の試験作成教諭ともあろうものが、歴史の学芸誌さえ読んでなかったとは驚きだわ。」って言っただけよ。」
………学園長の渋面が容易に想像出来るな。
「そんでどうなった?」
「学園長曰く、「その新説はまだ学芸誌に掲載されただけです。学界の定説が覆った訳ではないのだから、現時点の定説に基づいて解答すべきだったのよ、こまっしゃくれたお嬢様。」だってさ。」
「どう返した?」
「98点で問題ないわ。この程度の学校に入学しようとした私の不明を減点すべきだからって言ってやったわ。」
まあ憎ったらしいコト。
「そんでも入学はしたんだろ?」
「ええ。准尉も知っての通り、三日でクビになったけど。」
「さぞかし学園長もホッとしたろうな。」
「私もせいせいしたわ。人生を浪費するのは構わないんだけど、不快な気分で過ごすのは主義に反するから。」
怠惰は美徳って言い切るだけのコトはある。
「スマンね、怠惰が美徳なのにオレの勉強に付き合わせちまって。」
「准尉といるのは楽しいからいいのよ。生まれついての道化師なだけあって、私生活だけで笑わせてくれるから。」
「生まれついての道化師じゃねーよ!オレはリリスの娯楽の為に生きてんじゃないからな!」
「結果として娯楽になってるだけよね、可哀想。」
コイツに口で勝てるヤツは惑星テラだけじゃなく、地球にもいねえだろうな。
話題を変えて逃げる以外に方策はないか。
「さて、そろそろ夕食に出掛けようか。」
「今夜はルームサービスよ。深夜までみっちり勉強だからね?」
「頑張りすぎもよくないとか言ってなかったか?」
「明日は私とデートでお勉強はナシだから、その分前倒ししなきゃね。先週はとんだお邪魔虫が二人も来ちゃったから、今度こそ二人っきりでデートのやり直しをするの。」
食事や散策で結構二人っきりで出掛けてるけどねえ。
リリス的にあれはデートにカウントされてないのか。
「ずっと勉強に付き合ってもらってるから一日ぐらい足と荷物持ちを務めんのに異存はないけど、試験は大丈夫かねえ。」
「予定通り進行してるから無問題。こんな美少女とデート出来るんだから、もっと嬉しそうな顔しなさいよ。」
リクエストに応えて、オレは笑顔を作ってみた。
「キショ。変質者みたいな顔が変質者そのものの顔になったわ。」
「いうにコトかいて変質者かよ!とにかく明日ペントハウスに迎えにいけばいいんだな。」
「現地で直接待ち合わせよ。ラビアンローズの喫茶店「トランクイッロ」に11時ね。」
ラビアンローズって高級デパートだよな。元の世界のハロッズみたいな。
伯爵令嬢のリリスらしいチョイスだけど………
「おんなじホテルに宿泊してんのに、なんでわざわざ待ち合わせ?」
「その方がデートっぽいでしょ? 私は百貨店で先に買い物を済ませとくから。」
「買い物ぐらい付き合うよ。荷物持ちはどうせオレだろ?」
「あらいいの? 私の買い物ってランジェリーなんだけど、付き合ってくれる?」
「………遠慮しとく。11時に喫茶店で待ち合わせな?」
「そう、喫茶店で落ち合ってから軽くお茶してどこかでランチ。それからアクアリウムに行きましょ。深海魚が見たいから。」
熱帯魚じゃなくて深海魚かよ。おもっしろい女の子だわ。
「オッケー、アクアリウムの後はプラネタリウムってのはどうかな?」
「あら、准尉にしては珍しくロマンチックじゃない。………ははぁん、さては暗がりをいいことに、私とイイコトしようってんでしょ? イヤらしいわね。」
あ、頭が痛くなってきたぜ。
そんなこんなで明日はリリスとおデートと相成った。
倫理的には問題かもしれないけど、楽しみなモンは楽しみだ。明日は晴れるといいな。
今日は久しぶりに作者も都会に飲みに行ってきます。
 




